ビキニアーマーと勇者様
2017年11月14日修正しました。
ぼくは勇者リーデル。剣と魔法が普通にある世界で、赤ん坊の時に勇者の証であるあざがあったので勇者となった。
そして16歳の誕生日、ぼくはついに魔王討伐の旅に出ることを許される。さっそく城下町にある冒険者の酒場で仲間を募ろうと思った。町ではぼくが勇者であることは知られているので仲間探しは難しくないはずである。
「たのもー!! 勇者の仲間になりたい人はこの指とーまれ!!」
「はーい!!」
ぼくの声に反応をしたのはひとりの女性だった。
その人はビキニアーマーを着ていた。いや、それはいいんですよ。
だってこの人僕より体が大きいし、首が太い。しかも日焼けで真っ黒だ。
胸部は岩のように硬そうだし、腹筋も見事に割れている。手足も丸太のように太く、血管が浮き出ていた。
銀髪で顔立ちはいいのですが、筋肉がすごい。というか怖い。
四六時中、ポーズを決めてはニカっと笑顔を浮かべるのが不気味です。
ぼくは本能から彼女はやばいと思い、無視することに決めた。
「えっと、誰か僕の……」
「仲間になります!!」
ぼくは彼女を無視しようとしたが、瞬時でぼくに詰め寄り、肩をポンと叩かれた。
日焼けした肌に比例して目とむき出しに笑う白い歯が印象的でした。
いやいや、今はそれが怖い!! 恐怖で気絶しそうです。ぼくはすぐに断ろうと思った。
「悪いけどあなたとは……」
「結婚を前提にお付き合いさせてください!!」
早すぎるよ、仲間からいきなりかっ飛ばしすぎです!!
生まれて初めてプロポーズされたけど、初対面の人に言われても冗談としか思えません!!
「結婚は早いですよ。というかまだ仲間に……」
「高原に一軒家を建てて子供はふたりほどほしいです!! そしてミノタウロスとケンタウロスで牧場を開いて編み物をしながらのんびり過ごしたいです!!」
人の話を聞いてよ!! というか何その具体的な案は!! しかも牛や馬ではなく魔物を牧場で飼育するの? というか飼育できるのかよ!!
というかあなたは編み物できるのか!?
「こう見えてもヒドラの首でマフラーを編んだことがあるのですよ。生きたままだから編むのが大変でした」
ヒドラの首かよ!? しかも生きたまま編んだの? 残酷にもほどがあるよ!!
だめだこの人、とてもじゃないが仲間になんかなれない。それにぼくより強いよねこの人。
断ろうとしたら、ぼくを軽々とお姫様抱っこしちゃいましたよ。
「私の名前はフィーリア。職業は村人です。よろしくお願いいたします勇者様」
そういってフィーリアはぼくの話を聞かず勝手に仲間になってしまいました。
(あなたみたいな村人はいないだろう!! むしろ戦士じゃなきゃおかしいだろ!?)
ちなみに酒場の人たちは完全に無視を決め込んでいたのが悲しかったです。
でもぼくも同じ立場だったらそうしていたと思います。
☆
「いよいよ魔王の城ですね、リーデル様!!」
「うん、そうだね」
フィーリアは興奮していた。でもぼくは気の抜けた返事をした。だって彼女はぼくより強いんだもの。なんでこの人ぼくの仲間になったんだろ、彼女の方が勇者にふさわしいと思いました。
選り抜きで彼女のエピソードを話します。何しろ彼女の活躍をすべて記すとそれだけで一冊どころか百冊書いても足りなくなるので。
ひとつは険しい山奥で落石がありました。下手すれば村ひとつ埋め尽くしてもおかしくない、岩の津波です。その際に彼女は前に出て大胸筋をぴくぴく震わせたのです。
その時に発生した衝撃波で落石をすべて吹き飛ばしました。ぼくや彼女よりもはるかに大きな岩をまるで紙吹雪のように吹き飛ぶ様は地獄風景としかいいようがなかったです。
「さすがです勇者様!! あなたのおかげで落石を防げました!! 普段は五回に一度しか成功しなかったのに、一発で決められました!!」
フィーリアはまるでぼくの手柄みたいに喜びました。いや、あなたのおかげですよ、なんでぼくを持ち上げるんですか? 恥ずかしくて穴があったら入りたいですよ。
というか五回に一度しか成功しないというけれど、それは五回に一度は成功したという意味ですよね? それでも十分すごいんですけど!!
