2.視察での出会い
ダリウス王子は月に一度、視察の為に町へ出掛けている。
もちろん王子とバレぬように一般市民の格好をして。
仮に普段通りの格好だったとして、誰もダリウス王子とは思わないだろう…眉目秀麗なゲンリフ国王と全く似ていないどころかこの国で一、二を争う程の醜い容姿をしているのだから。
「今日もお一人で行かれるのですか?誰か護衛を…」
「必要ない、市民の格好をすれば俺なんかを気にするヤツはいないさ」
イーノス王子は護衛をつけて
視察に行くのに対し、ダリウス王子はいつも一人だ。
一般人に溶け込まなければ街の本当の姿を知ることはできない、というのがダリウス王子の考えだからだ。
「いつも通り2時間ほどで帰ってくるから心配するな。それに護身用のナイフは持っている」
「……わかりました。おきをつけて」
「あぁ」
◇
街へ出ると活気に溢れた人々で賑わっていた。
「いつも通り活気が溢れているな、この国は」
海と山に囲まれたハビフレアは、貿易が盛んながら他国からの進軍を阻む事に優れた立地だ。
その為街はいつも活気に溢れていた。
「よぉダン!一月ぶりだな!」
ダリウス王子をダンと呼び引き留めたのは、露店で加工肉を売っているゲイルという男だった。
「ゲイルさん、お久しぶりです」
「お前まだそんなひょろひょろで!」
「ダン!こっちに来て座りな!」
肉屋の隣にあるパン屋のサウラと言う女性はダリウス王子を店先の椅子に座らせた。
「まったくあんたは!そんな顔なんだから体型を気にしな!」
「そうだぞダン!顔はアレだが、ゲンリフ国王みたいに逞しくなれば今よりはきっとモテるぞ」
二人はダリウス王子の前に大量のウインナーやハム、焼きたてのパンを出しそう言った。
「食べてはいるんですが…」
「そんなガリガリで何言ってるのさ!お代はいいから、しっかり食べな!」
「お前を見てると骨が折れちまわないか心配になるんだよ」
「…ではお言葉に甘えて、いただきます」
ダリウス王子が食べ始めると、二人は笑顔で頷き接客を再開させた。
「ゲイルさん、サウラさん、いつもご馳走さまです。俺なんかお二人にかえすものが何もないのに…」
「なに言ってるのさ!ダンがうちのパンが美味しいって評判を流してくて大繁盛さ」
「俺んとこはお城にまで卸す事になって懐が温かいってもんよ!」
「そうですか、それをきいてホッとしました」
ダリウス王子が四年前初めて視察で街を訪れた時から、この二人はとても優しかった。
第一印象(見た目)で判断されるこの国で、ダリウス王子を避けるのではなく心配してくれた二人のため、ゲイルとサウラの店を優良店(値段以上の良い品がある)であるといい続け、一年前にようやく優良店の看板が与えられた。
勿論、何人もの人間が実際に食べ判断した結果である。
「また来月、立ち寄ります。その時は何かお土産でも持ってきます」
「土産なんかいいから、もっと沢山くえよ」
「来月までにもっと逞しくなっておいてくれたら、それでいいよ」
二人に挨拶を済ませると、ダリウス王子は先月設置された水車を確認するため街の中央を穏やかに流れる川へと向かった。
そこで、ダリウス王子は初めて恋に落ちる事になる。
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