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04 世界を感じれたら、きっといつか

 

 レインは悩んでいた。気と判断した身体に宿る不思議な感覚は、某アニメでお馴染みのものみたいに放つことも、纏うことも出来ず、ましてや空を飛ぶことなんてことは出来なかった。

 訓練が足りないのか?それとも他に方法があるのか?頭を悩ませていた。それでもこの不思議な感覚を疑うことなんてなかった。日々強く感じられるようになっていたからだ。

 ただ今は少しでも早く成長して一人で行動できるようになりたいと思っている。


 現在の俺は両親にサインを出して、それでこちらを分かってもらい生活をしている。


「だぁああああ」俺がそう言えば母が下の世話をしてくれる。

「はいはい。おし○こ? それともウ○チ? 」

 母にいつもそう聞かれて、前を触ればおし○こで、後ろを触ればウ○チと知らせるだけで、頭を撫でられてながら排泄をするこの恥辱の日々を早く終わらせるために。


「ぐぅうう」お腹に手を当てて唸ればお腹が空いたのサイン。

「もうお腹が空いたの?」

 こうして離乳食を食べさせてもらうことが出来る。


「うぇええええん 」と泣けば兄にちょっかいを出されたサインとなっている。

「こら、ラスター」

 このように兄を叱ってくれるので、行動の邪魔は入らなくなった。


 ただ「レインばっかり」と流暢に喋れるようになってきた兄のヘイトは歳を重ねても溜まる。

 文句言うが、全く非が無い俺は怒られることがない。


 こうしてサインプレーで日々何とか生活している。



 大人は歩いても転ばない。しかし、幼児は頭が重すぎて、バランスを崩せばすぐに転ぶ。

 兄は俺を転ばせると勝ち誇った顔をして、俺を泣かせた後に自分はもっと痛みの伴う尻を叩かれては泣くといった学習をしない子供だった・・・これが普通の子供なのかもしれない。


 さらに兄は好き嫌いも多く、嫌いな野菜を僕の器に入れようとする姑息な手も使う。本当にこのまま大人になってくれるなよ?と心配しながら、ありがたく増える食事をゆっくりとたくさん摂るのだった。


 最近の日課は食事の前に気で遊び、それ以外の時間は限界の一歩先まで歩いたらハイハイで全身運動をして動き回って修行する。

 いつか秘密裏に空を飛ぶことを目標として俺は頑張り続けた。



 一歳と半年が経つ頃に、両親を指差してパーパとマンマと喋ってからニコっと笑ってみた。


「て、天才だ 」

 父は小刻みに震えだして声を上げた。

「もう一度呼んでみて 」

 俺は母のリクエストに答えた。

 邪魔ばかりする兄だけは大人気なく顔を背けて首を振りながら否定した。

「ヤー 」

 大人気ないと分かっていても嫌いという感情が強くなって感情がコントロール出来なかった。

 このときから少しだけ悪さを控えたラスタード兄の名前を呼んだのは三日後のことだった。

 最初は喜んだものの、その翌日からまた同じことになったので呼んだり呼ばなかったりを繰り返す日々になった。



 こうして駆け足で二歳近くになる頃には、タドタドしくはあるものの単語で喋ることが多くなっていった。

 この世界では誕生日を祝う習慣はなかった。いや、あるかもしれないが、この村ではなかった。

 しかしあの神様がプレゼントをくれたのか鑑定が少しパワーアップしていた。

 〔鑑定〕→〔人族 子供〕と情報量が増えていたのだ。他にも〔木のイス E〕や〔木のベッドD+〕と表示されるようになっていた。


 これは俺に商人をやれってことなのか? それとも鑑定って年齢が上がるとパワーアップするのか?

