2 入れ替えごっこ
――やられた。
「何を言っても動じるな」と言っていたのは、これのことだったのか。
流石にここまでぶっ飛んだことを言うとは想定外だった。
だが、約束は約束だ。
動じないと約束したからには、破るわけにはいかない。
私はいつだって彼女に、傅く立場で、逆らったことなどないのだから。
私は口を開かず顔色を変えず、その場をやり過ごした。
私たちは今回は身分通りの服装で訪れたが、こうした身代わりの移動などは珍しいという程のものでもない。"私たち"が偽物でないことは、これまでの検問で手形等を示して、証明は済んでいる。
服装を差し置いても、私たちの顔のつくりには大きな隔たりがある。そこに存在しているだけで華やかな空気になる公主様と、日頃から彼女と比較され蔑まれてきた私。地味な作りに、地味な配置。とても恵まれた環境で育った麗しの公主には見えないのではないかと思うのだが、女官たちは表面上は疑う素振りもなく、私を公主として扱い、先程の話を続けた。
登龍殿と名がついたこの殿舎は、私たちの出身である東龍国の西隣、朋央国の後宮内の端の方に位置する。
この国の王の側室として公主様が入ることとなっていたのだが、政略結婚という名の、いわば人質のようなものだ。敵国ではないが、同盟という程でもない。互いの友好と牽制の意味の込められた、そういう婚姻だった。
この国の王の温情により、まだうら若き公主様は異国で一人は寂しかろうと、この入宮にあたって一名だけ帯同が許された。祖国でも側近として彼女の近くで仕えていた私が、その役割を与えられて共にここへ来たのだ。
数人の殿舎付きの侍女を与えられ、私たちは殿舎での過ごし方の簡単な説明と、これからの予定を聞かされた。ここへ到着したのは昼過ぎであったが、公主様と二人きりになれたのは、日も沈んでだいぶ経ってからだった。
「……公主様、ご説明、願いますっ」
二人きりといっても、部屋の外には侍女が控えている。壁に近づかないように、かつ外に声が漏れないように、部屋の中だというのに袖で顔の横を覆いながら、ようやく私は問いただす権利を得た。
さすがに今日の今日で王の訪れはないとはいえ、私は妃としての綺麗な衣服を着せられ、公主様はここの侍女のものを身につけている。そのちぐはぐさに所在なさを覚えているのは私だけかと言うように、彼女はなんてことのないように答える。
「私は、侍女、朱琳。貴女は、東龍国の王の側室の娘、青公主。ふふっ。昔、よくやったじゃない。入れ替えごっこ!」
「あれは、子供でしたし、ただの戯れじゃないですか。こんな、人生を左右する場で、取り返しのつかないこと……」
王の娘である彼女と、王の側室である彼女の母の親戚の伝手で王室で下働きをしていた私の間には、絶対的な身分の差があった。
正式には覆ることのない立場だからこそ、ただの遊びとして子供の頃は時々やったものだ。
だが、私たちはもう大人であるし、ましてや隣国へ嫁いだ身でこのようなことをするなど、さすがにおふざけが過ぎている。
「だぁってぇ、ここの王様って、あのハゲでデブのオッサンでしょ? 貴女も知っての通り、私は細身の美形が好きなのよ。あんなキモいの絶対無理無理無理無理!」
公主様は声は小さいながらも大袈裟な身振りをして、顔を顰めた。




