富士山の上でおにぎり食べる僕以外の百人
すみません、想定以上に長くなり、そのため遅れました!でも内容はいいものになったので許して下さい!
──────日本のどこかの山奥
普段、都会で暮らしているとなかなかイメージしづらいものであるが、都会から少し外れればそこには自然豊かな景色が広がる。
また、人間はそんな美しく神々しい自然の中に『神性』を見出し、祠や社を建て崇め奉った。神や精霊等と呼ばれるその信仰は、現在でも世界中で行われている。
中でも日本は珍しい事にどの宗教にも囚われないという姿勢をとっている。それも相まってか、各地で様々な信仰が大小兼ねて行われており、もはや、日本では山中に神社や祠があるのは何ら不思議ではないだろう。
パワースポットとして、人が賑わうところ、信仰が廃れたところ。切り開かれた大地に存在する威厳のある姿を見せる神社もあり。
木々に覆い隠され、人々、果てはその自らの神性すら忘れ去られ、忘れられた神社もある。
そんな中、後者―――すなわち、廃れた神社の一つに、奇妙な都市伝説が流れた。
『日本のどこかの山奥に、廃れた神社がある。そして、その鳥居をくぐると──────
「―――――忘れ去られた者たちの楽園に誘われるらしい』って、どう考えてもアレだよね?」
そして。その都市伝説にある『可能性』を思い出した一人の少女―――天綺 紬は、まさに今山を登っていた。彼女は『いろいろ』あって、この山のふもとの記録を片っ端から調べ尽くすことが可能であり、尚且つそうした。
その結果、無駄な山の知識とそこまで....いや全く実用性のない付近の情報というおまけ付きで、この辺りの伝承が判明した。
在り来りな話だ。『神隠し』、ある日突然まるで初めからいなかったかのように忽然と姿を消す現象。その場所の一つがこの山の古い神社らしい。
昔は信仰も多かったようであるが、妖怪というものの噂で廃れたらしい。なんでも、その神社の巫女は妖怪だとか、妖怪の仲間だとか色々あった。そして、人が寄り付かなくなり、人々の記憶からも徐々に薄れていった。
仕舞には、巫女すらも神隠しに会い、気味が悪い、呪われているということでこの神社は長らく放置されることとなったらしい。
「まぁ......そういうの、ないとは言い切れないからね。悪魔の証明ってやつ?」
紬は記録から引き出した情報を頭の中でまとめ、辿り着いた結論に呆れたような、それでいて浮かれたような顔を見せる。知っている方は多いだろう。『東方Project』。とある神主が作り上げた、今でもファンを獲得し続ける神ゲー。
毎年それにちなんだイベントや祭りが開催され、多くのユーザーが集う、ジャンル化されつつあるもの。この伝承は、それなのだ。鈍感な主人公君もいるかもしれないからもう一度、はっきりと言おう。
この伝承。『東方Project』という作品の舞台、幻想郷。そこへ行くための方法、日本のどこか山奥にある博麗大結界を探す。少々の違いはあるものの、概ねその伝承は、忘れられたものたちの楽園、幻想郷に行くための方法であった。
一種の肝試しのような、そんな雰囲気。仲のいい家族や友人を連れて、ワイワイして、ちょっとしたことにびっくりしたりして。確かに、そうするはずだった。途中まで、そうだった。
「それにしてもさ、ほんとに神社あるんだね」
「うん。まあ、私調べたしね」
「.........くぅ」
「立ったまま寝るな!?」
「おなかすいたんだけどー」
「あのー....私疲れました....」
「相変わらず欲望に忠実すぎるね!」
一癖も二癖もある仲間は、それぞれのルールで動いていた。
紫の髪と水色の瞳をした少女は、半目になり、耐えきれず立ったまま寝た。
緑色の髪、紅い瞳の少女はおなかを可愛く鳴らした。
赤い髪に黄色の瞳をした少女は岩に腰掛け、足をぶらぶらさせている。
それにツッコむ白い髪に金色の瞳の少女。この中では一番幼く見える。
