はぐメタさんは逃げるが役に立つ
「名状しがたきプロローグのようなもの」の続きとなります。見てない方は先にこちらをどうぞ。
:紬視点
「ふぁ......ねんむい」
それにしても、随分懐かしい夢を見たなぁ。私が初めてここに来た日。昨晩のように大宴会が開かれて、騒いだものだ。そう言えば、この宴会も幻想郷移住半年記念、という名目だったのを思い出した。
実際は、ただの宴会の建前を探しているだけだったりする。するんだけど、ワイワイと祝ってくれるのはやっぱり嬉しい。そうして微睡みつつ、喧騒の消えた悲しさのようなものを噛み締めていると。
「くぁ.....あ、紬さんおはようございます」
「んー?文か......うん、おはよう」
「はー.....すんごく眠いですけど、今日の朝刊配ってきますね。はい、一刊目」
「ありがと。あ、あとさ」
「なんです?」
「宴の宣伝ありがとね。さすがは幻想郷最速」
「まあ、それほどでも?」
少し照れているのか、はにかみながら神社の境内へと出た。また会いましょうねー、と手を振りながら文は新聞配達(善意)に向かっていった。
別に、悪意に塗れていると思っているわけでは無い。決して。
「ふぁぁ......うー」
「随分とかわいいあくびなのね、紬」
「咲夜、起きてたんだ」
「ええ、さっきはちょっと.....お花を摘みにね」
「ふーん。レミリアたちはまた寝てるの?」
「お嬢様達は仲良く寝てるわ。美鈴も一緒に川の字になって寝てるわ。休暇だからって、だらけ過ぎなければいいけど」
「あ、そうだ。レミリアたちの朝ごはん....夕ご飯って今日もフレンチトーストでしょ?」
「そうね。大好物だもの」
「じゃあさ、.....っ」
懐からナイフを取りだし、素早く腕に傷をつけ、その血が滴り落ちる前に小瓶に注ぎ入れる。 最後にコルクでキュッと栓をし、咲夜に渡す。
「はい。ラズベリーソースに私の血を入れたら?」
「ちょっと吃驚したわ。治るって、わかってても」
「あはは.....ごめんごめん」
「まぁ、ありがたく貰っておくわね」
「私の血は美味しいからね。自分でもそう思うし」
血が滴る腕をぺろっと舐め、そう話す。
もうすでに血は止まっており、傷はもう見えなかった。
これは、『程度の能力』と呼ばれるものだ。目の前で血が美味しいという私の言葉について疑問を覚えている咲夜にもそれはある。『時間を操る程度の能力』である。時空間操作なんて、あらやだチート!と思うだろう。実際、人間の中ではかなり強力な能力だが、私はもう無力化してしまった。
能力のからくりも解けた今、そんなに使って欲しくはない。
「......?どうかした?」
「えっと、わたしもフレンチトースト食べてもいい?」
「もちろん。腕によりをかけて作るわ」
「うん。時間をかけて、ね?」
袖をまくり、ぐっと腕を曲げるジェスチャーをしながらそう言った。相変わらず可愛いと思う。思わず微笑んでしまう。咲夜が生きている間、できるだけ笑顔のままでいたいと思っている。そうすれば、彼女も同じように笑ってくれていると信じているから。
「うー......もう朝ぁ?眠いのだけど....」
「レミィ、朝はフレンチトーストだと咲夜が言ってたわよ」
「ほう?なら、行くしかないわね!」
「相変わらずお子様趣味ね」
咲夜がキッチンに向かって数分、レミリアとパチュリーの声が聞こえた。どうやら、朝食のことを聞きつけてきたらしい。
「ん、紬じゃない。おはよう」
「おはよう、レミリア、パチュリー」
「おはよう。あなたもご飯を食べに来たの?」
「うん。あ、レミリア、今日はね、ソースに私の血が入ってるよ」
「ほんと?それはめっちゃ楽しみね、フランも呼んでこなくっちゃ」
きらきらと目を輝かせたレミリアは、眠気を感じさせない元気な足取りでフランを起こしに向かった。パチュリーはコーヒーを煎じていた。
「パチュリー」
「なにかしら」
「おへそ出てるよ」
「........そ、そう」
顔を赤くしながら、俯いてしまった。まさに、むきゅう....という、効果音が似合うだろう。
パチュリーは大体、紫のゆったりとした服に、薄く薄紫色の服を通している。あまり、肌の露出は少ない方ではあるが。今は、暑かったのか薄いひらひらとした寝巻きに着替えており。綺麗な体をしているのだな感じるほどには、その。見えてしまっている。
コーヒーをポッドに移したところで、さっさといつもの服装に戻ってしまった。(魔法かな?)
