30 公開処刑4
「なぁ~んか、あっさりねぇ。でも、あの表情、最高だったわ。恐怖、悔しさ、そして絶望……。あの空っぽな顔、ほんとゾクゾクしちゃう」
菖李師団長と奥さんが運ばれていく様を横目に、由貴妃は菖将軍の方を向いて、大声で言った。
「将軍、安心してね。貴方の可愛い可愛い息子さんは、"女の子として"後宮で可愛がってあげるから! ふふっ。ところで将軍、貴方が最初に言ったことを覚えているかしら? 『何が正しいか、何が家族を守るか、自分の頭で考えよ』って」
由貴妃が不敵な笑いを高らかに響かせる。
「あははっ。正しいことをした結果、息子は子孫を残せなくされちゃったわね! その嫁も流産の上、あれはもう廃人でしょうねぇ~うふふふふっ」
将軍ももはや、睨みつけるのみで抗う気力を失くしているようにも見えた。
「はい、お待たせ武大臣。貴方も一仕事してもらうわぁ」
由貴妃はくくりつけられていた大臣の縄を解かせ、その手に槍を持たせた。手は自由になったが腰だけには縄は巻かれ、両側から兵士にそこを握られた状態となった。
「貴方の仕事は、今から将軍をこの槍で殺すこと。素晴らしいでしょう? 貴方が存在を否定した、この殺施王の記念すべき初の死刑は、貴方の手によって行われるの!」
ガタガタと震える大臣を、早く早くと由貴妃がせかす。
「言ったでしょう。これを無事完遂できたら、貴方も貴方の家族も見逃してあげるって。それに、特別に褒美もあげるって」
それでもまだ躊躇いを見せる大臣を見て、由貴妃はいらだったように大衆に語りかけた。
「観衆の皆さんも、大臣を応援してあげて! 国を否定する大罪人である将軍を、勇気ある大臣が成敗するのよ!」
一部から、ウオオオオオと声が上がる。そしてそれにつられるように全体に広がって、轟音のような歓声が轟いた。
「武大臣。躊躇うことはない。そなたがやらなくても、他の誰かがやることには変わりないのだ……だから、私のことは気にするな。このままでは私も貴公も、死ぬとともにお家断絶だ。貴公だけでも、生きて国を建て直してくれ……」
菖将軍の言葉を受け、少ししてから武大臣は腹を決めたというように、槍を握り直した。ザッと構えて「将軍……御免!」と叫んでから、心臓めがけて槍を一突きした。
更に大きな轟音が、建物内を覆い尽くした。将軍の断末魔の叫びも、それに掻き消されほとんど聞こえなくなっていた。その歓声はしばらく収まることなく、地響きのように鳴り続けた。
その場で膝を付いて軍令をする大臣に、由貴妃が拍手をしながら歩み寄っていく。
「さすがですわぁ、大臣。皆さん! この大臣は、自らの保身のため、そして褒美を貰いたいがために、同志を手にかけた! なんと素晴らしい心意気なのでしょう……さぁ皆さん、盛大な拍手を!!!」
気持ちの悪い拍手が、長く長く鳴り響く。
永遠のように長く感じたこの催しが、ようやく終わりの時を告げた。
観衆が続々と帰りはじめる頃、ようやく殿下が席に戻ってきた。
「殿下、体調の方はもう大丈夫? 付き添えなくて、ごめんなさい」
「ぁ……ぃや、もう大丈夫…たぶん」
舞台には、十字に磔られて絶命した将軍と、下を向いて礼をしたままの大臣のみ残された。
由貴妃は国王に支えられながら、特別席へ戻ってきた。
この席の一同に、緊張が走る。
「……陛下、私は、ちゃんとやれましたか……」
「由貴妃はよく頑張ったポォン。あんなに悪役に徹しなくても良かったのではないポォンか?」
「ぃぇ、それは……これからも同じような輩を出さないためにも、徹底的にやらなくてはと思って。それに、民の負の感情が陛下に向かないようにするためなら、私なんかのことはどうだっていいんです……」
「朋のために、そんなに」
「私は陛下のお役に立てましたか? 立てているなら、それ以外のことなど些末なことでございます」
「それにしても、あの男、師団長は気持ち良かったポォンか?」
「そんな、意地悪を……陛下に見られていると思ったら、私も余計に興奮してしまって。今も疼いて、仕方ないですわ」
「由貴妃は、朋だけのものだポォン。今夜は存分に可愛がってやるポォン」
「まぁ嬉しい! うふふ」
固まる一同をよそに、国王と由貴妃は席を素通りして、後ろの出口から消えていった。から消えていった。




