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本日のおすすめ『海鮮焼き』

あいつらは元気かなぁ……

青年は坂がちな故郷の町並みを見上げた。


今日もソーランは夜も煌々と火が灯り港町ならではの活気に満ち溢れていた。


港に夕刻に入った船から降りた人々は目標を目指して移動していった。


黒ずくめの袖無しのシャツとズボンの短い金髪をバンダナで覆った碧眼の日に焼けた褐色の肌の青年が興味深そうに辺りを見ながら歩いていた。


「お兄さん、うちで飲まない〜サービスするわよ〜」

扇情的な格好をしたウサギ獣人のオネエが投げキッスを青年に飛ばした。

『ピンクウサギの巣』とキラキラの電飾に囲まれた看板からしてピンク系のオネエがいるお店らしい。

「わりぃーな久しぶりに知り合いにあうんでな、また誘ってくれ」

青年はニヤリと笑って手を振った。

いやーんいい男〜絶対よ~とウサギ獣人のオネエはクネクネした。


「変わんないようでかわってるな」

あのじいさんの店なくなちまったかぁ~と青年はつぶやきながら坂道を歩きだした。


目的地は港から見える高台に見えるあそこだ。

灯りがついてるから住んでるのは住んでるんだろうなと思いながら街灯に照らされた住宅街を歩いていった。


記憶をたどらずとも昔から知ってる細道を迷わず歩いて青年は足を止めた。


「土産物屋なんて出来たんだな……『飛ぶ羊亭』? 」

羊屋じゃなかったか? そんなことをつぶやきながら木製の羊形の看板のかかる店の扉を開いた。


キシギディル大陸のドゥラ=キシグ香国のソーランの港町に『飛ぶ羊亭』という小さな食堂がある。

安くてソコソコ美味しい魚料理とのほほんな店主に会いに今日も世界中から常連客がやってくるのである。


カランカランと鈴の音が鳴って扉が空いた。

よる営業初の客のご来店である。


「いらっしゃいませ〜」

店主が生地をこねながら愛想笑いを浮かべて固まった。

「おい、ヌイ、ここはプチホテルじゃなかったのかよ」

編み上げブーツで足音も大きく青年……ピエアシールが入ってきた。

「ピーちゃんがなんでここに……」

「そりゃ仕事できてるに決まってるだろうが」

ヌイは相変わらず抜けてるなぁとピエアシールがニヤリとわらった。

そのまま担いでいた荷物を床においた。


「おばちゃんとおじちゃんはいねぇのか?」

「ミル=キシグ古王国のケアハウスに住んでます」

店主は出汁を足しながら答えた。


そうか引退したのか……おじちゃんの魚料理うまかったのになぁとピエアシールは言いながらカウンターに座った。


「椅子に腰掛けてください」

「ここエントランスだったところだよな、今はなんだ? 」

「椅子に座ってください、今は食堂です」

ほーっぬいぐるみのヌイが店主ってわけかよとピエアシールが腕組みした。


「俺は当分ここにいるから泊めてくれるよな」

カランカランという音とピエアシールの声がかぶった。

「なんで泊めなきゃいけないんですか〜」

店主が泡立て器を突きつけた。


「トラブルかい? 店長さん」

黒いローブの魔法使いがゆったりと入ってきた。

「いらっしゃいませ、ティアンさん」

少しだけ息荒く店主がティアンに目を向けた。

「魔法使いのおっちゃんもまだ来てたのかぁ」

「……ピーちゃんかい? 」

ピエアシールがヒラヒラ手を振って驚いたようにティアンは目を見開いた。


ティアンの覚えていたピエアシールは生意気そうな少年で俺は海に生きるとか言ってソーランを出ていったはずである。


「おっさん、俺もう大人だよ~」

「おっさんって言う歳でもないけどね」

ティアンは足元でピエアシールを見上げているリーを抱き上げてカウンターの椅子に座った。

君も椅子にすわんなよと少しティアンが睨むとピエアシールはへーへーと言いながら椅子に座り直した。


ただしわざわざ後ろを向けて背もたれに顎をかけるようにまたがっている。


「ヌイ、泊めてくれよ」

「家はもうプチホテルではありません、食堂です」

店主がキャベツ刻みながらこたえた。


「ご主人さま〜この人誰なの? 」

「昔から知ってるガキンチョ君かな」

ティアンはリーの首の下を撫でるとリーは気持ち良さそうに目を閉じた。


「ホテルじゃねーんならどこ泊まりゃいいんだよ……」

「知りませんよ、綺麗なお姉さんのところにでも行ったらどうですか? 」

店主が長芋をすりはじめた。


「僕の泊まってるところにでも……」

「おっちゃんの泊まってるところなんてどうせ高級店だろう、ヌイ泊めてくれよ」

ピエアシールが手を伸ばしたところでカランカランと再び鈴の音が鳴って扉が開いた。


「ピーちゃん、お仕事の邪魔するなら帰ってください」

「だから、泊めてくれって言ってるじゃねぇか」

お冷を置いた店主の手首をピエアシールが握った。


茶髪の傭兵が足早にピエアシールの前に来て店主の手首をつかんだ手を少しだけ強引に離させた。


「……どういうつもりだ」

茶髪の傭兵ラウティウスは威圧感を出して睨みつけた。

「おお〜モノホンのグーレラーシャの傭兵〜」

なぜかピエアシールは嬉しそうな顔をした。


その本物のグーレラーシャ傭兵は年中きているのである。


「ラウティウスさんご迷惑かけて申し訳ございません」

「いや、いいがもしこの男があなたに迷惑をかけているようなら全力で排除するが……」

ラウティウスがピエアシールから眼を離さず聞いた。


わ~グーレラーシャの傭兵と手合わせできるなんて〜と嬉しそうなピエアシールをしりめに幼なじみですから大丈夫ですと店主は引きつった笑みを浮かべた。


それなら良いがと言いながらラウティウスはピエアシールの隣に座った。

いつでも対応出来る位置である。


「店長、今日のオススメはなんだ? 」

「海鮮お好み焼きです」

ラウティウスの問いに店主は生地に長芋を加えながら答えた。


お好み焼き? とラウティウスは思った。

グーレラーシャには色々な食文化が入っているがさすがにお好み焼きとやらは食べたことがなかったからである。


「それをひとつ」

「俺も頼む」

「僕もそれで」

きせず三人の声が重なった。


「はい、中身は何になさいます? 」

店主は微笑んだ。

新しい料理を作るのは料理狂(クッキングジャンキー)の店主にとって楽しい行為である。


ホワイトボードにはお好み焼きいかがですか?