そして、彼女らを横目で見つつ神社の全体を眺めているのが黒髪黒眼の少女、天綺紬。
「うーん、そこまで変な感じはしないけどなぁ?」
小首を傾げ、頭の上に『?』を浮かべる。
後ろからはまだ騒ぐ声が聞こえる。白い髪の少女のツッコミは絶えない。
「ねぇ、ちょっと神社行ってきていい?」
「あ、うん。ねーさま、気を付けてね」
「ふっ、この私が!負けるとでも!?」
「おやつ抜きで大泣きしたのって誰だったっけ?」
「......気をつけ、ます....はい」
コント染みた掛け合いをしつつ、紬は神社へと向かう。その時、ふっ......と風か止んだ。心なしか、神社....中でも鳥居が鮮明に見える。
鳥居の前まで来た。時が止まったように、自分の足音のみが聞こえる。
後ろの喧騒はもう聞こえなかった。しかし、何故か振り向くことはしなかった。
「......?」
鳥居をくぐる。何かを潜り抜けたような感覚がする。まるで微睡みの中にいるようで、意識がふわふわとする。
そこにはもう、天綺 紬はいなかった。
「おーい、ねーさまー!.....あれ?」
「ん......どうかした?」
「ね.....」
「ね?」
「ねーさま、消えちゃったぁ!?」
「「「え?」」」
そして、この世界から天綺紬は、消えた。
―――――――――そして。
「ん、んんぅ.....おん?」
「あら、起きた?」
「........へ?」
「そんなに驚くことあった?」
「ぇ、だって、は、はく、博麗、霊夢....ぅ?」
「えぇ?そうだけど?」
「え、あ、その。.......ふしゅう」
「ちょっ!なんで気絶してんの!?」
忘れられた者たちの楽園、近くも遠い幻想の地で、天綺紬は目を覚ました。そして、あえてこの二つ名とともに紹介しよう。
『素敵な楽園の巫女さん」こと、博麗神社巫女。博麗霊夢に出会った。
これは、彼女が無双する話でも、何かを成し遂げる話でもない。
友達百人作って、富士山ではぶられる話でもない。
これは。.......ここは。
彼女が過ごす、楽園での、日常のお話。
※この物語はフィクションの中での出来事です。
※実際の人物、団体、出来事との関係は不明です。
「あ、Bパートへ続きまーす」
「いや、これ終わる方向だったよね!?」
「尺、余っちゃった♪」
「シリアスは.....守れない、の....!?」
「シリアスブレイカー、見参!」
――――――――――Bパート
:紬視点
「うにゅ?」
「あら、起きた?.....デジャヴね、このセリフ」
「んー?.....わわっ!......いたいっ!?」
やっぱり、夢じゃなかった。
幾度となく夢に見て。嗚呼、この世界にいたら。この世界に行けさえすればと、どんなに願ったことか。ありえない。本当にありえてたまるかという状況だった。
感情が上手くまとまりきれない。嬉しいけど、不安を感じてて、身が竦むようで心が弾んでいる。まるで夢のような感覚だけれど、はっきりと現実だと認識できた。
「..........」
「ねぇ、大丈夫?さっきから」
「う、あ、と。......うん」
(目の前であの!あの博麗霊夢がしゃべってる!わぁ.......わぁ....)
憧れの、まさに幻想の住人である人物を目の前にしてどもってしまった。妹ちゃんの配信出てるはずなんだけどな。それとこれとは違うか。
「色々察するに、外来人みたいだけど」
「え、あの。ここ、幻想郷であってますよね?」
「..........ん?」
「それに、あなた博麗霊夢ですよね?あの、博麗の巫女の」
「.......んんぅ?」
「あ、自己紹介した方がいいですよね。私の名前はですね―――――」
「――――――ちょっと、待って」
「はい?」
ぺらぺらと、うるさかっただろうか?オタクのあの捲したてるような喋り方をしていたし。
お嬢様モードがいいのか?やっぱり、この世界でもそうなのか?
