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ロストSavior  作者: TNO
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004 印付きの建物

 バシリア巨塔を出発してから半日が過ぎ、陽が地平線へ沈みかけていた。

 セレスティールの中心から少し離れた郊外、周囲の建物は疎らになり、高層ビルに代わり、一軒家が点々と並んでいる。大半が劣化によって部分崩壊しているが、中には少し補修すれば住めるほど形を保っている家もある。


 周囲の建物には所々に赤い塗料による印で飾られていた。それらはコメットの部隊より前に訪れた塔の者のメッセージである。内容は至って分かりやすく、主に危険度を表す簡易的なものとなっている。


 丸ならば確かめた時点では安全。休息を取ったり、雨宿りが必要な場合はこの印が付いた建物が好ましい。危険度は低めだが、印が付いた後にミュータントが住み着くこともあるので、あまり過信はできない。飽くまで比較的に安全で、中の破損量も少ないという目安に過ぎない。

 バツならば危険、決して近づいてはならない建物である。これには様々な理由が考えられる。ミュータントが住み着いている、建物が崩壊する危険性がある、汚染濃度が高い等、近づいただけで危険に晒される建物にこの印が付けられる。

 中には察知が遅れ、逃げ切れなかった者の白骨した遺体が残っている。残された装備品は回収されるのが常であるが、バツ印付近ならば被害者が増える可能性により、殆どの場合放置される。

 そして、数は少ないが、絵で印されている建物も存在する。機材や物資が何らかの理由で補完、放置された時に、それらを模った絵で印されている。

 妙に凝った絵も稀に存在し、軍の中で軽く噂になっている。同一人物だと思われるが、作者が不明である。毎回立派な作品と呼べる程の絵が点々と存在している事実に、誰もが好奇心をくすぐられる。中にはその作者の絵ある道を通ると幸運に恵まれ、ミュータントに出会わないとオカルト的な噂をする者もいる。

 そのような根拠のない噂などコメットは信じてはいないが、印の重要性は身を持って理解している。印があるか無いかで危険を避けたり、物資が足りない時に発見することができるのだから。


 コメットのチームは建物の印を注意深く探しながら公道の真ん中を歩く。あれからブラボとチャーリからの通信は完全に途絶えていた。無線機の故障か、それとも予想より距離が離れすぎたのか。もしかしたら彼らは現在、非難のため電波の届きにくい場所に移動した可能性も否めない。それとも、考えたくはなかったが、彼らはもう……。


 「隊長、かなり暗くなってきました。そろそろ丸の家で夜を過ごすのも考慮すべきかと」


 ベルクが横に並び、少し先に見える一軒家を指す。


 暗くなれば暗視ゴーグルを使っても、夜目の効くミュータントの方が圧倒的に有利である。コメットのチームは事前情報により、この先にあると記されたセーフハウスを目指していた。だが、実物の外見を知らない彼らは建物の印と位置情報を頼りに探すしかなかった。


 「そうだな、この辺りのはずなんだが……これ以上は危険だな。今回は諦めて丸の家で夜を過ごすか……ん?」


 丸の家に向かおうとした時、視界の右片隅で何かが動き、反射的にそちらに銃口を向ける。


 その反応を見て、他の三人は何も言わず素早く戦闘態勢に入る。敵の場所が分からないため、死角がないように背中を合わせる形で陣取る。




 (…… 見間違いか?)


 数分間の沈黙の後、コメットが ゆっくりと銃口を下すと、それを合図に他も警戒を解く。すると、ハリスが先程コメットが銃口を向けた脇道を見ながら話しかけてきた。


 「何かいたんすか隊長?」

 「いや、気のせいだったようだ」

 「ま、ミュータントに出くわすよりは気のせいで済んだ方が――ってどうしたんすかボーラスさん?」


 振り返るとボーラスが目を細め、脇道の奥を指さしていた。

 彼が指す方向に目を凝らすが、本格的に暗くなってきた今では奥に建物のシルエットがぼんやりと見えるだけだ。


 「あっ!あれじゃないすか、ウチらが探してたセーフハウスーーぐはっ!」


 声が大きい、とベルクが暗視ゴーグルを付けたハリスの脇腹に肘を入れる。

 コメットも自分の暗視ゴーグルを装着して覗いたところ、確かに印が付いてる建物が見えた。この暗さと距離であれを発見するとは、ボーラスの眼力に驚きを隠せずにいた。だが、今はそんな事よりもさっさとセーフハウスに移動した方が良いと判断し、脇道へと先導する。




 「えー……」

 「こ、これは……」

 「うわー……」

 「……」


 セーフハウスの前に立つと全員が思わず顔を引きつらせ、ボーラス以外が落胆の声を上げる。


 そこには一般的な二階建ての一軒家があった。壁の一部が崩壊しているため、中にある家具が顔を覗かせていた。とめてもセーフハウスと呼ぶには疑わしい姿ではあったが、全員が顔を引きつらせたのには別の理由がある。