「.......ねぇ」
「んー?なに?」
「次の.....お茶会だけれど」
「うん」
「あ、あなっ....,あなたも、来る?」
「いいの?行く行く!魔法の森でしょ?」
「ええ。.....(良かった」
「良かったって、何が?」
「ぅ......それは、その....」
なぜかはわからないが、湯気が上がりそうなほどに目を回し、顔を赤くしている。さっきのかまだ恥ずかしいのかな?それとも、いつもの服に着替えて暑いのかな?
私は鈍感じゃないと自負しているので、多分そのどちらかだろう。
パチュリーがあわあわしていると、二人分の声と駆けてくる音が聞こえてきた。
「ごはんごはん♪あ、紬!ねぇねぇ、聞いて!朝ごはん、フレンチトーストだって!」
「うん。私も楽しみだよ」
「それに、今日は紬の血が入っているから、格別でしょうね」
「わーい!」
無邪気に喜ぶフラン。レミリアも、冷静にしてはいるが羽がパタパタとして、体か少しゆらゆらしている。機嫌がいい時の癖だ。これでも五世紀近く生きた吸血鬼、五歳差の姉妹なのだから驚いたものである。
しかし、根は見た目通り子供のような感じだ。もともと吸血鬼という種族自体、精神と肉体の成長が遅く、大体が幼いらしい。
というより、成長が遅い上にまだ種族自体が千年も存在していない今、どんなに最後の者でも中学生ほどらしい。
そんな吸血鬼の特徴やら歴史やらを考えていると、昨夜が料理を終えたようだ。
「お嬢様方、朝食の準備が整いました。こちらへどうぞ」
「早く行きましょ!」
「わぁーい!ごっはんー!」
「仙桃、とってきてよかったぁ」
「甘さ控えめよね」
「ええ。そこら辺の配慮は当然」
パチュリーもなんだかんだで嬉しいのか、笑顔を浮かべながらテーブルに着いた。コーヒーや牛乳、紅茶が用意されていて、姉妹はコーヒーを選んだ。レミリアはミルク入りだけれど、フランは意外とブラックが飲める。
私は紅茶、パチュリーは先程のコーヒーを続けて飲んでいた。
「それでは、いただきます」
「「「「いただきまーす!」」」」
いただきます、西洋の館だけれどちゃんとあるのが面白い。と、そんなことは今はいい。食べないと冷めちゃう。ナイフとフォークで一口分(口が小さいので少ないけど)切り、パクッと食べる。
美味しい。私はあんまりパンの食感が失われるのは好きじゃないけど、これはしっかりと感じる。ソースに絡めてもう一口。うん、天子と一緒に盗って.....ごほん、採ってきた仙桃はしっかりと甘く、やわらかい。ソースにも果肉は入っており、その旨みがそのままに出せている。
うん、美味しい。私の血とも相性がいいのはさすが天界の果物って感じだね。
「美味しいわね」
「おいしー!ふわふわで、とろとろー!」
「ソースの味もちょうどいいね」
「飽きない味よね」
「ありがとう」
そう言えば、いつからかレミリアたちがいても敬語ではなくなった気がする。それまでは鉄面皮をしているかのように、つんけんした態度だっだような。
美味しさと疑問を感じながらも食事を終え、一休みしたところで。そろそろ紅魔館に帰るようだ。
「またねー」
「絶対に来なさいよ。いた方が楽しいもの」
「またねー、紬!」
「また、お茶会でね」
「次は和食でも作ろうかしら」
口々に別れの挨拶のようなものをいいながら、紅魔館へと帰っていった。その後、天子や幽々子、さとりなど次々に起き、それぞれまた会おうと口にして帰って行った。
そして、この神社の巫女さんはまだぐーすかと寝ていた......ので。
「こらー、霊夢起きろー」
「あと.....一日」
「起きなければ、恥ずかしい秘密を五分ごとに言っていく」
「...........え?」
「はい、一つ目。霊夢の部屋の引き出し、一番下の右から三番目の中には私たちとの思い出の日記が──────」
「起きましたぁ!?」
「よろしい」
おお霊夢、一つ目の秘密で起きるとは情けない。なんてね?今日は永遠亭と香霖堂に用事があるから、霊夢にはご飯作ってもらわないと。ちなみに、この世界の霊夢は料理が人並にできる。
よく二次創作ではぐーたらな所が描写されるけど、意外。私はどうなのかって?すべて妹ちゃんがお世話してくれるから問題は無い。この世界では霊夢が代わりかな?というわけで、少しゆっくりしてからご飯を作ってもらった。
え?フレンチトースト?あれじゃ足りないよ。別に、生きるのに必要な量だし、問題ない。そもそも、成長以外の身体変化がそんなにないしね。え?うらやましいか?俗に言う太らない体質の私がうらやましいか?
