閑話 海賊騒動記1
申し訳ありませんm(_ _)m
海賊騒動関係の閑話なので飛ぶ羊亭は(店主も)出てきません。
暗い海に船が走る、水中から海草に紛れて光がゆらゆらゆれた。
「行け」
船の甲板に立つ影が笑った。
船のちかくをおよいでいた黒い影は指示に従って水中の光を目指していった。
ソーランは交易港なので夜遅くまで光が残っている。
その港近くに『アシカーナ』という大きなホテルがありたくさんの交易商人や冒険者、観光客などを受け入れていた。
大きいホテルなので世界各国の料理を提供している。
レストランも当然大型通信機付き個室がいくつもある。
グーレラーシャの傭兵たちは今夜はその一室をかりているようである。
大型通信機に近海の海図が映し出されている。
ソーラン支部軍からの情報提供映像である。
その前に置かれたテーブルに三人のグーレラーシャの傭兵が思い思いに座っていた。
「班長〜船酔い心配だよ~」
黒い髪の女性傭兵がテーブルに突っ伏した。
「……今から心配してどうする、ヴィアラティア」
ラウティウスが椅子に座って大型通信機のスイッチを入れて海図を表示した。
「まあ、ヒフィゼ家のおひいさんにはきつい仕事かねぇ」
赤毛のスレた感じの男傭兵がニヤリと笑った。
おひいさんってバカにするなぁ〜あんただってこの前酔ったじゃない〜とヴィアラティアがその傭兵をぽかぽか殴った。
いてて本気にすんなと傭兵が拳を防いだ。
「ウルニウス、ヴィアラティアをあおるな」
「確かに俺も酔ったけどな、言うに事欠いて心配はそこかよ新人〜」
ラウティウスの注意にウルニウスがニヤニヤした。
新人言うな〜船酔いしたら戦えないよ〜このバカバカバカ〜とヴィアラティアが鎖鎌振り回した。
わ~タンマーといいながら手を頭の前にかかげてかばうバカップルのような二人にため息をついてラウティウスがヴィアラティアの鎖鎌にフランベルジュをおさえて二人を睨んだ。
ヴィアラティアは今年から新人の専業傭兵でなにかとウルニウスにからかわれてこの状態なのである。
「内輪もめはやめろ、これからカータシキ魔法塔国の連中も来る」
ラウティウスは眼光鋭く二人を威嚇した。
へーへーわかりましたよ、なんか機嫌わりぃなと態度悪く横を向くウルニウスとすみませんラウティウス班長と頭を下げるヴィアラティアであった。
俺が機嫌が悪いのはあの幼馴染とかいう男のせいだと思いながらラウティウスは周辺海の海図が展開された大型通信機に視線を戻した。
ヴィアラティアもウルニウスも海賊の被害状況の入った海図を見るために席についた。
グーレラーシャ傭兵国の傭兵は一人ではほとんど行動しない、いざという時一人では故郷に急を知らせられないから二人以上での行動が原則である。
戦場ではそうも行っていられないのであるが……
ラウティウスはこの三人グループの班長を任されているエリート傭兵なのである。
「ひでーな……壊滅的集落がいくつだ? 」
「許せません」
ひいふうみいとウルニウスが数える横でヴィアラティアが拳をつきあげた。
「落ち着け……カータシキの連中が来たようだ」
ラウティウスがちらりと扉を見た。
ウェーターに案内されてローブ姿の男女がはいって来るところである。
「本当に野蛮ですわ」
金の髪の女性魔法使いが拳をつきあげたヴィアラティアを見て眉をひそめた。
野蛮ってなんです……とヴィアラティアが言いかけたところをめんどくさそうにウルニウスが口をふさいだ。
「エニシャーラ君、彼らは傭兵だ」
ティアンはリーを床から抱き上げて肩に乗せた。
「私の繊細な神経が持つのかしら」
エニシャーラはシナを作ってティアンの腕にしがみつこうとした。
リーに臭いの〜嫌なの〜とパシッとしっぽでエニシャーラの手を叩いた。
確かに香水の匂いがきつい。
「何するんですの〜この駄使い魔! 」
「エニシャーラ君たしかに少し匂いが……」
リーに掴みかかろうとするエニシャーラをさけながらティアンが匂いをかいだ。
「女性が香をまとうのはエチケットですわ! 」
「店長さんは素敵な女性だけど臭くないの〜」
リーが嫌なの〜といいながらぴょんと飛び降りてラウティウスの背中に駆け上がって肩に収まった。
「このへっぽこ使い魔〜店長って誰ですの〜」
エニシャーラがラウティウスの肩にいるリーに魔法発動体の指輪がはまった手を向けた。
