発見
俺達はギャメルの案内で街道の迂回道にまでやってきた。
昼過ぎにガリウス博士の家に行った後なので、今はもう日が落ちようとしている。
街道のこの辺りは、以前街道を封鎖していた兵士達がテントを張っていた辺りだろうか。あの時はテントや兵士たちの荷物で隠れていたようだが、何もなくなっている今は、街道をそれる形で新しく道が作られているのがよくわかった。
「この道は化け物を避けるように作る予定だったから、森の中を突っ切っていく計画になっていたんだ。だが森まで道を作っていったところで計画従事者たちの失踪が相次いで途中で計画が頓挫していたんだな。だから半分程しか完成していない」
ギャメルが情報を開示してくれる。
「森の中か……。拠点を構えるにはうってつけだな」
ギャメルのその一言を合図にしたかのようにユズルナは剣を召喚していた。リオもいつの間にかナイフを構えていた。
俺は二人の行動の理由をすぐに理解した。
薄暗い森の中から剣と盾を構えた集団が飛び出てきたからだ。
俺は叫びそうになっていた。
突然の事にビックリしたからではない。出てきた集団は剣と盾以外には何も身に付けていなかった。衣服はもちろんだが…、肉や神経、血管等も存在していなかった。
「スケルトンか、雑魚だな」
ユズルナはそう言うと集団の中に飛び込んでいった。
そうだった。俺も学院にいた頃にこういう存在の事は勉強していた。
死霊術と言う極めて珍しい系統の魔術師が、死体を利用して行う術の中にスケルトンやゾンビを造るものが有った。
制作した術者の命令を忠実にこなすと言う利点はあるものの、動きは生きている人間に比べてひどく鈍いものであり、自ら思考できないので複雑な戦術などをこなすには向いていないはずだった。
ユズルナは先程の言葉を証明するかの様に盛大にスケルトンたちを破壊していく。その手に持っているのは剣と言うよりこん棒と言った方がいいような大振りの大剣だった。
肉体を持たないスケルトンに対しては、斬撃と言うのは意味を持たない。骨を折るなり、叩き割るのが有効なようだ。ユズルナは剣の腹を上手く使う事でそれを実践していた。
一方のリオとギャメルは先程抜いていたナイフでは勝手が悪いと判断したのか、いつの間にか紐に重りをくくりつけたようなものを武器にしていた。
リオは一体一体正確に重りを直撃させて敵を戦闘不能にしていく。ギャメルの方は紐を大きく振り回して射程圏内に入ってくるものを手当たり次第に攻撃していた。
戦い方にも性格が出るものだなと、思っていたのだが、よく見ると二人はうまく連携していることに気付いた。ギャメルは適当に攻撃しているようで、敵がリオに近づけない状況を上手く作っている。そしてギャメルの攻撃が致命打にならなかった敵をリオが屠っているようだ。
さすがの盗賊ギルドコンビと言った所だろう。
三人がかなりの数のスケルトンを倒していく。こういう時俺は大した事が出来ない。
ふと足元を見ると手ごろな石が地面に埋まっているのに気付いた。
これをスケルトンの頭の上に転送すれば、それなりのダメージを与えられるのではないだろうか。
うん、このまま三人だけにまかせっきりにしていて自分だけのんびりしていてもしょうがないだろう。
見ると俺達の足元はスケルトンの残骸であふれかえっていたのだが、何処から湧いて出てきているのか森の奥から次々とスケルトンは顔をのぞかせていた。
俺は魔法の粉を足元に撒き散らすと、唱え慣れた呪文を一言呟く。
足元の粉は見慣れた魔法陣を形成すると、俺に魔力の供給を始めた。
狙いはユズルナの奥の森だ。
あそこから一番多くのスケルトンが出現してきているように思えた。
体の中に十分に魔力が溜まったのを感じると、俺は足元の石に手を触れさせ魔力を解放した。
次の瞬間大きく空気が切り裂かれる音が当たりを包んだ。
「んなっ!!」
ユズルナが驚いた声を出して、慌ててこちらに引き返してくる。
ギャメルもリオを抱えると木の下にあった洞の中に飛び込んでいった。
俺が転送した石は、俺が想像していたよりもはるかに大きなものだった。
地面から突き出ていたのは、全体のわずかな部分であったようで、転送され全体が露わになったそれは大きな屋敷ほどはあった。
木々をへし折りながら地面に向かって落下してくる巨大な石に対して、スケルトン達は興味がないらしく、完全に地面に落ちてきた石によってそのほとんどがバラバラに粉砕されていた。
ユズルナは石に押しつぶされるのを避けるために、逃げながら最後は大きく体ごと飛んでいた。その顔は見事に土で汚れていて、その土を払いながら俺の方に向かってくる。
