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転送屋スレイプニル  作者: 堀江すてる
2/19

初仕事

月も高い位置に上った深夜、俺は街の外にある港の倉庫の中に居た。

 ギルドからの依頼で、街の中に物資を運び入れなければならなかったのだが、夜中に行動するように指定されたのだ。

 俺は欠伸をかみ殺しながら、地面に粉を撒いていた。

 倉庫の中には、人がそのまますっぽりと入れそうなほどの木箱がたっぷり積まれており、これを全て今夜中に街の中に転送させなければならない。

 ギャメルの時の様に、ナイフ位の大きさの物ならば問題ないのだが、大きなものとなると簡単には転送することは出来ない。そういう時は地面に魔法陣を描き、己の魔力を高める必要があるのだ。

 充分な量の粉を撒き終ると、俺は一言簡単に呪文を詠唱する。

 この呪文と言うのは正直なんでも良かったりする。自分の頭の中にあるイメージを具体的に表現するために言葉にするだけであり、ギャメルのナイフを転送したときの様に呪文を唱えなくても発動はする。地面に魔法陣を描く魔法と言うのは初期に覚えなくてはいけない魔法の中でも難易度の高い魔法であり、俺は習得したときに「陣を描け」といって成功したので、それがそのまま癖になっているのだ。俺の呪文に反応し、地面に撒かれた粉はまるで砂鉄が磁石にくっつくように移動すると、瞬時に魔法陣を描き出した。

 この粉は学院で造られる特殊な物であり、魔術師の御用達品なのだ。

 魔法陣の中心に立つと、俺は瞑想を始めた。

 人によっては、目を瞑ったり、胸の前で手を組んだりと、色々なやり方があるようだが、俺には特にこれと言ったスタイルはない。腰に手を当てて、目の前に積まれた木箱を見て一つ息をつく。

 中に入っている物が何かは聞いていない。関所を通したくないと言うからには、何かしら曰くのあるものなのだろうが、深く詮索することで自分の身を危険に晒すこともないだろう。とりあえず俺は、与えられた仕事をこなすのみなのだ。

 自分の体に魔力が溢れてくるのが感じられてきた。そろそろ開始する頃合いだろう。

 俺は魔法陣から出ると、積み重なった木箱の上に方に積まれているものから転送するべく木箱をよじ登っていく。

 基本的に転送出来るものは、自分が手を触れている物に限られる。箱や鞄と言ったものは中に入っている物も一緒に転送することが出来るが、積み重なっている場合、下の物を先に転送すると、上の物が落ちてきてしまい危険だ。本来ならばギルドのスタッフが手伝いに来てくれてもよさそうなものなのだが、あまり目立ちたくないという事で俺一人で倉庫内で作業することになる。転送先は街の中にあるギルド所有の倉庫であり、そちらにはギルドのスタッフが多数配置されているようだ。

 街の外から街の中への転送という事で、物の大きさの問題以外に距離の遠さと言う問題もあった。転送魔術と言うものは、大きく、重く、遠くと言う条件が付くほど難しくなり必要とする魔力も多くなるのだ。今回は昼間の内に、転送先の倉庫に足を運びマーキング用の魔法陣を設置しておいた。この魔方陣を設置してあればかなり遠い所であっても正確に転送することが出来るようになる。

 一番上に積まれている木箱の前にまで辿り着くと、俺は精神を集中させ、マーキング用の魔法陣から発せられる微量の魔力を感じ取る。

 手を伸ばし木箱に触れようとする瞬間、ガタッと下の方から何やら物音がした。

 途端に俺の集中は解けてしまう。こんな時に転送するとどこに飛んでいくは見当もつかなくなってしまう。

 俺は木箱の上から倉庫の入口の方を窺った。

 特に変わった様子もなかった。

「おいおい……勘弁してくれよ……」

 倉庫には俺一人のはずである。

 空耳であろうと自分を納得させ、再び集中状態に入った。

「……がは……んか」

 今度は何か囁くように喋る声が聞こえた。空耳ではない。はっきり聞こえた。

「お前が犯人か~~~!!」

 と、俺が木箱から降りようとしていた所で、叫び声が倉庫内に響き渡った。

 積み上げられた木箱がグラグラと揺れ始める。爆発音も轟き、一番下の箱が爆散した。

 雪崩の様に崩れていく木箱に巻き込まれると自分の命が危ない。とっさに俺は自分の胸に手を当て自分自身を転送した。

 転送魔術師であっても、自分自身の転送は得意と言う魔術師は少ないと思う。それは生物の転送に付きまとうリスクと言うものを理解しているからだ。物であれば壊れるだけで済むが、生物の場合転送の失敗は即死を意味している。壁や物が存在している位置に転送してしまえば簡単に体が両断されてしまう。

 俺は目に見えている範囲で倉庫の隅っこに自分を転送し、何とか成功した。普段行わない自己転送による緊張で軽く体が震える。

 振り返ると、木箱が盛大に崩れていく。

 ああああ、初仕事から失敗か……。

 そんなことが頭をよぎった瞬間、崩れていく木箱が倉庫内の埃を巻き上げている中から人影が飛び出してきた。

 真っすぐ俺の方に向かってくる。俺は精神を集中させ身構えた。

 埃の中から飛び出してきたのは、みすぼらしい恰好をした黒髪の女だった。

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