27 公開処刑
その規模に、圧倒された。
石で造られた重厚な円柱型の建造物。
東龍国では見たこともない形状のそれは、既に数多の民衆がその客席を埋め尽くしていた。
舞台をぐるりと囲む客席はいくつかの区画に区切られており、王宮側の人間と一般市民は入口からきっぱりと分けられているらしかった。よって、普段後宮の外へ出ることのない妃嬪や女官たちも、そこで見学することができた。
更に、舞台のある一階に存在する特等席ーー国王や三公らと共に、王太子と私は、ここにいた。
「私、この間『この国はヤバい』と言ったけれど、一部訂正するわ。この国の民は、とても優秀なのね」
この劇場は、由貴妃の発案により造られたと聞く。おそらく詳細な資料もない中、異民族の建物をその話から想像して形にしたのだ。並大抵のことではない。交易で栄えてきた国と聞いていたが、産業としても充分に発展しているといえよう。
だからこそ余計に、おかしな政治を敷く国王と貴妃に、嫌悪感を覚えてしまう。
誰もいない舞台にある磔用の十字に組まれた木を見つめる。
今から始まるのは処刑だというのに、それこそ演劇でも始まるかのような群衆のざわめきが、その嫌悪感を増幅させた。
「なんか、全体が浮き足立っているような気がするわ。楽しそうというか」
私が呟くと、殿下の後ろに控えていた黎がそれに反応した。
「一般市民にとって、公開処刑は娯楽ですから。"悪者が成敗される"瞬間を直接観ることができるのです。日頃の閉塞感も晴らされましょう」
「……そう。嫌なことを、聞いてしまったわ」
私達は、今回の処刑がどういう経緯で決まったか知っている。だが、観客からすれば、処刑される側は"大罪を犯した悪者"なのだ。この新しい建物とも相まって非日常の賜物で、演劇よりもより現実感の高い催しなのかもしれない。
そうこうしているうちに、大きな銅鑼の音が鳴り響いた。
一同が一斉に舞台へ注目する。
後ろ手に縛られた菖将軍と武大臣が、それぞれ兵士に抑えられながら中央へ進んできた。そして菖将軍は十字に磔にされ、大臣の方は一本の立てた棒にくくりつけられた。
再び銅鑼の音が響き、国王と貴妃が舞台へと上がった。
「皆の者!心して聞くポォン! 朋がこの朋央国の、国王であるポォン! 数年かけたこの殺施王の建設が、無事完遂できたのは尽力してくれた皆のおかげであるポォン。朋のために、ありがポォン」
わああぁぁっという歓声が、全体から響く。
(あのポォンポォンで、みんな不審に思わないの?)
「そしてこの殺施王の記念すべき初舞台は、公開処刑だポォン。この者たちは、国王の方針に盾突いて貴妃と阿銅羅教を侮辱した上、殺施王の存在も否定した。よって、今日はこの二人の処刑を中心に、皆に楽しんで貰うポォン!」
再び歓声が上がり、ジャーーーンと響く銅鑼の音と混ざり合った。そして更に、弓や槍を構えた兵士達がゾロゾロと入ってきた。
「菖将軍。貴方の方から刑を行うわ。何か、言い残すことはあるかしら?」
由貴妃が将軍の前に歩を進めてそう話しかけると、将軍は大きく息を吸い込み、そして叫んだ。
「民よ、聞け! ここにいる貴妃は、我が朋央を衰退させる悪鬼である! 阿銅羅教に惑わされるな! 惑わされるな! 自分たちの未来を、他人や宗教なんかに委ねるな! 何が正しいか、何が家族を守るか、自分の頭で考えよ!」
ドオっと群衆の叫びが押し寄せる。賛同する声と非難する声が混ざり合って、その圧で押し倒されそうになる。
「将軍は、阿銅羅教を誤解しているポォン。阿銅羅教は、自分自身の心地よさを追求する宗教だポォン。これを信じる者は、まさに『自分の頭で考えて』導き出した結果により、行動しているんだポォン」
国王は将軍に対してというよりも民衆に聞かせるように、張り上げた声でそう答えた。国王に続いて、隣の由貴妃は悲しそうな顔を作ってから話し出した。
「私はいつも国王陛下のためを思って尽力していますのに……悲しいですわ。でも、将軍のおっしゃる通りですのよ。民が自分の頭で考えてこそ、素晴らしい国が生まれるのです。今の演説もご立派でしたわ。将軍が阿銅羅教の先駆者となれば、素晴らしい指導者となれましたのに。あぁ、残念ですこと。さ、そんな将軍に、特別なお客様をお連れしましたの。入って入って」
ガラガラガラッと車輪の回る音を響かせながら、一台の台車が運ばれてきた。その台車には、大きな一枚板がくくりつけられており、一人の男が両手両脚を拘束されていた。
それに気付いた時、私の肩に突如重みがかかった。後ろに立っていた菖蒲が、体勢を崩して身体を前に乗り出したためだった。
「お兄、様……」