ギャメルとリオもどうやら無事だったようだ。洞にはハッパが積もっていたのだろうか、髪や服がハッパまみれになっていた。
「アキ~~……」
「お兄ちゃん~~……」
「…………」
三人とも俺の方に詰め寄ってくる。
「いきなりあんな馬鹿デカい石を転送するなんて危ないじゃない!!」
リオは俺の脇腹をつつきながら抗議してくる。
「このユズルナ様の華麗なる活躍を邪魔するとは、どうなるか分かっているのだろうな」
ユズルナに肩を叩かれたが、俺はそんなのも気にせず自分の両手を見ていた。
「なんだ?どうしたんだ、アキ?」
「いや、俺があんなに質量の大きい物を転送できるなんて信じられない……」
俺は本当に驚いていたのだが、ユズルナはそんな俺を見てハンっと鼻を鳴らした。
「今更何を言っているんだお前は?つい先日火竜王を転送したばかりではないか。あれの方がさっきの石なんかよりはるかにデカかったと思うぞ」
「いやあれはアルマーレが力を貸してくれたからできたことであって……、俺一人の力であんなに大きなものを転送できるわけがないさ」
「ならばお前自身が成長したという事だろう」
「えっ!?」
「お前はアルマーレを転送した他に、私のつるぎの盾も正確に転送していた。魔術と言うのはもちろん魔力の大きさも重要になるものだが、何よりも成功すると言うイメージが大事になるものだ。お前は自分ではどう思っているのか知らないが、内面的にはそうとう自信が付いたのではないかな」
そう言われてみれば、さっきは大した大きさではないと勘違いしていたものの、スケルトンの頭の上に石を転送すると言うイメージはしっかり出来ていたかもしれない。いや、失敗するという事なんか微塵も考えてはいなかった。転送術は失敗が即、重大な事故につながるケースが多い。行う術の機微を問わず失敗したときのリスクと言うものを転送士は恐れているものだ。さっきの俺にはそれがなかった。それがこの巨大な石の転送に繋がったのだろうか。
ユズルナの言葉に、俺自身の成長をかみしめていた所でリオが大声を上げた。
「みんな~、ちょっと来て~」
俺、ユズルナ、ギャメルは手招きをするリオの所まで近寄っていく。
リオが立っている場所は、さっき俺が転送した石が埋まっていた場所だ。彼女の足元にはポッカリと穴が空いていた。
「小娘、なんだと言うんだ?」
「この穴、石が埋まっていただけのはずなのに穴の中から風が吹いて来てる」
「風?」
「それに石が埋まっていた大きな空間があるんだけど、奥の方に光が見える」
リオの言葉を受けてユズルナが屈んで穴の中を覗き込んだ。
続いて俺も中を覗いてみる。
しかし光なんかは全く見えない。完全なる暗闇だった。
ユズルナも同じだったようで訝しめな顔をしていた。
「確かに光が漏れてきているな」
最後に覗き込んだギャメルはそう言い放った。
「でしょ」
「俺達盗賊にしか気づけないくらいの僅かな光量だがな。おそらくどこかの地下に繋がっているようだ」
「この森には地下なんてあるのか?」
俺がそう訪ねるとギャメルは首を振る。
「地下があるって話は聞いたことがないが……、博士が地下に拠点を構えているって考えた方がいいのかもしれないな。この森にも狩人はいるし、怪しげな召喚の儀式を行うにしても森を切り開いたりすればそれなりに目立った空間になってしまう。さっきのスケルトンもそうだがあんな化け物が森の中を普通に徘徊していたなんて話も聞いたことがないから、博士の拠点は地下にあって、色々と隠しているんじゃないか」
「ふん、アキの愚の骨頂ともいえる行動でたまたま地下の入口を見つけたと言うことか、よくやったぞアキ」
こいつは絶対俺の事を褒めてはいないだろう。
「まあ博士が利用している出入り口なんかもあるんだろうけどな、この森の中からそれを探すのは一苦労だ」
「いや出入り口はないかもしれんぞ」
ギャメルの推論に対しユズルナが否定を口にしていく。
「出入り口がなければどうやって博士は地下に潜るんだ?」
ギャメルが当たり前だと言わんばかりにそう問い詰める。
「奴と一緒にいる魔神ファボリムだ。エタールナで捜索しているときも恐らく同じ手段を使われていた。ファボリムは上手いこと人が通れる出入り口がなく、空気は十分にある空間を見つけると、そこに契約者を転送してその身を守ろうとしているのだろう。未開の洞窟になるので普通に探していたのでは絶対に見つからん。本当によくやってくれたな、アキ」
あれ?ユズルナは本気で俺の事を褒めてたのか!?
