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転送屋スレイプニル  作者: 堀江すてる
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火竜王アルマーレ

そこに居たのは紛れもないドラゴンだった。夕日の色に照らされていたようにみえた赤は、ドラゴンの鱗の色であり、これは俗に言うレッドドラゴンである。

「我は……警告したぞ……」

 迂闊にも更に歩を進めていたユズルナに対して、ドラゴンは反応した。

 ドラゴンが大きく息を吸い込むと、喉の部分が膨らんでいく。口元の端から炎がチラチラと漏れ出していた。

 これはまずい。

 俺がそう思った瞬間には隣にいたリオが俺ごと横に飛びのいていた。倒れこむ前に映ったユズルナも同じ行動をしていた。

 上空を一瞬熱気が通り過ぎる。頭を起こして周りを確認すると、さっきまで俺達が立っていた場所は石畳ごと溶かされていた。

 レッドドラゴンの特徴的と言っていいほどのスキル、ファイアブレスだ。石をやすやすと溶かすほどの熱気を持っているとなるとかなりの上位のドラゴンではないだろうか。

「ちっ、こいつはどうやら本気の様だな」

 ユズルナは俺達の居るところまで下がってきていた。ドラゴンはその場からは動こうとはせずに、こちらの様子を窺っている。

「あんたねえ、一人で勝手に行動しないでくれない」

「ふん、だいたいああいう事を言う手前と言うのは本気で攻撃はしてこないと言うものなのだがな。いきなりブレスとは……」

 リオに対し、ユズルナは珍しくばつの悪そうな顔をしていた。

「それ以上は近づいてくれるな……。我は無駄な殺生は望んでいない……」

 どうやら俺達が立っているところであれば、攻撃はしてこないようだ。となればこのまま逃げ出すことは可能なのだが。

「ふふ。戦えば自分が絶対勝つと言った口ぶりだな。そういうのはこのユズルナ様だけが言っていいセリフなのだ」

「こいつを倒さないとあたしはお兄ちゃんと本当の家族にはなれないんだ……」

 女性陣二人はそう呟くと、自分の獲物を取り出し握りしめる。

「私は右から行こう」

「じゃああたしは左からね」

 ユズルナとリオはそれだけの会話でお互いが全力で走りだした。ユズルナは右から、リオは左から攻撃を加えるようだ。

 目の前で左右に分かれた事で、ドラゴンもどちらに的を絞るべきか判断が付きかねているようだ。

 体格的に優れているユズルナが先にドラゴンの足元に辿り着いた。迷うことなく一撃を叩きつけた。

「くっ……」

 ドラゴンの強靭な鱗はユズルナの剣を全くと言っていいほど受け付けなかった。ユズルナの持っている剣は彼女が言っていたように、名匠が鍛えた剣か、魔力が込められた剣のはずなのに、だ。

 ドラゴンの注意がユズルナの方に向いている隙を狙って、リオはナイフを鱗の隙間に突き立てる。

 鱗をかわせばたやすく刃が飲み込まれていくようだ。しかし所詮ナイフでは刀身が短くたいしたダメージは与えられない。ドラゴンにしてみればまさしく蚊に刺されたようなものなのだろう。

 ドラゴンはリオよりもユズルナを危険視したようで、首はユズルナの方を向いたままだった。その様子を見たリオが再度攻撃を仕掛けようとしたところに思わぬ攻撃が飛ぶ。

 リオの死角となっている場所からドラゴンの尻尾が振るわれていた。俺は遠目に見ていたのでそれがはっきりとわかったのだが、リオに危険を知らせるよりも早く、リオの身長よりもはるかに太い尻尾がリオの立っていた場所を薙ぎ払っていた。

「ああ……」

 俺は思わず呻いていた。尻尾が通り過ぎた後にはリオの体は跡形もなくなっていた。どこかに飛ばされたのか、または踏み潰されたのか……。それだけの質量をもった攻撃だったという事だ。

「あれ……なんで?」

 しかし落胆している俺の耳にリオの声が聞こえてくる。

 ユズルナのすぐ隣にはリオが立っていた。

「何をやっている小娘。油断するな」

「あれ?なんであたしこっち側に居るの?」

「小娘が寝ているときに召喚の印を刻んでおいたからな……。まあ……役に立っただろう……」

 俺とリオはジト目でユズルナを見る。まあ確かに今回に限って言えば結果オーライと言った所だろう。俺も帰ったら隅々まで体をチェックしないと危ないかもしれない。

 俺達がバカな空気になっているのも構わず、ドラゴンは再び大きく息を吸い込んでいた。的が一か所に集まったので心置きなく攻撃できると言った所だろう。

 ユズルナとリオはとりあえず体制を整えるためにか、俺の立つ場所へと駆けてくる。

 俺の立つ場所であればドラゴンは攻撃をしてこないはずであったが……。ドラゴンはもともとユズルナ達が立っていた場所へとブレスを吐き出すと、首を振って俺達の方向へとブレスをまき散らすように吐いてきた。

