05 子供のお仕事
陽が上る前から村の中に「はぁ、はぁ、はぁ」息遣いがリズムよく聞こえてきた。
その息遣いをしていたのはまだとても小さな少年だった。
そうレインが五歳になって朝のランニングをしていた息遣いだったのだ。
「スゥーハー。スゥーハー 」
ランニングを終えて深呼吸を繰り返す。
「ノンビリ屋のレインから韋駄天のレインと呼ばれるのも時間の問題だな 」
「あ、お父さんおはよう 」
クールダウンの後に、今度はストレッチをしていると父が話しかけてきた。
「まだまだだよ。それに体力をつけないと村を守る狩人にはなれないしね 」
俺はそう言って笑った。
「はぁ~。ビリーに狩の口止めをするのをすっかり忘れていたからな 」
父であるグラスは肩を落とした。
それは四歳の始めにことだった。
村で狩人をしているビリーさんという人がいて、彼に食べられる野生の動物と魔物の話をしてもらうことがあった。
彼のする話はどれも面白くて、それからは狩の仕方なども教えてくれるので色々と吸収していくことが多かった。
しかし、そんなレインを父よりも母が大変心配していた。
「レインは頭がいい子なんだから、狩を覚えさせるのは十歳以降にしてね。ビリーさんにも伝えておいて。えっラスター?あの子は畑も満足に出来ないのに狩りなんて無理よ 」
レインたちが寝静まった深夜に両親がそんな会話をしたことがあったらしいが、ラスターがいないときにレインは母に尋ねた。
「狩人って大変な職業が有るらしいですが、お母さんは知っていますよね 」
この発言から父のグラスは三日間も母に口を聞いてもらえなかった。
「まぁまぁ。もう昔のことでしょ。それに僕は大きくなったら村を出て、行商人になろうかと考えてもいますし 」
僕の発言を聞いた父は驚くことは無かった。それどころかその将来を想像していた。
「はぁ~。もうレインが何をしても驚かないけど、その歳で畑を耕すでも狩人でもなく商人ってレイニーが知ったら「泣きますよね 」」
父は一度大きな溜息を吐いて言った。
「まぁ頑張れ。父さんは応援してやる 」
「ありがとう。でも先のことだけどね 」
僕たちは笑い合いながら家に入ると丁度、母さんが食事を配膳していた。
「あら、おはようレイン 」
そう言ってニッコリ微笑む母
「おはよう。お母さん。」
僕も挨拶を返して配膳の手伝いをする。
「ラスター、お前はいったいどれだけ寝てるんだ 」
最近手伝いを始めた畑仕事に疲労困憊の色が強く、父に揺さぶられてから漸くラスター兄が起きて来た。
「おはよう。」
ここ最近は昔のように、僕に敵対心を出すこともなくなり、自分の席に着くと兄は朝食を摂り始めた。
兄との仲は別に改善はしていない。というよりも無視されているのでこちらも干渉しない。そんな感じになっている。
それに畑仕事で友達たちも集まらないので、彼のパーティーは七歳にして消滅してしまっている。
「じゃあ昨日は水を運んだのね 」
母は兄を褒めながら話を聞く。
「そうだよ。何回も川まで歩いてもう行きたくない 」
朝から愚図り出してしまいにはこちらを睨んで文句を言う。
「レイン! お前がいけよ 」
やはり成長していない兄は父から低い声でいつもの言葉が放たれる。
「男が投げ出すな 」
これが五歳になった俺の家族の日常だ。
兄であるラスタードだが、村の手伝いとして出来そうな仕事全てが回っていった。
しかし彼が直ぐに根をあげるから結局、母であるレイニーのお兄さんが所有している畑の手伝いをすることになったのが一週間前のことだ。
「・・・僕は変わっても別にいいよ。但しマルダさんの所で薬草の選別をして、マキナリさんの所で羊とヤギと馬の糞の片付けをして、ゴライさんの所で薪の片付けを兄さんが変わってくれるならね 」
四才ぐらいから色々な大人に可愛がられて、少しずつ仕事を教えてもらう。いつの間にかこれがレインの日課になっていた。
「・・・嘘だよ。 畑は俺が行くに決まってるだろ 」
さすがにラスターも変わるのが嫌らしく、涙目のまま食事を摂ると兄は父と一緒に家を出て行った。
「ラスターはまだ子供らしいわ。 それよりレインはもう少し子供でいてくれてもいいのよ? 」
母は寂しそうに笑って頭を撫でてくれた。
「僕は食いしん坊だからいっぱい働かないと。じゃあ僕も行ってきます 」
そんな母に振り切るように家を出るのだった。
マルダさんとレインが呼んでいた者は村の薬師だった。
見た目は老婆寸前だが優しくて調合の腕もレインからすれば凄かった。
手伝いと言っても薬草は鑑定を使えば直ぐに選別できるし、間近で調合が見れるそんな環境がレインには楽しかった。
またマキナリさんと呼んでいた者は動物飼いだった。
礼儀正しいレインに優しくて、動物たちの糞を片付けの手伝いをすると牛乳がもらえる。
最後にゴライさんと呼んだ者は木こりだった。
薪割りの手伝いをすると薪がもらえるし、適度な重さだからトレーニングにもなる。
こうして五歳近くになってからは少しずつ仕事を増やしていきそれが日課になっていくのだった。
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さらっと進行します。