「ビキニアーマーのおかげでもありますね。肌の露出が多いから、筋肉の影響もダイレクトに伝わったんだと思います」
(何そのビキニアーマー万能説は? どう考えてもあなたの肉体がすごいんですけど)
もうひとつは毒の湖のことです。船はなく、湖を渡らなければいけないときに彼女は蹴りを放ちました。
すると湖は真っ二つに分かれたのです。ぼくは唖然となりました。なんでこんなことができるのだろうって。
「簡単ですよ。すごい勢いで蹴りを入れるのです。その風圧で湖が割れたんですよ」
彼女はごく当たり前のように説明してくれました。
蹴りを入れても普通はそんなことできないよ!! じゃあ君は蹴りの力で空を飛べるんですか?
「蹴りで空を飛ぶのは無理です。両腕を広げて身体を回転させれば竹トンボのように飛べますけどね。勇者様のリクエストに答えられずごめんなさい」
そう言ってフィーリアはぼくに頭を下げました。ぼくは責めてないから!! というか人間竹トンボなら飛べるのかよ!! そっちの方がすごくないか!!
「それにしてもやっぱり勇者様はすごいですね。さっきの技は三回に一度しか成功しないのに、ぶっつけ本番で一発成功するなんて。さすがは勇者様です」
彼女は何故か何もしていないぼくを褒めたたえるのでした。すごいのはあなたですよ、勇者でも絶対にできません。あなたが勇者出ないのが不思議でなりませんよ。
「それとビキニアーマーのおかげですね。ビキニアーマーだから風の抵抗がなく、スムーズに蹴れましたから」
だからなんでビキニアーマーを推すんだよ。蹴りとビキニアーマーは関連性ないじゃないか!! この人はビキニアーマーを神か何かと勘違いしてないか?
極めつけは魔物たちとの戦闘です。とある村を守るためゴブリンの大群が矢を放ってきましたが、すべて彼女のビキニアーマーに当たるのです。
はっきり言ってビキニアーマーは胸部と股間だけしか守れない不完全な防具のはずでした。ですがゴブリンたちは雨のように矢を降らしてもすべて胸部のビキニアーマーで止めてしまったのです。
「中に鉄板が入っているから防げるんですよ」
「いや、鉄板が入っても胸部しか守れないじゃないか。なんで君は無傷なんだよ!!」
「簡単ですよ。だって男はビキニアーマーが大好きなんです。魔物も関係なく好きなのですよ」
違うと思うぞ。だって攻撃しているゴブリンたちですら困惑しているから。フィーリアを見る目付きは多分自分より格上のオーガかトロル並に畏怖していると思うな。
ゴブリンたちは彼女に恐れをなし、逃げていきました。
「みなさん!! ご安心ください、ビキニアーマーと勇者様のおかげで村は救われました!!」
「うぉぉぉぉ!! 勇者様ばんざーーーい!!」
フィーリアはゴブリンが逃げ去った後に、右手を天高く上げると、勝利宣言をしました。なぜか何もしていないぼくを持ち上げて、村人たちもそれに乗りました。
いや―――!! 恥ずかし――――――!!
