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傾国のブス  作者: 佐伯 鮪
30/50

30 公開処刑4

「なぁ~んか、あっさりねぇ。でも、あの表情、最高だったわ。恐怖、悔しさ、そして絶望……。あの空っぽな顔、ほんとゾクゾクしちゃう」


 菖李(しょうり)師団長と奥さんが運ばれていく様を横目に、由貴妃は菖将軍の方を向いて、大声で言った。


「将軍、安心してね。貴方の可愛い可愛い息子さんは、"女の子として"後宮で可愛がってあげるから! ふふっ。ところで将軍、貴方が最初に言ったことを覚えているかしら? 『何が正しいか、何が家族を守るか、自分の頭で考えよ』って」


 由貴妃が不敵な笑いを高らかに響かせる。


「あははっ。正しいことをした結果、息子は子孫を残せなくされちゃったわね! その嫁も流産の上、あれはもう廃人でしょうねぇ~うふふふふっ」


 将軍ももはや、睨みつけるのみで抗う気力を失くしているようにも見えた。


「はい、お待たせ武大臣。貴方も一仕事してもらうわぁ」


 由貴妃はくくりつけられていた大臣の縄を解かせ、その手に槍を持たせた。手は自由になったが腰だけには縄は巻かれ、両側から兵士にそこを握られた状態となった。


「貴方の仕事は、今から将軍をこの槍で殺すこと。素晴らしいでしょう? 貴方が存在を否定した、この殺施王(コロッセオ)の記念すべき初の死刑は、貴方の手によって行われるの!」


 ガタガタと震える大臣を、早く早くと由貴妃がせかす。

 

「言ったでしょう。これを無事完遂できたら、貴方も貴方の家族も見逃してあげるって。それに、特別に褒美もあげるって」


 それでもまだ躊躇いを見せる大臣を見て、由貴妃はいらだったように大衆に語りかけた。


「観衆の皆さんも、大臣を応援してあげて! 国を否定する大罪人である将軍を、勇気ある大臣が成敗するのよ!」


 一部から、ウオオオオオと声が上がる。そしてそれにつられるように全体に広がって、轟音のような歓声が轟いた。


「武大臣。躊躇うことはない。そなたがやらなくても、他の誰かがやることには変わりないのだ……だから、私のことは気にするな。このままでは私も貴公も、死ぬとともにお家断絶だ。貴公だけでも、生きて国を建て直してくれ……」


 菖将軍の言葉を受け、少ししてから武大臣は腹を決めたというように、槍を握り直した。ザッと構えて「将軍……御免!」と叫んでから、心臓めがけて槍を一突きした。


 更に大きな轟音が、建物内を覆い尽くした。将軍の断末魔の叫びも、それに掻き消されほとんど聞こえなくなっていた。その歓声はしばらく収まることなく、地響きのように鳴り続けた。


 その場で膝を付いて軍令をする大臣に、由貴妃が拍手をしながら歩み寄っていく。


「さすがですわぁ、大臣。皆さん! この大臣は、自らの保身のため、そして褒美を貰いたいがために、同志を手にかけた! なんと素晴らしい心意気なのでしょう……さぁ皆さん、盛大な拍手を!!!」


 気持ちの悪い拍手が、長く長く鳴り響く。

 永遠のように長く感じたこの催しが、ようやく終わりの時を告げた。


 観衆が続々と帰りはじめる頃、ようやく殿下が席に戻ってきた。


「殿下、体調の方はもう大丈夫? 付き添えなくて、ごめんなさい」

「ぁ……ぃや、もう大丈夫…たぶん」


 舞台には、十字に磔られて絶命した将軍と、下を向いて礼をしたままの大臣のみ残された。

 由貴妃は国王に支えられながら、特別席へ戻ってきた。


 この席の一同に、緊張が走る。


「……陛下、私は、ちゃんとやれましたか……」

「由貴妃はよく頑張ったポォン。あんなに悪役に徹しなくても良かったのではないポォンか?」

「ぃぇ、それは……これからも同じような輩を出さないためにも、徹底的にやらなくてはと思って。それに、民の負の感情が陛下に向かないようにするためなら、私なんかのことはどうだっていいんです……」

(ポォン)のために、そんなに」

「私は陛下のお役に立てましたか? 立てているなら、それ以外のことなど些末なことでございます」

「それにしても、あの男、師団長は気持ち良かったポォンか?」

「そんな、意地悪を……陛下に見られていると思ったら、私も余計に興奮してしまって。今も疼いて、仕方ないですわ」

「由貴妃は、(ポォン)だけのものだポォン。今夜は存分に可愛がってやるポォン」

「まぁ嬉しい! うふふ」


 固まる一同をよそに、国王と由貴妃は席を素通りして、後ろの出口から消えていった。から消えていった。

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