36 何から始めよう
王太子殿下のお世話係である黎は、この後宮内でやたらと顔が広い。各方面と通じており、彼がいることは本当に心強く感じた。
私はまず始めに、菖蒲の兄である菖李元師団長のこと、そして武大臣が会議の時に言っていた人口流出のこと、その調査のために市街へ行きたいと考えていること、の三点を順に相談した。
元師団長のことは、考えてはみるが、彼はあまりにも有名になってしまったため、すぐには難しいだろうとの回答だった。あの処刑により、顔も名前も後宮中に知れ渡ってしまっている。そこで彼を贔屓するようなことがあれば目立つ上、国王や由貴妃にも知られかねない。彼をかばうことで、王太子側が国王側に反意を抱いていると思われるのも、今は得策ではないだろうとのことだった。
「あの人自身は罪人ではないのに、随分と酷いことね」
「家族を巻き込むのは、由貴妃の得意とするところです。菖将軍は亡くなりましたが、ただ本人に死を与えるよりも、その方がより深く苦痛を与えることになるとわかっているからです。また、一族同士で相互監視させる狙いもあるでしょう」
確かに、あのような処刑を見せられたら、ほとんどの人は身内に危害が及ぶようなことはしたくないと考えるだろう。一族から権力に反する者が出ないように、ことが大きくなる前に身内で収めようという動きもあるかもしれない。牽制の効果は充分だ。
「それから、阿銅羅教と人口流出の関係を調べたい、と。……それなら、実際に提言した武大臣に聞いてみるのが一番では。来週の御前会議で、本人に相談してみましょう」
武大臣は、あの時に菖将軍を処刑する役を担ったことで、自身の罪を免れた。役職も解かれておらず、そのままの地位にいられるとの話だった。
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私にとっては二回目の参加となる御前会議は、今回はまさに"つつがなく"終わった。それぞれが報告と簡単な承認を求めるだけの事項を順に発言していき、淡々と進んでいった。
由貴妃は相変わらず王后の席へ座っていたが、元の控えめで気弱そうな態度であった。その静かさが、逆に空恐ろしさを感じさせた。
そして武大臣の姿はそこにはなく、代役の官僚がその役を務めていた。
「大臣は、あれからずっとお休みになっておられます」
会議が終わり国王と由貴妃が退席したのを見計らって、その官僚に尋ねると、そう返事があった。
私は礼を言ってすぐにその場を立ち去り、王太子殿下の元へ戻った。




