39 いなくなる人々
「あの会議の時におっしゃっていた人口流出と阿銅羅教の関係について、教えていただきたいのです。個人的な話になりますが……」
私はそう断ってから、自分の身の上を話した。
自分は最近 東龍国からこの国へ嫁いできたということ。会議の時に東龍国へ人が流れているという話を菖将軍がしていたが、祖国ではそのようなことは聞いたこともなかったし、国王ですらも知らなそうだったということ。
そもそも、「阿銅鑼教」という名前だってこちらに来てから初めて知ったものだ。
「会議での話と重複するかもしれませんが、阿銅鑼教は若者を中心に信者を増やしていっております。阿銅鑼教の信者はただ街の教会へ通って日常を過ごす者の他、寺院でまとまって生活をする者がおります。寺院は国王の庇護の元にあるため、役人ですら立ち入りはできない為詳細は不明ですが……その中で暮らしているのか、あるいは寺院を通じて他国へ流れていっているのか、定かではないのです。東龍国へ、というのはあくまで噂の一つです」
「?……寺院で暮らしているなら、他国へ行く必要はないのでは?」
私の疑問に対し、武大臣は声を潜めて静かに答えた。
「街や村から寺院へ暮らしを移したと思われる者の数を考えると、とてもその寺院だけで生活を賄えると考えられません。周辺の街の経済状況は変わっていないのです。つまり、買い物などをしていない。そして完全な自給自足をするにも、土地や資源が足りない。ですので、他国へ流れている可能性が高いと思われます」
「その、他国へ行ったと思われる、その人たちはどこで何をしているのかしら」
「分かりませんが、奴隷として売られている、と考えるのが最も単純な筋でしょう。貴女が祖国でご存知ないと言うならば、『阿銅鑼教として』大々的に受け入れられているわけではない。とすれば、出自や行先は気にされない、奴隷扱いで流されている可能性が高い。若い働き手はどこも欲しいものですから」
調査によって、国内で数えられている人口の減少数は大まかにわかっている。もちろん、阿銅鑼教以外での理由もあろうし、全てがそれによるものではないとしても、総数は千や万単位で減っているというのだ。災害や飢饉などは起きていないにも関わらず、である。
阿銅鑼教の信者については、大臣の言う通り国王に庇護されているため、正確な数はわかっておらず、照合はできていないということだ。
「ええっと、つまり……」
まず、頭の中を整理したい。
奴隷を売買すること、それ自体は罪ではない。
奴隷市場の仕入れに人攫いによるものがあったとして、人道的にどうかという観点は置いておいても、ままあることでは、ある。
だがこれが、貴妃が推進した宗教に寄るもの、としたらどうだろうか。
西麟国出身の妃が、自ら持ち込んだ宗教を通じて、奴隷の斡旋をしているとしたらーー?
未来を繋ぐ若者は国の宝であり、その減少の行く末は国家の衰退に他ならない。
これは朋央国と西麟国の友好関係を崩す問題であり、看過することはできないはずだ。
「国王陛下があの調子ですので、ただいたずらに時ばかり過ぎて行くままです」
「でも若者が組織的にいなくなっているとなれば、王としては動かざるを得ないのではなくて?」
「会議での様子をご覧になったでしょう。証拠がありませんし、由貴妃が上手く言えばそれを信じてしまうのでしょう」
国王に直談判しても、由貴妃以上に信じてもらうことはできない。
今までも、そういう進言をする者たちは闇に葬られてきた。国全体で、多数の者でこのことを問題と捉え動かさなければ、状況を知ることすら難しい。だからこそ、菖将軍も御前会議の場で、そして殺施王で、発言したのだろう。
「武大臣、貴重な情報ありがとうございます。また、今後ご相談させていただいてもよろしいでしょうか?」
私がそう言うと、大臣も大きく頷いてくれた。
「勿論です。ですが、くれぐれもお気をつけくださいませ。私は一度罪を与えられた身。私と繋がっていることが知れたら、国王陛下や由貴妃に目をつけられてしまうかもしれません」
次に会う時にはこの屋敷ではない場所で、と面会方法の指定を貰い、私たちは屋敷を後にした。
武大臣はこの後少ししてから、公務へ復帰した。