「喋り方がだめですか?言葉遣いなら改めますが」
「いや、それは別にいいのよ。問題はね、なんでここのこと知ってるかってこと。あと、私のこともね」
「........あぁ。そういう。なるほど....」
「聞いてるの?」
「あ、すみませんすみません。何で知ってるか、っていうか、外の世界では有名だと思うんですが」
「有名ぃ?」
ますます謎が増えてしまったよう。頭の上に『?』を浮かべる様子は彼女が実在することを強く意識させた。
「はい。私の世界.......外界ですね。そこでは、『東方Project』という作品での舞台、登場人物です」
「........???」
「ゲームって、ここにもありますか?」
「え、えぇ。霖之助さんがたまに置いてるけど」
「そういうものの一つなんです。外界でのここの認識は」
「えーっと、つまり。外界の人間にとっては、ここは遊びの中の世界で、私はその中の登場人物?」
「概ね、そうです」
「.........紫呼んだ方がいいかしら」
「その方がいいと思いま―――――」
私はとある可能性を思い出し、言葉を切り、止めようとした。が、言うが早いか紫さんを呼び、スキマが現れてしまった。
「――――――って、ちょっと待って!」
「え?」
「なによ、霊夢。久しぶりにぐっすりと寝ていたのに......」
「あら、あんたもそういうとこあるのね。いつも他人を覗いてる訳じゃないんだ」
「そんなに面白い人間は多くないもの。最近はやることも面白くなくなってきたしね」
「珍しいわね?あんたがそんなこと抜かすなんて」
「いいじゃない、寝起きなんだから。それで?寝ていた私を起こすほど重要なことって何かしら?」
「それが。この外来人がここのこと知ってて.....って、何してるの?」
「あ......お、お気になさらず...」
「いや、あんた話題の中心なんだからだめでしょ」
こっそり鳥居に戻ろうとしたけど.....ダメ、らしい。怖いなぁ。怖いけど、話せばわかるかも.... 知れない?
そう思い、私は気合いと覚悟を入れて紫さんと話すことにした。
「で、この子が幻想郷のこと知ってるのよ。私のこととかも」
「っ......それ、は、何故かしら」
「さぁ?本人に聞けばいいんじゃない」
「ぅぇ....あ、その、初めまして.....天綺紬です....」
「えぇ、初めまして。八雲紫よ」
「で、その。私がなんでここについて知ってるかですよね」
「そうね。返答次第では、あれだけど」
ほら!やっぱりこうなった!てか霊夢、さっきのこと説明してよ!幻想郷守ろうとする人なんだから、外部の人間が情報持ってたらそりゃ怪しむでしょうよ!圧かけて来るでしょうよ!はぁ.... ここは、本音でぶつかるしか....。
「あの。『東方Project』っていうゲーム....作品があって。昔からそれが大好きで。みんなの掛け合いとか、綺麗な弾幕とか、風景とか。音楽とか。靈異伝からずっと憧れてて。こんな、すべてを受け入れてくれるって世界があるなら、私でも受け入れてくれるんじゃないかな、とか。それで、ありとあらゆる手を尽くして、ここに神隠しがあったこと、結界が張られる前の博麗神社があることに気づいて。もし、私が忘れられてもいいとか、存在が希薄ならば、非現実なものとして、受け入れてくれるんじゃないかと思って、くぐりました」
「「..............」」
『私の、小さな欲望と大きな幻想が入り混じった恥ずかしい本音を、二人は黙って聞いていた。
私は少し特殊な家に生まれた。その中で、様々な重圧や本心を隠さなければ行けない場面はあった。
その時。私には、裏切ることのない妹と。すべてを受け入れる世界だけが味方だった。少女たちの姿、話、弾幕、物語。そのすべてが私の輝きのなかった瞳に光をくれた。
同時に、憧れて、羨ましくて。もしかしたら、天綺家では無い私のことを、仲間以外に受け入れてもらえるのかもしれない。過度な期待も、嫉妬も、羨望も、失望も、重圧も。幻想のごとく軽く、無視してくれるのではないかと。
そして、探して、探して、探して。人生を注ぎ込むほどの気合いを入れて探した結果。今日この日。この地に踏み入れることが出来た。条件を付けられても、飲むつもりは無い。
そんなものがあるのが嫌だから来たのだから。だから、せめて。せめては。』
「もし、私のことを危険物、異物と見做すのであれば、破壊しようとしないことです。危険物ですから。なので.....いや、だから」
「え、あんた、何して―――」
霊夢は驚いた声を上げた。紫さんも声こそ出ていないが瞬きを数回した。仕方ないだろう。私が、サラリーマンの伝家の宝刀、土下座をしたのだから。