「つまり博士からしてみれば絶対に見つかる訳がないと高をくくっている訳だな」
ギャメルがそう言うと、リオが横から口を挟んでくる。
「ここを降りる事が出来ればね……」
と、地面に空いた穴を指差していた。
リオとギャメルの目にはどう映っているのか解らないが、俺の目には真っ暗な穴に見える。もちろん底は見えない。この先にガリウス博士の隠れ家がある可能性が高いとはいえ、ここを降りなければいけないと考えるとうんざりする。
「ふん」
ユズルナは鼻を鳴らすと穴の上に手を翳していた。
いつものようにユズルナは剣を召喚する。
九九九本もの剣を所有しているのだから、当然なのだろうが彼女の召喚した剣は始めて見るものだった。
金色の剣。金と言うのは他の金属に比べても柔らかいので武器には向かないのだが、装飾剣としてであればその存在感は大きいだろう。
匠の鍛えた業物か、魔力の込められた剣以外には興味がないと言っていたユズルナが、このような装飾剣を持っていたことに違和感を覚えたが、彼女の次の行動を見てその意味を理解した。
ユズルナは金色に輝く剣を穴の中に落としたのだ。
剣の輝きは真っ暗な穴の中にあっても失われることはなかった。あの剣は自ら発光しているのだ。
穴を覗き込むとさっきまでは何も見えなかった空洞の内部が、剣を中心にして認識することが出来た。
「たいして高くはないな」
ユズルナの信じられない発言に、俺は抗議をしようとした。底に突き刺さった剣を見るに結構な高さがある。これを何も道具もなしに降りようと思ったら下手したら怪我では済まないかもしれない。
しかし、俺がユズルナに声を掛ける間もなく彼女は穴の中に飛び込んで行ってしまった。
俺、リオ、ギャメルが慌てて穴の中を覗き込む。
ユズルナは俺達の覗いている穴のすぐ下に立っていた。
もちろん宙に浮かんでいる訳ではない。
彼女の足元をよく見ると、長さだけならば巨人殺しを優に凌ぐであろう長剣が彼女の足元に刺さっていて、ユズルナはその剣のつばに上手くバランスを取って立っていた。
「少しずつ降りるならば、次はあの剣でいいかな」
そう呟くとユズルナは穴の底に向かって剣を召喚する。いまユズルナが立っているのと同じくらいのとんでもない長さを持った長剣だった。人間には振ることが出来そうにない長さを持った剣は、自身の重量で穴の底にしっかりと突き刺さる。そうするとユズルナが立っている剣よりも少しだけ低い位置につばがくるようになっていて、ひょいとユズルナは剣を飛び移っていった。
同じことを繰り返し、長さの違う二十本ほどの剣を召喚したところでユズルナは穴の底に降り立った。
上から見ていると螺旋上に階段の様に剣が突き刺さっていた。
改めて思うが……ユズルナさんハンパ無いっす。
「よし、じゃあお前たちも来い」
と、気軽にユズルナが声を掛けてくるが、
「できるか!!」
ギャメルが言い返していた。
簡単そうにユズルナはつばの上に乗っていったが、手すりなどある訳ではない。残された三人の中で一番身軽であろうリオでさえ、ユズルナの作った道を行くのをためらっていた。
「そうか、じゃあ仕方ないな。アキ、頼んだぞ」
ユズルナが俺に向かってそう言う。
「いやいや無理無理」
「そうじゃない。転送術で三人ともここに来い」
そう言われて今更ながらに気が付いた。
穴の底は今や光が存在する事で転送先としてイメージするのは難しくない。いや、高さはあるが距離自体は大したことがないので間違いなく成功するだろう。
じゃあなぜユズルナはあんな危ない真似を……と考え、更に思い当たる。
転送術は召喚士には効かない。
俺は俺自身やリオ、ギャメルを転送することは出来ても、ユズルナを転送することは出来ないのだ。
つまりこの穴を降りるにあたって、ユズルナは自分が降りる方法だけを模索する必要があったという事だったのか。
彼女は早くしろと言わんばかりに俺達の方を見上げていた。