「いっただっきまーす!」
「召し上がれ」
「むぐむぐ、うむ、うまいうまい」
「そう?みすちーとかには劣るけどね」
「うん。妹ちゃんの方が美味しいけど、これも美味しい」
「そういうの、あんまりいいと思わないけど」
「ぁ、ごめん。と、友達とか、やめたりしない?」
「いや、それはしないけど。ほら、あれよ。親しき仲にも礼儀ありよ」
「そうだね、うん。霊夢のご飯は、美味しい」
「それでいいのよ」
そういえば、友達が増えたのもここに来てからだなぁ。向こうにも数人はいるけど、片手で数える程だし。
霊夢とか魔理沙とか、そういう空想だと思っていた人と友達になれるのは嬉しい。そんなことを考えながら、ブランチのようなものを終える。
「ごちそうさまでした!」
「お粗末さまでした」
食器を台所に置き、この前購入したらしい洗剤につけておく。意外に河童の発明や霖之助さんの商品、それと普通の人間が発明したりして不便はない。最近洋式トイレのようなものがにとりから送られてきた。
水は冷たかった。私は少し嫌だったが、霊夢がひゃっ、と可愛い悲鳴を上げていたので良しとした。
「んじゃ、行ってきまーす」
「毎回言うけど、あんた見た目はいいんだから、気をつけなさいよ」
「見た目はって、『は』ってなんなの?」
「いいから、行ってらっしゃい」
「釈然としないなぁ」
皿洗いをしつつもこちろの心配をして玄関口まで来てくれた。そういう細かいところは優しいのが、霊夢のいい所。壁にかけてあるいつものパーカーを手に取る。パーカーを着込んで、靴を履く。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
玄関を出て、境内の開けた所へ出る。
そしてここで手に入れた、子供の頃一度は夢に見た力。そう、『魔法』を使い、空を飛んで移動する。詠唱などは私はあんまり使わない。いちいち覚えられないし。幽霊のようにずっと空に浮かんだ。
「とりあえず......先に永遠亭に行こうかな」
永遠亭の方向に向き、加速する。弾丸のように、とまてまはいかないかもしれないが、なかなかのスピード。
魔法で軽減しているとはいえ、風で髪が靡く。髪を結んだ方が良かったかも。でも、そういうの妹ちゃんにやってもらってたから自分でできない。思ったより自分はダメダメなのかもしれない。
そうして、雲を突き抜けること十数分。迷いの竹林が見えたので、とりあえずそこに着地する。某クエストのル○ラみたいなイメージかな。ふわっとね。迷いの竹林の景色も好きなので、歩くことにした。
「........ん?」
目の前の地面に違和感。ん、多分これは....私、幸運だな。
「おーい、てゐー!いるんでしょー!」
「.......ぬ?」
「お、いたいた。てゐ、久しぶり」
「おうおう、紬。なんで落とし穴避けてるのさ!」
「え、だって仕返し嫌でしょ?」
「う....そうだね」
近くから見てたのか、茂みからぴょんっと出てきたのは因幡 てゐ。幸運ウサギとも呼ばれてるてゐは、よく悪戯をするが。文字通り迷いやすい迷いの竹林というこの場所で、案内をしていたりもする。
二つ名の由来の一つに、てゐにこの竹林で出会えたら幸運だからっていうのがある。彼女を見つけさえすればここから出られるからだ。
「てゐ、早速だけど案内できる?」
「いいよ、最近人来なくてさ、暇してたんだ」
「じゃ、永遠亭までよろしくね」
「うん。あ、鈴仙は大丈夫だけど、他のお二方には気をつけてね」
「どうも」
まあ、輝夜はいつもの事だとして.....永琳なんだろう。輝夜みたいに構えという訳でもあるまいし.....まさか、鈴仙だけでは飽き足らず私まで実験台に!?私はだめだぞ!鈴仙ぐらいがちょうどいいんだ!そもそも、私薬効きにくいじゃん!