村を守ったのはあなたでしょう、しかもその筋肉と一体化したビキニアーマーですよ。
村人もぼくをはやしたてるのはやめてください。勇者最高なんて言われたら顔から火が出るくらい恥ずかしいですよ。
こうして彼女のおかげで魔王の城へたどり着けました。ええ、その間ぼくは何もしませんでしたよ。全部彼女がやってくれました。常に彼女の背中に隠れてましたよ。
そしてすべての手柄はぼくに譲るのです。ああ、厚顔無恥になりたい。
これでもまだマイルドな話です。異空間に閉じ込められた時や、ドラゴンと戦った時の話はあまりにも悪夢過ぎて語る気になれません。今度本を発行するので読んでください。
☆
「よくぞきた勇者とその仲間よ!! 我は魔王マリンコニアである!!」
ぼくとフィーリアは魔王のいる玉座へたどり着きました。途中で魔物や罠に出くわしましたが、全部フィーリアが処理してくれましたよ。もちろんビキニアーマーを力説したのは言うまでもありません。
魔王は黒いマントに仮面を身に着けていました。やけにくぐもった声をしてますね。
「魔王マリンコニアよ!! もう勇者リーデル様が来たからにはお前の天下は終わりだ!! 今すぐお前なんかリーデル様がコテンパンにやっつけてしまうだろう!!」
ちょっ、ぼくを差し置いて何挑発しているの? ぼくは弱いから何もできないよ。フィーリアがいなければぼくは何もできないんですから。きっと手下たちにも勝てないよ。たぶん人間の子供でも負ける自信があるね。情けないけど。
すると魔王マリンコニアはあざ笑った。
「何がコテンパンだ。すべてはそこの女が露払いをしただけではないか。おそらく我の手下どころか人間の子供にも勝てぬであろう。所詮は勇者など名ばかり。女の影にこそこそ隠れて人の手柄を横取りする卑怯者だ!! 早くニセ勇者と決別するなら見逃してもよいぞ!!」
本当のことを言われたけど、内心は安堵した。なんで魔王がぼくのことを知っているのかわからないけど、勘違いしまくるフィーリアや他の人たちに比べると好感が持てました。
これでぼくの好感度が駄々下がりすることを期待したけど、フィーリアはまったく動じてません。それどころか不敵な笑みを浮かべる始末です。
「ふふん。そんなのは百も承知の事。リーデル様がスライムより弱くて、魔法もマッチがあれば早いほど下手なのも知っています」
ええ!? フィーリアさんは俺の弱さを知っていたの? 知っててなんで俺を推しまくってるのさ、意味が分からないよ!!
「リーデル様、勇者様は四年前、まだ十歳だった私を励ましてくれたのです。あの時の私は弱虫で引っ込み思案でいつもいじめられていました」
何言ってるのこの人? 四年前で十歳だと、今は十四歳だよね? ぼくより年下じゃないか!!
それに弱虫で引っ込み思案? どこをどうみたらそうなるの? この人をイジメようとするなんてそいつらはどれほどチャレンジャーなんだよ!! ああ、昔の話だからか。当時のいじめっ子は今の彼女を見て、自分のした過去の行為を後悔するに違いない。
「夕暮れの河原でいじめられて泣いていた私を力づけてくれたのです。身体が細ければ肉を付ければいいじゃないかと。それでその日から身体を鍛え筋肉を身に着けたのです」
そういえばそんなことがあったっけ。でも肉をつけすぎだろ、鎧を着たみたいになってます。しかも人外の力を得ているよ。どんな鍛え方をすればそうなるのか知りたいんですけど!!
「勇者とは力が強い者のことではない! 真の勇者とは周りの者に勇気を分け与える者の事!! そして生きる活力を沸き上がらせる者のことだ!!!
ただ強いだけの勇者など勇者にあらず! そんなものは野蛮人と同じだ!! だからこそあなたもリーデル様に惹かれたでしょう? だから勇者様の悪口を言って私と別れさせようとしたのですね」
フィーリアはにやりと笑った。あきらかに魔王は動揺している。え? ぼくに惹かれているの、魔王が? 何かの冗談だよね、むしろ冗談扱いしてほしいんですけど!!
すると魔王は立ち上がり、仮面とマントを脱ぎ捨てました。
そこには紅いウェーブのかかった髪に、青い肌。頭にはヤギの角が生えており、瞳もヤギと同じです。
そしてマントの下はビキニを着ていました。均整の取れた体つきで、筋肉より脂肪が多いようです。背中には蝙蝠の羽根がパタパタ動いており、尻尾も生えています。
千人いれば千人とも彼女を絶世の美女と絶賛するでしょう。というかこんな人が何で何のとりえもない勇者と名乗るのもおこがましいぼくに惚れているの?
