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本日のおすすめ『パン』

今日はいい天気だわね〜洗濯日よりですわ。

年配の婦人はバルコニーから空を見上げた。


坂がちのソーランの港町の家は当然重なるように建っていて地元民しか知らない小道も沢山ある。


そんな小道の突き当りに昔からある赤い屋根の家はバルコニーに元気にパタパタと洗濯が揺れていた。


「さてと朝食の準備しましょうか」

この家の女主人エレンが階段を下りた。


昔はすいすい下りられた急な階段も今ではえっちらおっちらである。


「お祖母ちゃん〜」

隣のリフォームした家から可愛い孫が顔を出した。

兎獣人(タラビット)のフワフワした長い耳を持つ可愛い男の子だ。


兎獣人の孫のカイルはまだ幼児で母親が人間で父親が兎獣人ハーフのクオーター兎獣人である。


「カイルちゃん、ごはん食べていく? 」

「うん、おばあちゃんのイワシぱんだいすき〜」

可愛い孫にデレデレしていたエレンは固まった。


イワシパン……それは今日は常備していないとある店の商品である。


「ちょっと買い物に行ってくるわ」

「お母さん、いいから」

籐の買い物カゴを家事室の棚からだしたところで人族の娘エミリアが止めに来た。

カイルを迎えに来たようである。

「あら、だってイワシパンならすぐそこの羊屋さんで売ってるのよ」

「今買わなくても大丈夫だから」

カイルもわがまま言わないのとカイルを抱き上げてエミリアは家事室を足早に出て玄関へ行った。


港の漁業協同組合に勤めるキャリアウーマンなエミリアは忙しいのでカイルを保育園にあずけてから仕事に行かないといけないのである。


「お祖母ちゃんバイバイなの〜」

「またねカイルちゃん」

可愛い孫が去っていくのを見てエレンは心に決めた……必ずイワシパンを手に入れるわと


「お前……何力んでるんだ? 」

長年連れ添っている夫レーモンドが朝の散歩から帰って新聞片手に首をかしげた。

「何でもありませんわ! ご飯にいたしましょう」

エレンはキッチンに張り切って戻った。


キシギディル大陸のドゥラ=キシグ香国のソーランの港町に『飛ぶ羊亭』という小さな食堂がある。

安くてソコソコ美味しい魚料理とのほほんな店主に会いに世界中から常連客がやってくるのである。


早朝店主は奥のパン工房に立っていた。


まずバターをレンジで溶かす。

バターと強力粉と砂糖と塩をボールに入れる。

ドライイーストも入れそこにぬるま湯をかけてと混ぜてまとめる。

その際にドライイーストと塩は近くに置かないようにしないと発酵にさまたげがあるので気をつける。

あたたいところでラップをかけて休ませる。


「うーん……やっぱりパンは力仕事です」

店主は肩にかけたタオルで汗を拭った。


只今一次発酵中であるが他のデニッシュやベーグルや食パンやバタールもしこまないといけないのでいそがしいのである。


「イワシのフィーリングも作らないとですね」

店主はイワシを小さく切って玉ねぎと炒めてとつぶやきながら保冷庫からイワシを出した。


イワシはもともとさばいてあったのか三枚おろしにしてある。

イワシを一口大にきって玉ねぎをクシ切りにした。

店主はフライパンを出してバターをとかしてすりおろししょうがを炒め始めた。

香りたったところで玉ねぎを炒めてイワシソテーしてを砂糖と魚醤を加えて味付けて蒸し焼き仕上がったらバットにあげて冷ます。


「一次発酵は終わったからガス抜きかな」

生地を見ながら店主はつぶやいた。

ぷっくり膨れた生地をつぶして中のガスを抜く。

等分してラップをしてベンチタイムである。


パンを作るのは手間がかかるのである。


その間に店主は店の仕込みもするようだ。

その隣ではベーグルがゆでられている。

パン作りもものによって色々でクロワッサンなど幾層にも重ねられた生地で温かいところでできないためはじめに作るようだ。


最初に入れたパンの甘い香りがオーブンからただよってきた。


『飛ぶ羊亭』は本業は食堂なので当然のことながら食堂で提供する分と多少販売する分しかパンは焼かない。


しかもサンドイッチなどはテイクアウトをしているのでホテルメイドのパンや限定のパンを手に入れるためにはライバルを出し抜かないとなのである。


「さてと具も冷めましたし包みますかね」

店主がイワシフィーリングをを薄く伸ばした生地に包んだ。


