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エラーは貴方が起こした  作者: さとすみれ
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第1話

 おぎゃあ、おぎゃあ、おぎゃあ。

元気な赤ちゃんの声が家の中に響いた。ついに産まれたか! 私は召し使いの報告を待てず、廊下をドタドタと音を立てて走った。

勢いよくドアを開け、今出産が終わった妻のもとに大股で向かう。

「性別はどっちだ、リース」

妻からの言葉を聞くまでの数秒、私の胸はばくばくと音を立てていた。

「うふふっ。元気な男の子ですよ」

「……よっしゃあ! よく生んでくれた。これで私の後継ぎが生まれたぞ!」

私は胸を撫で下ろした。これで女の子が産まれていたら、私の先祖から今まで続いてきた「仕事」が途切れることになる。

「えぇ、名前はどうしますか」

名前。私は初めから決めていた。女でも男でもこの名前だ。

「そうだな……キールはどうだ。キルだと直接すぎる」

キル――英語で殺すという意味。私の子にはこの名前をつけたいとずっと思っていた。

「キール。いいですね」

「よし、キール。お前を立派な《《殺し屋》》に育ててやる」


♦︎♦︎♦︎


 海からの風が僕の髪を掠める。サラサラと髪が後ろに靡く。肩まである髪。子供の時、よく「女の子のようだ」と周りに言われたが、僕はこの髪型が好きだ。父とほぼ同じ髪型。「殺し屋」として生活する、父のようになりたいからだ。唯一の違いは髪色が黒ではなく、グレーであることだ。


 僕は子供の頃から特殊な環境で育てられた。僕が生活するアクール村は殺し屋しかいない。世界に一つだけの殺し屋のみが住む村だ。外部でここを知るものはいない。世界にいるよっぽどのお金持ちなどが、ここの村の電話番号を知り、依頼をしてくる。僕はそんな村で生まれ育った。殺し屋しかいないから、村の中で殺しが起きるのは日常茶飯事かと思えばそうではなくて、ここにいる全員が完璧に殺しを行うスペシャリストだから、手口もわかる。だから殺しをしたら誰がやったというのがすぐにバレる。だから、誰も殺されないし、殺さない。平和な村だ。そんな村にも学校はあった。実際に僕も通った。毎日ナイフだったり、縄だったり。それでどうやって人を殺すのかについて学んだ。僕の父は村で一、二を争う殺し屋で、僕に幼い頃から慣れとけということで五歳の時に縄を、十歳でナイフを、十五歳で拳銃を持たせられた。


 縄を持った時は、模型人形に巻きつけるのが楽しくて、友と遊ぶよりも模型人形と遊ぶ方が楽しいと思った。父からは

「お前の力じゃコロせないぞ」

と言われたから、コロスの意味はよくわかっていなかったものの父に褒められたくて、よく木にぶら下がったり目の前の海で泳いだりした。


 縄からナイフに持ち替えた時は少し大変だった。

「ナイフは扱いを間違えると自分が怪我する」

と言われ、少し怖かった。最初のうちはなかなかナイフを持てなかったのを覚えてる。しかし、一度持ってみると今度は模型人形に刺すのが楽しくて一心不乱に刺していた。父が「刺すのはここだ」と指さした左胸を。その頃には僕の腕は太くなっていた。また、僕は将来「殺し屋」になるんだと自覚した。父と同じ仕事。ワクワクした。


 拳銃を父から手渡された時は恐怖しかなかった。父も大事な仕事の時にしか持たないからだ。しかし、父は僕にわかりやすく説明をし、僕を村一の射撃手に育ててくれた。肩に約三キロの銃を担ぎ、相手の頭を狙う。父は心臓を狙えと言ったが、僕は頭を狙う方が好きだった。とは言っても、人間に打つわけにはいかなかったから模型人形を使ったが。


 ……僕の人生はこれからどうなるんだろう。人を殺す生活が死ぬまで続くのかな……。


 海からの風が強くなってきて、僕の目にかかっている髪の毛も後ろに持っていかれそうになる。目にも入ってきて邪魔になった。僕は左手で前髪をすくい、横に流す。昔のことなんて久しぶりに考えたな。……懐かしい。僕は立ち上がり衣服についた砂を払う。最後にもう一度海を見てから後ろを振り向くと、僕の幼馴染であり、村一の殺し屋グスタの娘、メアリーが立っていた。僕の思考はそこでぴたっと停止した。

「……いつからそこにいたんだ」

先に僕の口は動いていた。やっと思考が追いつく。メアリーはふふっと笑って言った。

「いつからでしょう? 当ててみて」

手を後ろで組み、首を傾げる。その反動で、風によって彼女のロングヘアがふわっと靡いた。その髪の先を見つめつつ僕は言った。

「十分ぐらい前からか」

「うふふ、今来たところ。何? 海なんか見て。何か考え事?」

「うーん。まぁ、考え事かな」

「私に言ってもいいよ。それかエドワールさんに言えばいいじゃない」

エドワールは僕の父だ。それができたら、と言いたいところをグッと我慢した。……今になって殺しが怖いなんて絶対言えない。

「……そうだな。そうするよ」

他に何か言いたそうにしているメアリーを横目に僕は森林の中を通って街に戻った。恋人であるメアリーでも今回のことは言えない。僕が自分で考えて解決する。街には街灯の光のみがポツポツとあった。……ついに明日、僕は父のようになるんだ。

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