「まさかわたしの心を見透かすとは。さすがは勇者の仲間ですね。兜を脱がせていただきます」
「うふふ。そのビキニはリーデル様の気を牽くために身に着けたのですね。だけどマントの下にそれを隠す。なんともいじらしいことです」
「ううっ、恥ずかしいです……」
フィーリアに指摘され、魔王は顔を赤くしました。というか人間にやり込められる魔王なんて初めて見たよ。もじもじして好きな人に告白できないいじらしさを感じました。
「ですがあなたは詰めが甘い。あなたが身に着けているのはただのビキニです。リーデル様は私のようなビキニアーマーが大好きなのですよ」
そう魔王が身に着けているのはただの水着。中に鉄板が入っていない普通のビキニなのです。
そうじゃなくて!! ちょっと待ってよ、俺はビキニアーマーは好きでも嫌いでもないよ。何勝手なことを言っているのさ!!
「なるほど……、確かにリーデル様のビキニアーマーに対する情熱は遠目の魔法から視ても理解できます。フィーリア殿を見るリーデル殿の視線はまるで相手を焼き尽くすようなものを感じました」
「全くその通りです。時折リーデル様の視線で私の背中に火が付きそうでしたよ。もっとも勇者様は心優しいですからその前に目をそらしてくれますが」
「なんてリーデル様は優しいのでしょうか。わたしますます勇者様に惚れましたわ!!」
いや魔王も勘違いはやめてよ。そうか、ぼくのことを詳しいのは遠目の魔法のおかげか。あっはっは。おっといけない、つい現実逃避をしてしまったよ。あまりに超展開なので理解がついていけないんです。ぼくはフィーリアをそんな目で見た覚えはないんですが、恋は盲目なのでしょう。というかあなたを視線で焼くなんて真似できませんよ。
きっと魔王の目にはぼくが情熱的な目でフィーリアのビキニアーマーをねめつけるように見たのだろうな。
「ですが間違いはただせばよいのです。勇者様は寛容で大空の如く心が広いお方です。大丈夫、魔王でもリーデル様はあなたを受け入れるでしょう」
「まあ、本当ですか!! ぜひお願いいたします!!」
「ええ、私とあなたは今日から姉妹です。共にリーデル様を慕いましょう!!」
魔王はフィーリアの言葉に食いつきました。とても嬉しそうです。いやぼくに断りもなく了解するのはどうかと思うぞ!!
魔王はぼくに向かって頭を下げました。ちょっと、なんで魔王がぼくに頭を下げるんですか、すごく居心地が悪いですよ。胃に穴が開きそうな勢いです!!
「魔王マリンコニア、勇者リーデル様の下僕となります。以後は私を犬畜生として扱ってくださっても構いません。手足を切断し置物にしても文句を言うつもりはありません。といいますかぜひお願いします」
そういって魔王はうっとりした表情でぼくを見た。
怖い、怖いよ。犬畜生とか、手足切断とかドン引きですけど!! しかも本人はそれを望んでいる感じだし、こっちのほうが身震いするよ!!
「それと私の配下である一族たちがリーデル殿に自分の娘を贈与したいと願っております。ラミアにハーピー、ケンタウロスにアラクネ、サイクロプスにスライムと多種多様です」
「それはいいですね。勇者様の寵愛は私だけでなくみんなにも与えるべきです。ですが一番大切なことは忘れてはいけませんよ」
「それはなんでしょうか?」
「それは全員ビキニアーマーを身に着けることです。勇者様はビキニアーマーが大好物なのです。それを忘れてはいけませんよ」
フィーリアは先輩風を吹かせており、魔王ことマリンコニアは子犬のようにしっぽを震わせながら喜んでいた。
「……もう我慢の限界だ」
ぼくは怒った。フィーリアに対して腹の中に溜まったものを吐き出したくなった。
彼女は勝手にぼくに理想を押し付けている。もっとも僕の実力を知っていながらも、それを問題視しないのは構わない。
だけどぼくが許せないことはただひとつだけ。これだけはきちんとわからせないと気が済まなかった。
「ぼくはビキニアーマーなんか好きじゃない、バニーガールが大好きなんだ!!」
今回は二作品を反省して、わかりやすくしたつもりです。
ビキニアーマーを出しましたがエロくないようにしました。
そもそもビキニアーマーという単語自体下ネタになるのだろうか。ボディービルダーはセーフでしたけど……。