包み終えた生地を二次発酵させている間に次のパンに取りかかる店主であった。


「さてとイワシパンの仕上げをしましょうか」

店主は二次発酵が終わったイワシパを鉄板に並べてマヨネーズとゴマをふりかけてからオーブンに入れた。


ふぅ……やっと一段落です……そうつぶやいて店主は汗を拭った。


大きい窓から朝の日差しが差し込んでいる。


『飛ぶ羊亭』の食堂の部屋の小部屋に小さなパン屋さんの様相で棚にパンが並んでいる。


朝から昼過ぎまでの少量販売の売り切れごめんの店主のパンの売り場でパンの常連客には『子羊パン屋』と呼ばれている。


もちろん正式には『飛ぶ羊亭』の一部である。


カランカラン鈴が鳴ってと扉が開いた。


「いらっしゃいませ〜」

店主が気がついてパン焼きオーブンの前から立ち上がった。

「あ、あの子羊パン屋さんってこちらですか? 」

白いワンピースを着た妙齢の女性が体を半分入れた。

「……はい、そのようにもよばれております」

店主は複雑な気持ちを浮かべながら……でも愛想笑いを浮かべた。

女性はふりかえってやっぱりここですって〜と声をかけた。


そうだよね~ネットの書き込みで木製の羊の看板って写真もあったしーと他の若い女性の声が聞こえた。


「ネットでは子羊パン屋さん美味しいって評判で」

看板出さないんですか〜と言いながら白いワンピースの女性とデニムのほっとパンツに前でブラウスを結んだへそ出しチューブトップの女性が入って来た。

ありがとうございます〜と言いながらでもうちは本当は食堂の『飛ぶ羊亭』なんですよ〜と思いながら店主はパンの小部屋に一直線に行く客に愛想笑いを続けて浮かべた。


店主さん本当にヌイグルミみたいな羊獣人さんだねとチューブトップの女性が興味深そうに磨き上げられた木製のトレーを手に持った。

可愛くて美味しい物作れるって良いねと白いワンピースの女性がトレイにイワシパンを置いた。


「名物イワシパンかえて良かったです」

「美味しいってきいて」

「ありがとうございます」

店主は丁寧にパンを包んだ

今までも観光客が口コミできてくれたけどパン屋もネットの口コミにのってるらしいと店長は思った。


「可愛いぬいぐ……店長さん一緒に写真お願いします」

「は、はい? 」

パンの袋を持った観光客二人と言われたとおり手をつないで写真をとってると再びカランカランと鈴の音が鳴った。


「いい匂いだな~ヌイ」

ピエアシールが今日も黒尽くめで顔をのぞかせた。

「ピーちゃん、まだいたのですか? 」

店主が驚いた顔をした。

「きゃーヌイさんって言うんですね〜」

白いワンピースの女性が店主さんにぴったりーと手を胸の前で組んだ。


本当はアドリアナ何です。

となんか言いにくいと店主はつぶやいた。


「まだいたってひでーな仕事だ、そんで弁当を買ってこようかなと思ってな」

「仕事……ですか……」

店主が少しだけ暗い顔をした。


女性二人がまた来ますと手を振って出ていった。

ピエアシールは早速パン屋スペースにいっている。


おおーここは昔のパン屋のままかぁと嬉しそうにトレーを持った。


そう、ここはホテルメイドのパン屋だったところを少しだけ小さくしたところで大きなショーウィンドウからパンが置いてあるのがよく見えるのである。


もちろん昔ほど置いて無いのであるが。


美味そうだな〜小母ちゃんのイワシパン大好きだぜ〜。

と言いながらイワシパンやツナのソテーサンドイッチや白身魚の唐揚げサンドイッチやタコのポテトサラダ等を沢山盛ったトレーをピエアシールはレジに置いた。


特にイワシパンは好きらしくいくつもとっている。

それを作ったのはお母さんでなく私ですと店主はため息をついた。


「危険なことはないのですか? 」

「そりゃ危険くらいはあるさ、職種がら」

ピエアシールは商品を包む店主にあっけらかんと答えた。


それよりこの間のグーレラーシャの傭兵さんはこないんかよとイワシパンをトレーからひとつとってかみついた。


「ラウティウスさんは忙しい時は来ません」

「残念、手合わせしたかったのによー」

うまいけど生姜がききすぎか? とピエアシールは言いながらイワシパンを飲み込んだ。


カランカランと扉が開いた。


「いらっしゃいませ〜」

「こんにちは」

エレンが藤のかごを下げてはいってきた。


「エレンのおばちゃん〜」

「あら、ピエアシールちゃん? 大きくなったわね〜」

