6 なんかやべーやつ
宴もたけなわになった頃、国王が立ち上がって言った。
「これから、倫道士に素晴らしい話をしてもらうポォン。皆にとっても必ずためになるから、心して聞くようにポォン」
そうして何やら独特な服装の性別不詳の人物が現れた。
柔らかい表情をしているようで目はギラついているその道士は、怒鳴っているわけではないのに何故かよく通る声で語り始めた。
「皆さんは、『自分は何者であるか』考えたことはありますか? 肩書きではく、貴女自身がどういう人間であり、どう生きるか、どう生きたいか、それについて思いを馳せたことはありますか?」
どきっとした。
だって私は、肩書きを押し付けられたから。
そして、名前を奪われたから。
私は何者か? どういう人間か? どう生きるか?
そんなの、与えられた肩書きである『妃』として、役目を果たすべく生きる以外に、何があるというのだろうか。
「『自分らしく』生きることは、何よりも尊い」
道士は声をいっそう張り上げ、そして続けた。
「役割に押しつぶされ、できない自分に劣等感を抱いていたとしたら、その必要はありません。まずは、『ありのままの自分を認める勇気』を持ってください。そこから、貴女の生は始まるのです」
それから道士は何らかの事例を語ったあと、「教えを乞いたければいつでも来なさい」と言って、この場を去っていった。
私がポカンとしていると、隣(といっても距離は離れているのだが)の不快そうに顔をしかめた女性と目が合った。会釈代わりに小さく微笑んで、姿勢を元に戻した。
これを最後に会はお開きとなり、国王と貴妃が揃って退場すると、周囲の空気が一気に和らいだ。めいめい身体を動かし、近くの者と会話をしたりし始めている。
自分たちも帰る準備をしようと立ち上がると、先程目が合った女性が話しかけてきた。
「こんにちは。貴女、見ない顔ね?」
「これは夏妃、初めまして。こちらは、先日後宮へ入られた登龍殿の青妃にございます」
私が何か言う前に菖蒲が場を仕切って紹介してくれたが、正直助かった。他の妃と交流するのは、これが初めてだった。
「はぁー、さっきの、疲れたわよね? ほんと、きっしょ」
妃らしからぬ言葉遣いに、思わず小さく笑ってしまった。
私が笑うと、夏妃も少し安心したように微笑んだ。
そういう感想を抱くのは自分だけじゃなかったのだと、私は胸を撫で下ろした。
「あの、先程の道士は一体……?」
私が問い掛けると、夏妃はうんざりしたように答えた。
「あぁ、あれね。最近ここに出入りしている阿銅羅教とかいうやつ。ってこんな処で話してても良くないわね。良かったら、今度お茶しましょ。招待するわ」
そう言って夏妃は颯爽とお供の者と去っていった。
私たちも帰ろうと言おうとすると、朱琳がいないことに気がついた。
「あら? 朱琳は?」
周りを見回すと、例の修美公主のところに彼女はいた。翠蘭公主も一緒に、何やら楽しそうに会話をしているようだ。もしかしたら、先程の宦官の話でもしているのかもしれない。
「朱琳」
「あ、青妃。今、翠蘭公主、修美公主とお話していたんです。今度公主の処へ招いていただけることになって」
「……翠蘭公主、修美公主、初めまして。東龍国から参りました青妃と申します。この度の御無礼、大変失礼いたしました」
私が侍女だったら、他国の公主に一人で話しかけるなど到底あり得ないことだ。彼女、朱琳は同じ公主という立場であったからこそ、そのあたりは気がつかなかったのかもしれない。
「あー、いいのいいの。今楽しくお話してたから」
「ええ、気にしないで」
二人の寛大な心に感謝しながら、私たちはその場を後にした。朱琳はといえば、勝手に妃の側から離れたり、公主と対等に会話をしていたりしたことを菖蒲に咎められていた。
(要領は良いと言っても、こうなったら彼女も不自由ではあるわよね。妃より侍女が良いなんて、どうして思ったのかしら)
何か狙いがあるのか、それとも本当に無邪気な好奇心でそうしたのか。後戻りのできない状況で、何を考えていたのだろう。
二人で話をする機会はあっても、彼女に聞いてもいつもはぐらかされてしまい、肝心の本心は聞けないままでいた。