ポゥっと青い光が指輪の水晶に灯った。
「おい、いたいけな小動物に物騒なもん向けるのはやめろ」
「エニシャーラ君落ち着いてください」
「店長さんはそんなことしないの〜」
ラウティウスがフランベルジュに手をかけてリーをかばって避けようとした。
なだめようとするティアンにリーがあおる言葉をかぶせる。
艶然とすら見えるほほ笑みでエニシャーラの指輪が青い炎を飛ばした。
ラウティウスが避けた青い炎は飾ってあったモビールの星飾りを一つ蒸発させた。
あら……残念ですわと艶やかにエニシャーラ微笑んだ。
部屋に緊張感が走る。
「この陰険魔法使い〜」
掛け声とともにヴィアラティアがエニシャーラの足かけをして床に押し倒した。
ゴツっと音がしてエニシャーラが痛いですわと叫んだ。
「傭兵は野蛮ですわ」
「君の方が過激だ……正気に戻ったかい? 」
エニシャーラの言葉に冷たくティアンが答えた。
それにリーは駄使い魔じゃないといいたして傭兵たちに迷惑をかけて申し訳ないと頭を下げた。
エニシャーラはカータシキ魔法塔国の良家のお嬢様なのでわがままのようである……だがそのわがままで攻撃されるのは割の合わない話であろう。
「仲間を信頼できぬなら……」
「ともかく打ち合わせをしようか」
ラウティウスが苦い顔をしてエニシャーラに言いつのろうとするのを苦笑してさえぎって後で言っておくとティアンが海図を確認した。
ドゥラ=キシグのあたりの海域は穏やかで海産物もよく取れる。
海の中には水人とマーマンと人魚が住んでいるもう一つの水中町ヤーレンがある。
ちなみにこの種族の中で一番戦闘能力があるのは人魚である。
人魚は人化の秘術を使っても半日と持たない地上と縁のない人類だが海の中では素早く力強く徒手空拳ですらギリマエリを倒すと言われている。
そのヤーレン周辺にも被害がでているようである。
「ドゥラ=キシグ軍ソーラン支部はとりあえず港を守ってもらって……」
「ああ、ソーランを守るので精一杯だろう」
「平和ボケしてるよねソーラン軍人さんたち」
ティアンとラウティウスが海図を見ながら大型通信機の海賊の出現場所と照らし合わせていくヴィアラティアが昼間の様子を思い出しながらため息をついた。
グーレラーシャ傭兵の中でも王立傭兵ギルド管理官長の役目をになう者を代々排出するヒフィゼ家のヴィアラティアからすると信じられないくらい平和ボケしていたのである。
自分たちの守る町で普通、たとえグーレラーシャの傭兵といえども口出しされるのは気に入らないはずなのに
ドゥラ=キシグ軍の千本枝の大樹とソーラン支部軍の波模様に赤い花のエンブレムをつけた水色軍服の支部隊長にお願いすると頭を下げられた日は少し天を仰ぎそうになった。
「それだけ平和なんだろうよ」
「ウルニウス、それぞれ事情がある批判はやめろ」
へーへー戦闘文官様のご子孫様はご配慮出来る事ですねぇとウルニウスがどかっと足テーブルにあげてエニシャーラに睨まれた。
「……とある筋から首都の特殊部隊が送り込まれたって情報が……」
ヴィアラティアが自分の小型通信機を開いて確認した。
「……ギルド管理官長か? 」
「はい、新国王陛下即位式がもうすぐなのでなるべく早く帰ってこいとマミちゃ……マミニウスギルド管理官長が……」
ヴィアラティアはおずおず答えた。
さすがヒフィゼの嬢……と言いかけたウルニウスをラウティウスは睨みつけて黙らせた。
マミニウスギルド管理官長はヴィアラティアの年上の甥である。
名門貴族ヒフィゼ家の令嬢でもあるヴィアラティアに国王即位式の出席は義務なので片付かなくてもいずれ一時帰国予定である。
高等鎌士であるヴィアラティアがぬけるとたとえ新人でも戦力は大幅ダウンなのである。
「それで支部軍の奴らはよゆーこいてるのか」
俺たちを呼んだくせに横から手柄でも奪うつもりかよとウルニウスが舌打ちした。
「特殊部隊がどれほどのものなのかしら」
孔雀の羽根刺繍の扇を広げてエニシャーラは口元を隠して笑った。
「まあたぶん支部隊長を問いただしてもしっぽは出さないだろうね」
ティアンが海図に視線を向けた。
赤い部分が海賊に襲われ壊滅的被害をうけたところで海中集落も襲われているようである。
その時備え付けの通信機が鳴ったすぐにヴィアラティアが立ち上がって取った。