 

 【絶対セーフハウス】【絶対安心】【絶対安全】【絶対快適】


 セーフハウスの壁には単純な家の絵があり、横に多くの売り文句が並んでいた。何故か全てに「絶対」が手前で強調していた。ここまで強調されると逆に信用できなくなるから不思議だ。無事帰還できたらこの印の作者を見つけて問い詰める必要がありそうだな。もっとも、そんな機会が訪れる可能性は低いが……。


 「ハァ……とりあえず中にあるセーフハウスを探すぞ」


 了解の返事が後ろから返ってきて、コメットは銃を構えながら玄関の扉を開ける。中は長年放置された汚れや劣化が見えたが、それでも人が訪れた後があった。床にある複数のブーツの跡からコメットの部隊より先に訪れた別の部隊ものだと分かった。

 各部屋の入り口にはご丁寧に何の部屋かまで書いてあった。正面には崩れた二階へ続く階段、その脇に奥へと伸びる廊下。右手には外から見えたリビングとキッチン。 左手にはトイレ、クローゼット、そして書斎。書き込みによるとどうやら書斎にセーフハウスへの入り口があるようだ。

 色々と詮索したかったが、明りの無い狭い空間での戦闘は危険だと判断し、一直線に書斎へ向かう。


 扉に辿り着くと壁にもたれハリスとベルクが扉の反対側の壁に移る。ハリスが扉を開けると皆が一斉に中に入る。


 書斎の中は全ての壁一面に本棚が覆っていて窓一つ無い真っ暗な部屋だった。もっとも、暗視ゴーグル越しで全てはっきりと赤く映っているが。部屋の中央には机と椅子だけが置いてある。


 「ハリス、セーフハウスの入り口を探せ」


 中に敵がいない事を確認するとハリスに命令を飛ばす。とはいえ、セーフハウスの入り口も丁寧に矢印で記されていたため、発見は容易だった。

 床の一か所に隙間があり、そこを引っ張り上げると頑丈そうな鉄の扉が現れた。


 「お、こいつは中々しっかりしてますね。これなら中でマスク取れるかもしれないっすね」

 「まだ安心するには早いわ。そもそも通気性が失われてたらマスクがあっても窒息してお陀仏だ」

 「ベルクさんもうちょっとポジティブに行きましょうよ……」

 「ふん、楽観視する気が無いだけだ」


 セーフハウスの作りは様々だ。それぞれ用途が違うのもあるが、一般的なものは庭や倉庫の地下に作られる。これらは主に自然災害に対しての作られることが多い。何故なら家の中にあると地上の物が崩れ、出入りが困難になる可能性が高いためだ。何より、瓦礫の下だと発見され、救助されるのも難しくなる。

 しかし、家の中に、しかも入り口を巧妙に隠すということは、外敵から隠れる事を前提にしているのが主だ。

 そして推定された滞在時間によって中の設備が変わる。滞在時間が短ければ、水や食料、携帯できる小さな物資で事足りるだろう。滞在時間が長ければ通気性や電力を考慮しなければならない。外の空気が汚染されていれば清浄機の必要性があるからだ。

 そのような設備を揃えるにはそれなりの財力も必要なため、数はかなり限られる。何より長期間滞在を予想したセーフハウスを作る理由が普通は無い。あるとすればそれは……。


 「とりあえず開けるっすよ?ここに暗唱番号も書いてありますし」


 扉に付いてる電子パネルを操作しながらハリスが言う。ロックが解除され圧縮された空気が流れた後、重い鉄製の扉が開く。


 「それじゃ、お先!」

 「あ、おい!何を勝手に――」


 ハリスはセーフハウスの梯子を掴み、ベルクの言葉を聞かずに手を緩め、一気に滑り降りて行く。暗闇に飲み込まれたハリスの姿は見えないが、しばらくすると無線機を通して生存報告が返ってくる。


 「はぁ、あいつは本当に……。では隊長、お先します」


 ベルクは溜息を付いた後、梯子を掴み、同じように闇の中に滑り降りた。

 無事降りきった事を無線機で確認すると、コメットは机を観察していたボーラスの背中に向かって指示を出す。


 「ボーラス、入り口を閉めるのを忘れないようにな」

 「……」


 首を少しだけコメットに向けて短く頷くのを確認すると、コメットもセーフハウスの中へと入った。




 残っていたボーラスは無表情のまま、机の上を走らせた自分のグローブの指を見ていた。埃一つ付いていない自分の指を。


 「どうしたボーラス?何かあったか?」

 「……いえ」


 短い返事を返し、隊長に指示された通り重い扉を閉めて長い梯子を下りた。

アルファ、セーフハウス発見。

そこで一晩過ごす。

その気になる中は次回「絶対セーフハウス」

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