49 教会の中
「やっぱり、例の寺院にいるのかしら?」
「……この教会に大勢の人が住んでるとは思えないし、そうかもな」
私達は小声でボソボソ喋りながら、入口の戸を叩いた。
少し待つとすんなりと扉が開き、朗らかそうな人が顔を出した。
「こんにちは。どうしましたか?」
「あ、あの! わたしたち初めてなんですけど……阿銅羅教のことを知って、その教えを学んでみたいなって思って」
「そうなの、ようこそ阿銅羅教の教会へ。どうぞ入って」
第一関門、すんなりと突破。
何かを疑われるような素振りもなく、ごく自然に奥へと通してもらえてしまった。さっきの青年も、出だしで躓かなければ問題なく入れたことだろう。
通された先には数十人くらいの人達がいて、それぞれ3~4人程度の輪を作ってワイワイと語り合っていた。
入口から案内してくれた人の誘導で、そのうちの一つの輪に腰を下ろした。
「あ、は、はじめまして! 私は……」
「待って」
自己紹介しようとしたところで、途端に遮られてしまった。
「名前とか出自とか職業とか、そういうのは言わないで。阿銅羅教は、"あなた自身"を引き出すことを重視しているの。外側の情報があると、内面を見る時に偏見が入っちゃう可能性があるからね」
そういえば、後宮の中で倫道士の元を訪れた時も似たようなことを言われた気がする。それは後宮だから、ではなく阿銅羅教に共通する方針だったらしい。
「で、どうして阿銅羅教に興味を持ったの?」
「それは……えと、若者に流行ってるって聞いて、どんなんだろうって気になって、的な。あの、教えの詳しいこととか全然わからないんですけど」
「そうなの。それで『ここに来る』という選択をしたのね。きっと、貴女自身が何か惹かれるものがあったのね。焦らないで、ゆっくりお話ししていきましょう」
デタラメを述べることに少し罪悪感を覚え、冷や汗が出る。
気まずさを感じながら、ひそかに周囲を見回す。視力には自信はある方だが、琉花とおぼしき姿ーーあの青年に似ている18歳くらいの女性ーーは見つけられなかった。
「キョロキョロして、どうしたの?」
「えっ! あ、あ、あー、その……歳の近い子とか、いるかなーって」
「そうね……年齢も聞かないからわからないけど、今度来た時にいたら話してみたら?」
「はい、そうします」
それから私達のいる班では、初心者である私達にわかりやすいようにか、阿銅羅教の基本的な考え方について話してくれた。
阿銅羅教は、『ありのままの自分』を認めることから始まる。何かができようが、できなかろうが、まずそれを受け入れる。そして、他人に対しても同じように、その存在を尊重する。
そんな話だった。
話を聞きながら全体の様子を気にかけていたが、どうやら各自自由な感じで、出たり入ったりしているらしかった。
私達も例の彼との約束もあるし、これ以上ここにいても今以上の情報は得られないだろうと思い、ある程度の段階で切り上げて教会を出ることにした。
「あの、ありがとうございます。私たち家の手伝いがあるので、今日は帰らなくちゃ。また来てもいいですか?」
「もちろん。貴女の意思で来たらいいわ、いつでも」
そう言って彼らは見送ってくれた。
特に悪人という感じでもなく(むしろ優しそうな人達という印象が強い)、こんな彼らが奴隷売買をしているとは想像しにくいと思いながら、教会を後にした。