お食事お運びしていいですかと出たヴィアラティアは聞かれた。
ヴィアラティアがせつなそうにお料理運びたいみたいですというと一瞬みんなヴィアラティアに注目してわらいだした。
ヴィアラティアがお腹が空いたよーと言ってる仔猫みたいに見えたのである。
「運んでもらえ」
ラウティウスが指示を出すとやった〜と叫んでヴィアラティアはお願いしますーと電話口で元気に話した。
しばらくしてワゴンに料理がまんさいされ運ばれてきた。
グーレラーシャ風鶏肉のピラフ詰め、グーレラーシャ風豚肉レーズン巻。
カータシキ風魚貝煮込みターメリックライスぞえ、白身魚のカータシキ風味揚げ。
オスペナ風豆コロッケに戦闘文官特製風魚貝の唐揚げにヨーグルトサラダ等に
ホタテのポタージュに各種パンと花香茶とスプラッチャというレモン風味の炭酸水もそえられていた。
「豪勢だな」
「本当美味しそうです〜」
「夜にこんなに食べませんわ」
「すまないけど魚の素焼きを頼みます」
リーの頭をなでながらティアンが頼むとかしこまりましたとウェーターが頭を下げて出ていった。
使い魔のリーは基本的に動物と同じ扱いである。
「ソーラン商工会からだそうだ」
料理にそえられたカードをみてラウティウスが視線をこちらに向けた。
一応料理は頼んでおいたがもっと品数が少なかったのである。
ヴィアラティアが待てをしている犬みたいにしゅんとなった。
はっきり言えばラウティウス自身は単品一品程度で会議が早く終われば愛しい女性の待つ店に行くか昼間買っておいたツナソテーサンドと魚カレーパンを食べる予定であった。
「まあ、いいじゃねぇーかしっかり海賊から守れってことだろう? 」
ウルニウスがフォークを手に持った。
「……そのうち商工会議所の人たちが来そうですね」
ティアンがため息をついてスプーンを手に持った。
「料理に罪はない食うか」
ラウティウスがため息をつきながらヴィアラティアを見た。
「はい」
嬉しそうにヴィアラティアがテーブルについた。
ヒフィゼの嬢ちゃんがまったくとウルニウスが笑った。
欠食児童じゃないもーんとヴィアラティアが膨れた。
「……口が肥え過ぎたんですかね」
「イマイチか? 」
カータシキの魔法使いとグーレラーシャの傭兵がはからずも同時につぶやいた。
いつものあの羊店主の店よりよっぽど手が込んでて高くシェフが作っているはずなのに二人はあちらのほうが美味しいと感じたようである。
「お魚は美味しいの〜でも骨とってほしいの〜」
リーが魚をボロボロにしながらティアンを見上げた。
いつもの店なら骨をとって提供してくれるので安心なのである。
ティアンがフォークで取り始めた。
「上品で美味しいと思いますわ」
エニシャーラがうっとりと豆コロッケにナイフをいれた。
「班長がいつも行く店ってそんなに美味しいんですか? 」
豚肉のレーズン巻きを確保しながらヴィアラティアが目を輝かせた。
「魚料理専門店だぞ」
「お魚も大好きです! ふ……お母様の故郷方でよく食べました」
ついてこられたくないラウティウスにヴィアラティアがはいっと手を上げた。
「俺は魚より肉だから安心してくんな」
同情的な目でウルニウスがラウティウスを見た。
俺が魚の美味しいガキが気に入りそうな店を見つけてやるからそんな店いいじゃねぇかとウルニウスがヴィアラティアの頭を荒くなでてヴィアラティアがガキじゃないもんとぽかぽかウルニウスをなぐった。
愛する女を手に入れるために少々どころか多大な苦労もいとわないのがグーレラーシャの男である。
当然同性の男は協力するのである。
すまんと心の中で謝ってスプラッチャの半分以上ハチミツいりをあおった。
お子様ですわと半眼でエニシャーラが二人を見た。
ほのぼのとした雰囲気の中でラウティウスの通信機がなった。
「支部軍の隊長からだ」
ラウティウスはそう言って通信機に出た。
『カザフ高等剣士、沿岸に海賊が現れたと通報があったすぐに向かってほしい』
緊迫感のある空気の中で隊長は冷静に話しはじめた。
ソーラン沿岸に魔獣と思われる巨大鮫があらわれ水中都市ヤーレンがあぶないとのことその向こうに海賊船と思しき船体の光が見えたとのことを隊長は話したようである。
「早速出番だな」
「船は港に準備してあるそうだ」