具は干物、サンマ、鯵、イカ一夜干し、エビ、イカ、タコ、アサリお好きなものをどうぞミックス可で~すと書いてある。


「サンマの干物が良いな」

「エビちゃん〜」

「イカとエビのミックスで、リーにはタラ蒸して味をつけずにお願いします」

三人がそれぞれ注文したので早速店主は料理を作り始めた。


鉄板なんかない飛ぶ羊亭なのでフライパンが大活躍なのである。

キャベツとエビの天カスと卵と焼いたサンマの干物を骨と皮を取り除いて小さく裂いて生地に混ぜて油をしいたフライパンに流し入れた。


「あんた、ヌイの事好きなのか? 」

ピエアシールがラウティウスを見た。

「ああ」

ラウティウスが小さく肯定した。

ついでに店主をちらっと見た。

新しい料理に没頭している店主は気づいていないようだ。

干物お好み焼きをひっくり返して蓋をした。

「ふーん、おっさんもヌイ狙い? 」

「そうですが、おっさん言わないでください」

自分が思いっきり年上みたいじゃないですかとティアンはぼやいた。

店主はキャベツと卵とエビの天カスを混ぜた生地に桜えびを混ぜて油をしいたフライパンに流し入れた。

他のコンロでゆでたエビの殻を剥いて焼けてきた生地に乗せてひっくり返してふたをする。

ついでにタラを小鍋に乗せた簡易の蒸し器で蒸しながらイカをさばいていきエンペラから皮をむいた。

サンマの干物のお好み焼きが焼けたので皿に盛ってソースとマヨネーズをかける。


「サンマあがりました」

お皿をラウティウスの前においた。

空いたフライパンを素早く洗いながら箸とかナイフとか入りますかとラウティウスに声をかけた。

「箸をくれ」

はからずも告白したのに普段と変わらない店主の様子に少し落胆しながらラウティウスは答えた。

異世界の明正和次元の日本と交流が深いグーレラーシャ人は箸が使える人が多いのである。

はーいと答えて店主は割り箸を渡した。


交易港のあるソーランにはいろんな外国人が来るので常備しているのである。

洗ったフライパンを拭いて火にかけて油を敷いてキャベツと卵とエビの天カスを混ぜた生地を流し入れた。

その間にエビのお好み焼きをお皿に移してソースとマヨネーズを細くかけてピエアシールの前に出した。

ついでに聞かずに箸を置くあたりが幼なじみなのであろう


「美味しそうだね、ヌイ」

「ピーちゃん、お泊りはできませんがお食事はできますのでごひいきください」

店主は愛想笑いじゃない笑みを浮かべた。

仲がいいんだなとラウティウスが少し寂しそうにつぶやいた。

サンマの干物のお好み焼きの塩分はグーレラーシャ人のラウティウスには薄いように感じた。

「美味しくないですか? 」

生地にエビとイカを並べながら店主が心配そうに小首をかしげた。

三角巾に半ば隠れた羊耳が揺れて可愛い……可愛い過ぎだろ〜と心の中で諦めないグーレラーシャ人は悶えた。

「もう少しソースをくれないだろうか? 」

美味いことはうまいぞと言い足してラウティウスは甘く微笑んだ。

味薄かったですかと言いながら店主がソースを足した。

異世界産のお好み焼き用ソースである。

生地をひっくり返して蓋をして蒸している間にタラ小さく切ってを皿に盛ってリーに出した。

おいしそうなの〜とリーは食べ始めた。

「おまちどうさまです」

焼き上がったお好み焼きを皿に盛ってにソースとマヨネーズをかけてティアンの前においた。

「面白い食べ物ですね〜キッシュとかガレットとかとも違いますし……」

「異世界料理特集でみて作ってみたくなっちゃいました」

ニコニコしながらフォークとナイフを置いた。

ほぅ……味も面白いですねとティアンはおもった。


キャベツと天カスの入ったもっちり生地にエビとイカのカリッとした旨み……お好み焼きソースという黒茶のソースとマヨネーズの相性はハンバーグとかでもいけそうですとティアンは夢想した。


