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ロストSavior  作者: TNO
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001 出動

 「特殊詮索部隊隊長、コメット・バーリング」

 「はっ!」


 父親に名を呼ばれ、コメットは部隊から数歩前へ出る。


 「今回の任務は我々、バシリア人にとってとても重要な詮索任務である。この任務の成果によっては我々の安泰を意味する事を念願に置いて遂行せよ。そして、フレイ陛下より直々の激励を心して聞くが良い!」


 過去に何度も聞いたセリフが広場に響き渡ると、コメットは元の位置へと下がる。父の横で退屈そうに座っていたフレイ陛下がゆっくりと立ち上がり、階段の上から見下ろす。軍服に包まれた金髪少女は部隊を見据え、その青い瞳がコメットの視線と一瞬交差する。しかし、直ぐに彼女の視線は広場に移り手で薙ぎ払うような仕草で高々と言い放つ。


 「バシリア国民よ、またこの時が訪れてしまった。我々の同胞を長期間危険な外界へと送り出す時が。これはかなり危険な任務であると我も理解しておる。しかし、我々の未来を決める重要な任務といっても過言ではない!選ばれし者達よ、必ず吉報を生きて持ち帰れ!我に、そしてこのバシリア巨塔に住む皆に、繁栄と栄光をもたらすのだ!」


 先ほどの退屈そうな表情が嘘だったかのような、気迫のこもった声が発せられた。それに負けじと、雄叫びが沸き上がる。


 普段のコメットならばここで誇らしげな表情を浮かべ、同時に任務のやりがいを感じるのだが、今回はむしろ先の不安しかなかった。なるべく表情を取り繕うが、どうしも眉間に皺を寄せてしまう。本当にフレイ陛下がこの任務に許可を出したのだろうか?疑問と迷いは昨日から変わらず続いている。


 (あの慈悲深く、そして何よりこの塔の民を思うあのフレイ陛下が……?もしや誰かが裏で糸を引いているのでは?)


 ありえない陰謀説が脳裏を過るが、すぐその考えを振り払う。それをここで考えるのは危険で、言葉にしたらそれこそフレイ陛下だけでなく、この塔全ての者に見捨てられるだろう。


 余計な考えは捨て、気持ちを切り替え、視線をフレイ陛下に戻す。すると彼女がコメットの方を見ていることに気づく。彼女は軽く微笑むと、大衆に向き直り命じた。


 「さあ、時間だ!特殊詮索部隊、出動!」


 それが合図となっていた、コメットは部隊を引き連れて広場を後にした。彼らが退出した後も広場の雄叫びは続き、下の階層に移るまで止む事はなかった。




 ロッカー室に着いたコメットの部隊は各自のロッカーで装備を確認し始めた。事前に準備され不備などありえないのだが、飽くまでも最終確認に過ぎない。

 コメットも自分のロッカーに入っていた装備を入念に確認する。ガスマスク、これに不備があっては外でまともな呼吸ができないまま死んでしまうだろう。替えのフィルターも二つある、一つ半日以上は持つとはいえ今回のような任務では何日分も必要かもしれない。帰還時間も考えると下手すればこれでは足りない可能性がある、だが支給された量がこれならばそれが適切だと判断されたのだろう。

 半場無理やり自分を納得させ武器の確認に取り掛かる。今回コメットに支給されたのは小銃、拳銃、そしてサバイバルナイフ。ここで狙撃手のような役職を与えられていれば小銃ではなく狙撃銃などが与えられていたが、今回コメットは隊長という役職上この組み合わせになる。

 最後に携帯食料と水を確認してリュックに詰めていく。外で食事ができる状況は非常に少なく危険だが、それでも長期の可能性がある以上は飲まず食わずというわけにはいかない。最後に無線機のイアピースを着け、音声に問題ないことを確認する。


 リュックを背負い、小銃を肩に掛け、皆も準備を終えていることを確認すると巨塔の出口へと向かう。


 人数は四人チームが四つ、整列した総数十六人が出口の前でコメットの指示を待つ。


 「全員マスク装着!」


 皆が一斉にマスクを着け始めるとコメットも自分のを着ける。ゴム製のストラップが後頭部を締め付け、呼吸音がくぐもったものへと変わる。皆が装着し終えた事を確認すると、ガラスの向こう側にいる警備兵へ合図を送る。小さく頷き、警備兵が手元のパネルを操作すると後方の扉が徐々に閉まる。