「わ~ん船酔い〜」
グーレラーシャの傭兵たちは思い思いに準備をはじめた。
「まったく優雅でありませんこと」
「僕達も準備しよう」
エニシャーラが優雅にお茶を飲む脇でティアンが立ち上がった。
まあ行きますの? としぶしぶエニシャーラが立ち上がった。
急ぐなら転移しようとティアンが手を振った。
ティアンの専門は実は時空魔法なのである。
次の瞬間港にいてびっくり仰天の船長に船に乗せてもらった一行である。
ちなみに船酔いの前に空間酔いですわ〜と騒いだのは一人である。
波間に暴れる小さな島ほどのギリマエリに先についていた沿岸警備のソーラン軍が攻撃をしあぐねていた。
ギリマエリの向こうにヤーレンの海中都市の光が見えたからである。
それでもするどい銛を持った人魚族の戦士がギリマエリに攻撃を仕掛けている。
「退避してください」
ティアンが時空のシールドを展開して人魚をはじき出した。
「炎の息吹」
エニシャーラの言葉とともに青白い炎がギリマエリに襲いかかる。
ギリマエリがみをよじった。
尾びれが焦げる。
はあっと言う掛け声とともに鎖鎌が飛んだ。
ギリマエリの鱗を滑ってはねかえってくる。
ごめんなさーい避けてーとヴィアラティアが鎖を引いた。
「バカアブねぇだろうがー」
ウルニウスが避けながら弓を打ち込んでいった。
ウルニウスは高等弓士なのである。
ヴィアラティアも続けて鎖鎌をとばして今度は命中させた。
攻撃をさけ海に潜ろうとして時空の結界に阻まれたギリマエリは口を開けてふねにせまった。
「わーん食べられちゃうのー」
リーが叫んだ。
ラウティウスが船から飛んでギリマエリの口の中に降りてフランベルジュを突き立てた。
鮮血が吹き出し傭兵を染めた。
痛みにギリマエリが口を閉じて暴れて船体に巨体を叩きつけた。
揺れる船体に捕まってやり過ごしたあと静まり返った海にギリマエリが浮いた。
ラウティウスの姿はどこにもない。
「班長ー」
「おい」
ヴィアラティアとウルニウスが慌てて船からギリマエリに近づこうとした。
ギリマエリの口がゆっくり開いた。
傭兵と魔法使いが身構えた。
「血生臭くなったな」
血まみれの傭兵がため息をついた。
羊獣人には見せたくない姿である。
縄を投げられ船にあがった傭兵はあたりをうかがった。
「いますか? 」
「いや……先ほどまで嫌な視線を感じたが……」
ティアンがラウティウスに囁いた。
時空結界を解くとあたりには照明器具が浮かぶ夜の海と支部軍の船と人魚の戦士がまたみえてきた。
「いったいどういう海賊なんだ? 」
ラウティウスは遠くを見据えた。
周りはギリマエリの死骸を見て騒がしい。
「それより先に水洗いですわ」
「うっ冷たい! 」
ラウティウスは頭から魔法で水をかけられて慌てた。
「うちの班長に何するんです」
「溺れるだろうがー」
「エニシャーラ君やり過ぎ」
傭兵二人とティアンから抗議が来てエニシャーラはふくれた。
「私は血まみれだから水を出してあげただけですわ」
エニシャーラは走って船室に入っていった。
「乙女は繊細……なのかな? 」
ヴィアラティアが小首を傾げた。
「おとめはむずかしいの? 」
リーが甲板で一緒に小首を傾げた。
可愛いコラボに癒された船員と魔法使いと傭兵だった。
新人も一応乙女だろう〜とツッコミを入れたウルニウスにヴィアラティアがけりを入れて傭兵乙女と船員たちが正気つくまであと何分である。
何はともあれ無事に巨大鮫を倒した傭兵たちと魔法使いたちであった。
本当に癒やしてくれるのは店主だけだ……早く会いたいと思う傭兵であった。
「さて、被害状況を見に行きましょうか」
傭兵は魔法使いと目があい同じような事を考えているのを感じた。
傭兵はとりあえず仕事をして早く『飛ぶ羊亭』に行こうと心に誓って足早に歩きだした。
夜の波間に船が走る……
「なかなかやるようだな」
だが次はこうに行かないと甲板の影が楽しそうに笑った。
いくつもの影が水面や水中にみえる。
船内から影が現れて影のもとに向った……雲間の月にきらめく糸のような髪が見え雲間に月がきえると影となった。
「陸は変わらないか? 」
最初の影の問いかけに次の影がうなづいた。
その様子を見ているものは海と夜空と水中の影のみであった。
読んでいただきありがとうございますヽ(=´▽`=)ノ