もちろん夢の中でハンバーグを作ってティアンに出すのは新妻バージョンの店主(アドリアナ)である。


「美味しい……」

「おおーうまいぜ〜今度タコヤキーとか言うのも作ってくれよーで、ミーの奴は元気か? 」

ティアンの言葉にかぶせるようにピエアシールが聞いた。

ミーとは八百屋の息子ミーシャルトの事である。

「元気です、呼びましょうか? 」

店主が固定通信機を持った。

ピエアシールはいいや後で会いに行くからよ〜と手を振ってついでにビールを注文した。

「そういえば……海賊はどうなったのですか? 」

店主は保冷庫から瓶ビールを出しながら聞いた。

「海賊はまだ補足されてない」

「……そうですか」

店主は瓶ビールを置いて栓抜きとグラスとお通しにアサリの辛子酢味噌和えをおいた。

「ああ、そ~いやそう言う話もあったよな」

グイッとピエアシールはビールをあおった。


海賊……そうつぶやいて店主はふるえた。

ピエアシールはその様子をじっと見ていた。


「ヌイ、俺が帰ってきたのは仕事だといっただろう? 」

「ピーちゃん」

ニカっと笑ってピエアシールは立ち上がった。

「おっさんの泊まってるところって空いてるか? 」

「たぶん大丈夫だよ、港の『アシカーナ』っていうホテルをしってるかい? 」

港近くの大ホテルで部屋はピンからキリまであるので交易商人から冒険者(遺跡探索人)、観光客まで数多くの客が利用する有名ホテルである。


ちなみにプチホテル時代の『飛ぶ羊屋』は長逗留に向く家庭的なもてなしが自慢の大人好みのホテルでやや料金がお高めであった。


「うん、分かった、せっかく出世したからここに泊まれると思ったのによ」

また来るからなと財布を出した。

「えーとお好み焼き代だけでいいです」

「商売なんだからちゃんととれよ」

ピエアシールはビールの料金をみこして多めに出した。


傭兵と魔法使いの視線を感じた店主はでは今度プライベートでごちそうします、ミーちゃんも呼びますと小さい声で告げた。


カランカランと鈴の音が鳴って入り口の扉が開いて美貌のエルフが軽やかにはいってきた。


「いらっしゃいませ〜」

「こんばんは、店主ちゃん……あらピー坊? おっきくなったわね〜」

エルフのピアナがピエアシールを見て感嘆した。


昔はこんなにちっちゃかったのに〜というピアナに苦笑していつまでも綺麗なエルフのねーちゃん元気で何よりだ、ヌイ、またなとピエアシールは手あげて出ていった。


「ピアナ殿、お知り合いか? 」

ラウティウスがピアナを見た。

「ええ、店主ちゃんと八百屋の坊ちゃんと幼なじみのヤンチャ君よ」

懐かしいわね〜と言いながらピアナはカウンターに座った。


ティアンもピアナも知り合いで店主の幼なじみのピエアシールに遅れを取った気がしたラウティウスである。


ピエアシールと店主(アドリアナ)はまだ幼なじみのだけであるが……恋するグーレラーシャ傭兵は複雑のようである。


「店主ちゃん、私はアジの干物とエビのお好み焼きをおねがいするわ」

「はーい」

店主は保冷庫からアジの干物を取り出した。


恋する傭兵に少し複雑な気持ちを残して『飛ぶ羊亭』本日は新作メニューのおひろめありの通常夜営業中である。


☆本日のオススメ☆


海鮮お好み焼き

アジ、サンマの干物、エビ、イカ、タコ、アサリと具をお好みでお選びください、ミックス可能です。


わり箸のご用命のときはご申し付けくださいませ。


※異世界料理投稿サイトで見て以来いつか作りたいと思ってました、オススメの中身は魚の干物です。


アイオン瓶ビール


アイオン酒類株式会社


こくとのどごしのよいビールです。

節度を守った楽しい飲酒生活をお送りください。


お買い上げありがとうございます。

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