 後ろの扉が閉まりきると、騒々しい音を立てながら外界への扉がゆっくりと上がる。外の汚染された空気が流れ込み生じた風圧にコメットは軽く手で顔を庇う。

 やがて扉は上がりきり、空気が落ち着き手を下す。すると旧バシリア国の中央都市、セレスティールが目の前に広がる。


 今となっては人の生活できない環境となったセレスティール。長年放置されていたにも関わらず、建物やその他の人工物はまだ形を保っている物が多い。自動車は乗り捨てられ、まるで人が忽然と消えたような、いわゆるゴーストタウンの姿が一番近いと思われる。

 そんな風景に赤い塊があらゆる場所に点在している。この国を滅びに導いた物質、レッドラストは壁であろうと天井であろうと、あらゆる場所にへばり付いていた。


 「これより鉱山へ向かう、各チームはリーダーの指示に従い行動せよ。過去の捜索隊の功績により鉱山までの道中は比較的安全のはずだが警戒を怠るな。検討を祈る。」


 部隊はチームごとに散開し事前に与えられていたルートで鉱山を目指し北上する。コメットのチームは中央通りの市場を抜けるルートが与えられていた。




 ・・・




 「しかし幾ら捜索済みとは言っても、もう何年も前の話でしょ?全然当てにできないんすけど……」

 「だから隊長は警戒を怠るなといったんだ、もう少し緊張感を持て」

 「へいへい、勿論警戒は怠っていませんよ。それに、ここならまだ塔の目の範囲内だから大丈夫っすよ」


 塔を出て数分と立たない頃、ハリスとベルクの短い会話が無線機を通して耳に届く。


 ここに来て初めて短くとも会話が交わされる。この程度ならば問題はないだろうが塔の中ではあまり迂闊な会話は避けなければならない。そのせいか後ろを歩くハリスとボランはいつもより口数が少し多い。


 「警戒している態度を見せたいなら、せめて銃をしっかり持て!いつもお前はそうやって……」


 プラプラと銃を片手で持つハリスに対して、後ろに続くベルクが、まるで出来の悪い息子でも持った父親が叱るかのように小言を述べ始める。


 不真面目な雰囲気なハリスだが、これでも成績はそれなりに優秀だったはずだ、警戒を怠っていないのも嘘ではいないだろう。この部隊の中で最年少の十八だからなのかそれとも元々の性格か、少年っぽい部分がある。普段は時折小さな悪戯を仕掛けたり、新しい遊びを探したりしているらしい。

 それに反して部隊最年長、四十代前半のベルクは普段から眉間に皺を寄せ小言をいう事が多い。特にハリスには長い付き合いなのか、小言が他よりも長い。バシリアでは四十代になったら引退生活が約束され勧められる。だが彼は引退せず兵士となり続けることを選んだ。


 「……」


 そして無言で最後尾を守るの男はボーラス、コメットと同じ二十代前半だ。狙撃担当でもある彼は二人の会話など意にも介さず周囲へと目を光らせている。ボーラスとは訓練外では面識が殆ど無いためコメットには謎の多い人物となっていた。普段から寡黙な彼とは碌な会話すらした覚えがない、時折低めの声で短い返事をする程度だ。


 「ちょっと隊長、ベルクさんを何とかしてくださいよ。何で塔の外でも小言を聞かなきゃいけないんすか?」

 「お前が塔の外でも不真面目な態度だからだろうが!」

 「もうすぐ塔の目の範囲から抜ける、じゃれ合うのもその辺にしとけ」 


 本来、あまり無駄口を叩くのは感心できないがこの部隊メンバーが編成された本当の理由を知っているコメットはあまり強く言う気になれなかった。




 私語が無くなったコメットのチームは、無人の市場を黙々と進む。鉱山を目指して歩を進める中、コメットは数日前父親に告げられたこの任務の本来の目的を思い出していた。


 あの忌々しい父親の話が本当ならば、この任務のメンバーはほぼ全員死ななければならないのだから。

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