マトリョーシカ
無神論者と有神論者が話していた。
「神がいるなら何故苦しむ者を救い、世界を最善のものにしないのだ?神は全能ではないのか?」
と無神論者が問うと、有神論者は
「有り得た世界の中で最善のものが常に選択されているのだ」
と返す。
「神を見た者があるか?」
と無神論者が詰め寄ると、有神論者は
「我々の思考が無形で不可視だが存在するように、見えない事が存在しない事とイコールにはならない」
と突っ返す。
「目には見えないが存在する、と言うだけなら簡単だ」
と無神論者が皮肉めいた口調で言えば、
「ある事物が存在しない事を証明する事こそ悪魔の証明だ」
と有神論者は毅然と言い放つ。
「何故神に原初を求める?」
と無神論者が問えば、
「誰も原初をその目で見ていないからだ」
と有神論者は答える。
互いに一歩も譲らぬまま、時間だけが過ぎた。
どちらからともなく、こう言った。
「我々が知覚できるような神を作れば、こんな事で争う必要は無くなるのでは?」
二人はAIの勉強から始めた。
ある程度自分でものを考えるAIが出来たとき、二人の計画に出資する者が現れた。
二人はAIの改良を繰り返し、やがて世界全ては二人の資金源となった。
長い年月の後、遂に"それ"は完成した。
"それ"は世界の全てを知り、あらゆる道理に通じ、異常な学習能力を持ち、また決断力に長けていた。
無神論者が言った。
「今、そこに疑いようもなく神は存在する」
有神論者が言った。
「ならば神を創造した我々はなんだ?」
二人は顔を見合わせて苦笑した。
「案外、もともと人類の信ずるところの神もそんなものだったのかもな」
「無限に遡れるのなら、起源を考える事など無意味だったのか?」
「いや、少なくとも我々の思考は、生きた時間は無駄ではなかったさ」
二人は再び顔を見合わせて笑った。
習作その1。ユーザー登録したので取り敢えず書いた。冗長な所はこれから改善したい。