「だから、どうか。何もしないでください。いくら、腫れ物として思ってくれても構いません。そう思うならば、それらしく、どうか放っておいて下さい。.......お願い、します」
「あなたは.....何故そこまでして、この地を知り、縋ろうと....藻掻こうとするの?」
「紫、あんたそいうこと言ってるんじゃなくて....」
「そう、ですね。私が。私がこういうことをするのは、もちろん決まっています」
胸を張って言えることだ。あの時から何一つ変わらない。当たり前のことを、私は目いっぱいの笑顔で言えた。頭を下げているから、見えないだろうけど。
「私は、この世界が、幻想郷が大好きなんです。人も妖怪も。異変だって、大好きなんです」
「っぁ......。そう。なら私の言うことも決まってるわね」
「紫.....」
「..........」
紫さんは無言でこちらへ向かってくる。同じく、私も言葉を発さず土下座を続ける。紫さんが、私の前に立っているのかわかった。
「天綺紬.....いえ、紬。顔を上げなさい」
「.....は、い」
「もう一度聞くけど。あなたは幻想郷のことが大好きで。ここに来た。そうね?」
「! はい!もちろんです!」
「......ふふ。じゃあ、はい」
紫さんはなにかにゆっくりと満足そうに頷くと、そう。私が輝きを感じたあのゲームの中のように、笑った。
笑って、手を差し出している。思考が停り、理解が出来ずにいると。
「ほら。よろしくねって意味よ」
「え....ぁ。えぇっ!?」
「紫、珍しいことも....あるもんね」
「私はね、霊夢。この世界を守るためなら、冷酷だし、厳しいし、あなたに喝を入れたりもするわね」
それは、母親のように。
「まあ、そうよね。胡散臭さはあるけど」
「でもね。私にも、感情はあるもの。そして、それを感じ取れるのよ」
それは、人間のように。
「ぁ.....それっ、て、つまり」
「あなたの好きって気持ち、ちゃんと伝わった。あなたの言うとおり、ここは全てを受け入れる」
.......それは。例えなど、見つかりはしない、唯一の居場所のように。
霊夢は固まって、口をパクパクさせている。紫が優しく笑っていたからだ。数限られた者にしか、あまり見せない。紫の、甘さ。
それはつまり、紫が甘くなるほどに認められ、信頼された証拠。紬は、勝ち取った。幻想郷の賢者、八雲紫の信頼を。その、幻想郷への。そして、同じほど大きな、八雲紫への愛で。
それはつまるところ、八雲紫が、紬に惚れたというk.....ごほん。紫は言葉を続ける。
「その言葉に偽りはないわ。それに、あなたは.....ここに似合うと思うから」
「そうですか.....」
「.....ふふふ。ようこそ、神々が恋した幻想郷へ。歓迎するわ」
「.......はい、よろしくお願いします、紫さん、霊夢」
「はあ......もう、ビックリしてたわ」
「土下座とかのこと?誠意って言ったらあれかなーって思って。ごめんね?」
「謝るなら、誠意見せなさい、誠意!」
「誠意?また、土下座?」
「駄目よ、そんな事言っちゃ」
心なしか紫さんが優しいような気がする。頬も朱がさしているような?そう考えていると、霊夢はにやっ、と笑って、大きな声で言った。
「そうじゃないわ!宴よ、宴!みんなを呼んで、大宴会よ!」
「あら、歓迎会?いいと思うわ、盛大にやりましょう」
「え、パーティー?あんまりそういうのは好きじゃないんだけど......」
「パーティーと言っても、貴族がやるような堅苦しいのじゃないし。酒を飲んで、笑ったり暴れたり」
「それで地形破壊されるのが困るけるどね」
「そういうのなら......うん、やりたいな!」
「よーし、そうと決まれば魔理沙と文呼んで宣伝よ!」
「魔理沙に文!それじゃあさ、パチュリーとか椛も来るかな!」
「あなた、本当に好きなのね」
「それほどでも、あるかなぁ?えへへ」
かくして、私こと天綺 紬は幻想郷で暮らすこととなった。その日の夜、大宴会は開かれ、どんちゃん騒ぎ。
しかし、外界のような堅苦しさもなかったので、私も混じって遊んだ。その日の博麗神社は、夜が明けてからも楽しそうな笑い声が響いていたという。
「たっはは!みんな暴れすぎー!」
「「「「天綺ちゃんが言うな!!!」」」」
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よろしければ、いいねやらレビューやらをつけていただければ幸いです。私自身もめんどいのて付けないんですけど。でも付けて!わがままだけど、つけてほしーよー!