びっくりしたようにエレンがピエアシールを見上げた。

「おばちゃんは……相変わらず綺麗だ」

「あら、口がうまいわね」

鈴を転がすような声でエレンは笑った。


本当、本当と調子の良いことを言いながらピエアシールがカウンターに座った。


またカウンターに腰掛けて〜と店主が怒ってもお構いなしである。


「相変わらず仲が良いのね、首都に行ったのよね」

「うん、仕事で里帰りっていうか……ま、誰もいないんだけどよ」

ピエアシールが薄く笑った。


「ごめんなさい、あのことよね」

「……ま、だからこの仕事についたんだしな」

なにかあるようである。


二人が話し込んでいるうちにも次々とパン目当ての客がやってきて店主はてんやわんやである。


このお魚カレーパン大好きなの〜と水人のアデルが嬉しそうに袋を手に持った。

水人族は実は揚げ物が大好きである。

水の中で生かせいぜい海底温泉で茹でるくらいしかできないので憧れもあるのである。


「あら、こんな時間ね、ヌイちゃんイワシパンあるかしら? 」

エレンがアデルの声にこちらを向いた。

ピエアシールの影響かヌイグルミ幼児だったせいか近所の人はアドリアナの事をヌイと呼ぶのである。

「えーと……売り切れちゃったみたいです」

店主がパン屋の方を見た、イワシパンだけでなくもうろくな商品がないようである。

「あらー困ったわ、孫がイワシパン好きでかいにきたのよ」

エレンは困った顔で頬に片手を当てた。


イワシパンはネットで名物と出たらしく早々に売り切れたのである。


「なに? お孫ちゃんが好きなの? エミねえちゃんの子供? 」

「ええ、エミリアの息子よ」

エミねえちゃん結婚できたのかぁとピエアシールが失礼な発言をした。


元気なエミリアは近所のガキ大将的存在だったのである。


「ヌイ、俺が買ったイワシパンをエレンおばちゃんにやってよ」

ピエアシールがニッと笑って店主が預かっていたパンの袋を見た。

店主はピエアシールにパンの入った袋を渡した。

「悪いわよ」

エレンが両手を前に出して振った。

「いいの、いいのそれにさっきのこの言ってた魚カレーパンも気になるからむしろもらって? 」

ピエアシールが明るく笑って店主から受け取った袋からイワシパンをだして渡した。


どう見ても6つはある。


「ありがとうピエアシールちゃん、今度おばちゃんのところにも遊びに来てちょうだい」

「うん、ヒマになったらな」

お金を払おうとするエレンにいらないとピエアシールは早くお孫ちゃんのところに行ってやんなと笑った。


「……カレーパンサービスしますよ」

店主が木のトレーに三個カレーパンを持ってきて包んだ。

「サンキュ」

嬉しそうに包を受けとって思わず店主に幼なじみ時代のように抱きついたピエアシールに

いきりたって武器をだす某グーレラーシャ傭兵入ってくるまであと数秒……


ピエアシールの運命は? である。



「おばあちゃん〜美味しいの〜」

「良かったわ〜」

保育園から帰ってきた可愛い孫にとろけるような笑みを向けられてエレンはニコニコである。


ピエアシールが代金を受け取ってくれなかったからお礼しないとねお思いながら可愛い孫の頭をなでた。


何はともあれエレンは無事に可愛い孫にイワシパンを提供出来たようである。



☆本日のオススメ☆


イワシパン

近海物の新鮮なイワシをバター醤油風味で炒めパンで包んで焼き上げました。

隠し味は生姜となっております。


(飛ぶ羊亭のパン人気不動の第一位で~す、魚カレーパンは最近の自信作、異世界のカレー調味料を使って……いえ……

イワシパンは(プチホテル)の時代からの定番商品何です……いつかもっと美味しいパン作りたいです……)


申し訳ありません、実は惣菜パンとか少しこったパンは週に2〜3回くらいしかパン屋スペースに並びません。

食堂と兼用の食パンとかベーグル等はいつでもおいてあります、もちろんイワシパンもでーす(季節によってサンマとかの時もありますが)


(最初はまほーつかいのせんせ……ティアンさんたちが滞在中にかけてくれたパンの鮮度を保たれるもとパン屋スペースに

焼いたパン保存しておいたらパン屋再開? って勘違いされて……でもパン焼くのすきなのでいいんです。)

読んでいただきありがとうございますヽ(=´▽`=)ノ

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