25 嘘泣きブス
会議を終え晃瑛殿下の居室へ戻った私たちは、しばらく一言も発しなかった。
黎が気を利かせて入れてきてくれた高級茶も、すっかり湯気も立たなくなり、冷めてしまったことを表していた。
「由貴妃は、その……随分と嫌われているのね」
後宮内でも夏妃からはボロクソに言われていたが、今日の様子を見ると臣下の者たちも彼女に対して長年不満を抱いていたのであろうことがわかった。
「お、俺も……なんか、好きじゃ、ない……。今日も、泣いてたりしたけど……なんか、なんか」
「あら、晃瑛もわかったの? あれ、嘘泣きだって」
「え、そうなの?」
国王だけは騙せていたようだが、あの場でのあんな泣き方は、嘘泣き以外にありえない。そもそもあれだけ糾弾されているにも関わらず、貴妃の分際で堂々と后の席に座り続けるなど、相当な胆力がなきゃできない芸当だ。
夏妃の話を聞いて、容姿だけで批判したり、噂だけで判断してはいけないと思ってはいたけれど、今日の様子を見る限りあの時に聞いた以上に、ヤバそうな女だ。
「なんで三日後にしたんだろう。ていうか、殺施王ってなんなの?」
私は冷めたお茶をすすりながら問いかけると、傍に控えていた黎が、殿下の代わりに、と言ってから説明してくれた。
殺施王とは、由貴妃の発案により建設された、円形の屋外劇場だという。舞台は円の中心にあり、それをぐるりと覆うように客席がすり鉢状に設けられている。数千から数万の人員を収容できるという、巨大な建造物だった。
それにしても凄い漢字を書くものだと思ったら、外国語への当字であるとのことだった。西麟国よりも更に遥か遠く西方にある異民族の国に存在する施設が参考元で、その異国の言葉に文字を当てた結果だという。
「由貴妃は、何者なの? なんでそんな遥か異国の情報を持っているというの?」
「……彼女は、西麟国の出身です。かの国は西方諸国との交易も強く、これまでの常識にない斬新な発想の数々を持ち込んできました。国王はそれをいたく気に入り、あのように由貴妃は特別な寵愛を受けているのです。それが、我が国に良い結果をもたらしているとは言えませんが」
黎は新しく淹れたお茶を注ぎながら、ぽつぽつと話した。
「これまでも多くの者が彼女を疑い、排除しようと試みてきました。ですが肝心の国王があの調子であるため、告発側が消され続けてきて、今に至ります。ここ数年は表立って盾突く臣下はいませんでしたが……菖将軍は、惜しいことになりました」
「なんとか、助ける方法はないのかしら」
「まず無理でしょう。あそこまで大勢の前で非難されては、今後同じことが起きないよう"見せしめ"の意味でもきっぱり行われるはずです。庇うような者があれば、その者も道連れで処刑となりましょう」
王太子もその妃も、実に無力だった。この状況に違和感を抱いたところで、何もできない。それどころか、何をしたら良いか見当もつかない。もし、自分があのまま王の妃の一人になれていたとしても……由貴妃を退ける程の寵愛を得られなければ、状況は変わらないだろう。
「黎。私、思ったわ。この国は……『ヤバい』わね!」
「ハイその通りです、王太子妃!」
何故か合ってしまったこの勢いに、私と黎は目を合わせ小さく笑った。