「およ?行かないの?」
「へっ!?あ、うん。行くよ、行く行く」
「じゃ、こっちこっち」
てゐの後を着いていく。随分サクサクと進むよね.......覚えてるのかな、地形。頑張って覚えようとしてみながら歩いたけれど、あれ?あれ?となっているうちに着いてしまった。
旅館のような出で立ちの永遠亭。妖怪というか、人外にしては好意的な場所。里の病人が運び込まれたりもするし.....里に薬屋として出向くこともある。言わば、幻想郷の病院なのだ。
「鈴仙ー!紬きたよぉー」
「あれ、今日って薬屋の日じゃなかったっけ」
「そうだっけ?忘れちゃった」
「ま、鈴仙には後で会うよ。輝夜達はどこ?」
「姫様たちはね、確か姫様がゲーム手に入ったとかで居間でやってたけど」
「ここ、意外と技術高いところにいるよね」
二人でやるってことは......テレビゲームが手に入ったのかな?この前まではP○Pで某狩人をソロでやってて、すごくかわいそうだった......。
友達がいない奴(私もそんないなかったけど)に同情しつつ、永遠亭へと足を踏み入れた。
「────あのね、永琳。ここの操作はバフじゃなくて追撃でしょ?」
「いいえ?輝夜が攻撃したんだから敵のカウンターを防ぐためにもあなたにバフを────」
「───あいつのパターンにはカウンターはないの!ガンガンいこうぜ作戦で行けたわ!」
「いえ、あれの動きには─────」
「そんなことはなくてね、今のは────」
ふむぅ?どうやらマルチプレイで揉めたのかな?話を聞く感じ、永琳の行動についてみたいだけど。めっちゃガチでやってるんだね。うん、ちょっと黒歴史が......。あれは三年前の夏....妹ちゃんと喧嘩した....うっ、頭が.....。
「─────そうでもしないと.....って、聞いてるの?」
「その......あれ」
「え?」
「紬......来てるわよ?」
「..........えぇ!?」
ん?少し黒歴史に苦しめられている間に向こうはこちらに気づいたようだ。なんでかはよくわかんないけど、慌ててる感じ。えっと、ああ。ゲームに熱中してるの見られるの恥ずかしいタイプの人か。別に、私もよくやるから平気なのに。
「や、久しぶり」
「こほん。ええ、二ヶ月ぶりかしら」
「そうだね。相変わらず、最近は異変もない平和な世界だよ」
「異変より、外の世界の遊びの方が暇を潰せるわ」
「何してんの?今は.....モン○ンしてたみたいだけど」
「......!まあ、いろいろと?ドラ○エでしょ、FFにダークソ○ル、あとあと....」
「待って待って、分かるよ、だから落ち着こう?」
やばい、輝夜がゲーオタの域に達そうとしている。永琳も隣で「また始まったわね」って呟かないでよ。とりあえず中に入れてもらい、改めてお話を。
「で、紬。なんでやってきたのかしら?」
「えっとね......いつものを取りに」
「.....あぁ。それだけ?」
「いや、あとは輝夜たちに会いにかな?」
「.......オーバーキルしないで」
「え?」
「まあまあ、紬。ほら、一応診察するわよ」
「はーい」
よくわからないが、とりあえず。
私は永琳の診察室へと場所を変えるのであった。
すみません、また大幅に遅れてしまいましたぁ!