 げげっ、そんなのありか……。

 幅広く攻撃されると俺達にはそれをかわす手段はない。

「ちいっ、つるぎの盾!!」

 回避することは無理と悟ったユズルナが呪文を唱えながら両手を前に突き出している。魔術師と言うものは詠唱などなくても魔法を使う事は出来るのだが、強力な魔法を使う場合はイメージを強く持つ為に言葉を出すことがある。ユズルナは普段は詠唱をしなくてもひょいひょいと剣を召喚しているので、今回のはそういうのと比べても強力な何かを召喚するという事であろう。

 ドラゴンの吐いたブレスは俺達の立っている場所を避けるように、辺りを焼き尽くしていく。俺達の目の前には大きな壁が立っていた。

 ユズルナは基本、剣や鎧、身の回りの物などを召喚できるのは知っていたが、こんな壁まで召喚できるのか?いや、炎が過ぎ去ったあとよくそれを見てみると、それは剣だった。

 人間が使うにはあまりにも大きすぎる剣。刀身の幅は二メートルほど、長さはゆうに五メートルはあるだろうか。それが交互に二本重なって壁を築いていた。

 まさにつるぎの盾である。

「ほう……。随分と懐かしい物を見せてくれるな……。神代の時代に造られた巨人殺しか……」

「巨人殺し?」

 ドラゴンの流れ込んでくる思考に対して、ユズルナが疑問の声を上げる。自分で召喚した剣の事も知らなかったのか?

「神が力を付けた巨人どもを倒すために人に作らせた剣だ……。遥かな昔に我も神の陣営に与して巨人どもと戦ったときに、神が使っていたのを見たことがある……」

 へえ……、神様が使っていた剣か……。ユズルナも随分と凄い物を持っているんだな……って。

「あんた神が存在していた時代から生きてんのかよ!!」

 俺の叫びに対して、ドラゴンは軽く鼻を鳴らしたように見えた。

「我は一族の中でも最も古くから存在する種族だ……。古の人の子等は我の事を火竜王アルマーレと呼んでいた……」

 火竜王アルマーレ……。神話や英雄譚に最も多く登場する伝説のドラゴンの名前である。凶暴なイメージのあるドラゴンの中では、神や人間に協力的な姿勢を見せる事で伝えられているドラゴンであり、彼自身が言っている通り神と共に戦い、時には英雄と呼ばれる人間に力を与えたりもしているようだ。

 噂に聞く様にアルマーレは今は攻撃を休止していた。さっきはユズルナとリオが彼の攻撃範囲内に留まっていた状態からであったからブレスを吐いてきたようだが、やはり一定距離を置いていれば彼は攻撃する気はないようである。

「なぜその火竜王様がこんな街道を塞ぐ真似をすんのさ?あたし達すんごい迷惑してるんですけど」

 リオが俺の思っていることを言ってくれた。俺なんかは偉大な神話上のドラゴンを目の当たりにして萎縮してしまっている。

「我とてこの状況を望んでいる訳ではない……。召喚の契約によって縛られているのだ……」

「ユズルナが使うような強制召喚って事?」

 リオの疑問に対してユズルナが答える。

「ふん、強制召喚には召喚後に制約を与えるようなことはできないな。あくまで強制的に召喚できるだけなのであって、このように召喚後に何かしらの制約を設けられるのは契約召喚と言うものだ」

「契約召喚?」

「うむ。召喚するものとされるものの間で契約を結ぶことで召喚が可能になるタイプの召喚術だな。今では強制召喚の方が優れていると言う認識が強いが、術者の技量によってはかなりのものまで契約を結べると言う。さすがに神話上の生き物を召喚するなどとは聞いたことがないがな」

「ふーん。って事はこのアルマーレさんって自分は好きでこんなことやってるわけではないとか言いながら、契約は自分で了承したわけだよね。なんか言ってることおかしくない?」

 リオのその発言にアルマーレは目を細める。まるでリオを睨んでいるようにも見える。

「我等太古の時代に生きた存在には本来肉体と言うものは既に存在はしていない……。別の世界に魂だけの存在として有るだけなのだ。その我等はある条件を満たせば契約に応じざるを得ない事情があるのだ……」

「ある条件?」

「つまりは……贄を捧げる事……。肉体を持たぬ我等は自然と血や肉を欲するもの……。生贄を捧げられれば契約を拒むことは出来ん……。もちろん術者の能力にもよるがな……」

「ようは……どっかの召喚師に生贄を貰って無理やり契約を交わす羽目になったから今こんなことになってるって事でいいのかな?」

「うむ……」

「それって結局はどうすればいいのかな?」

「ふん。召喚師を探し出してとっちめてやれば契約が破棄されて何とかなるのかもしれないが、私達が受けた依頼は退治だからな。やることは変わらん」

「なるほど」

 ユズルナの提案にリオはあっさりと戦闘態勢を作る。おいおい、神様なんかと一緒に戦ったドラゴンを本気で倒せると思ってんのか?

「うむ……、我はそうしてもらえると助かる……。我のこの世界での肉体が滅びようとも魂はもと居た世界に帰るだけだからな……」

「そう思っているのならば、近づいても攻撃しないでもらえるかな?」

「それは契約により出来ん……」

「ふむ……」

 ユズルナはリオの肩に手を置くと俺の前まで引っ張ってきた。

「作戦がある。この戦いの要はアキになるからな」

 俺達はユズルナの作戦を聞いて、それを決行することに決めた。

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