 異世界の不思議な力に疎いレインは色々と考えてみるが分かるはずもなく、出来ることをコツコツと生きることに決めて、重い頭でバランスを崩さないように走り回るのだった。



 レインスターはスキルが使い続ければレベルが上がることを知らない。

 そしてそんなことを両親が知っているはずもなく、レインに教えたのは一人称の俺を僕に直させたぐらいで、スキルの詳細を誰に教えてもらえるわけもなく時が流れていく。


 レインスターは神と名乗った男のあの言葉を忘れていた。

「ステータスポイントで自分を強化出来るようにもしてあげるよ 」


 そのことを完全に忘れていた為にアドバンテージを持った村人Aの道を進むことになった。



 誕生日から二週間が経ったある日、朝食を食べる前のことだった。

 席に着くなり、兄が偉そうに腕を組みポーズを決めていた。

「おいレイン。村の子供たちを紹介してやるから有り難く思え 」

 兄貴風を吹かせたラスタードは父から拳骨をもらいゴンっと良い音が聞こえた。


「ラスター、何処でそんな言葉遣いを覚えた!」

 朝から泣く兄を余所に食事を摂っても良かったが流石に空気が重かったので和らげることにした。

「パーパ痛い痛いめーよ。」

 歯も生えてきてはいるが、舌足らずな言葉しか使えないのでこうなる。別に幼児言葉を使いたい訳ではない。


「すまんすまん。いい子だなレイン 」

 頭を撫でられてえへへ。と微笑むとラスタードを怒っていた空気は終了した。


 この際、現在ラスタードから向けられている視線は関与しないことにした。

「もう。朝食なんだから感謝して食事を戴くわよ 」

 母が介入して朝食の時間となった。

 僕はゆっくりと食事を摂る。

 良く噛むことで脳が活性化して、身体にも吸収し易くなるためだ。前世で知っている知識を思い出しながら実行している。


 そんな僕に声を掛けてくるのはラスタードであった。

「まだかよ~。早く食べろよ 」

 そう言って急かすと今度は母がラスターに軽くデコピンをしながら叱る。

「行儀が悪いわよ 」

 叱る母を余所にこちらに責任転嫁して睨んでくると、また母のデコピンにおでこを抑えるのであった。



「ごちとうたまでちた 」

 僕は食事に感謝して手を合わせた。

「もういいだろ 」

 そう言って僕の手をいきなり掴んで引っ張った。

 当然イスに座っている為に引っ張られると危ない。

 それも僕が座っているのは肘掛が高いタイプのイスだった。

 僕はイスごと横に倒されて身体を地面に打ちつけた。



 吃驚したが、それ以上に地味に痛い。

「ヒック、ヒック 」

 泣きまねではなく、幼児特有の感情の暴走で僕は泣いてしまった。


 さすがに悪いと思ったのか兄は外へと逃げ出した。

「遅いお前が悪いんだ 」

 そんな捨て台詞を吐いて。

 両親はラスターを追わなかった。

「大丈夫? まだ痛い?」

 両親はどうやら本当に心配してくれていた。痛みもあまりなかったので僕は父が良く言う言葉を使った。

「男はにゃかない 」

 涙目になりながら耐える僕を見てまた二人から撫でられるのだった。


 そもそもの話なのだが、ラスタードが何で僕を連れて行こうと考えたのかが分からない。

 僕は確かに外に遊びに行くことはないが、家の付近で歩いたり、村の人には挨拶をするので、基本的にこの村の殆どの大人のことは知っている。


 野菜を鑑定したり、両親が畑を回ったりするところへついていったり、近所を走ったあとに気を感じれるようになるため、寝ながら空を観察したり、自然の声を聞こうと努力したりで良く村人から声を掛けられるのだ。

 ずっと走り回るのではなく、寝ていることが多いためにのんびり屋さんで通っているれど、それも悪くないと思って僕は二歳の日々を過ごしている。


 まぁ深く考えても仕方がないので今日も外へ修行に出ることにした。

 村は麦だけではなく色々な野菜や米も作っていることから、香辛料は少ないけど料理に文句はつけないと決めている。

 玄関の扉を開くと、ほんの少しだけ高台に建っているうちの家よりは小さいけど、同じ造りの家がたくさん見える。


 さてっと世界と一体化して今日こそ気を世界から少し分けてもらおう。

 僕は父が仕事で村の見回りに行くと言っていたので、一緒に外に出た。

 母さんは食器を洗うと言っていたから、最初は近くで走ることにした。


 家の周りを走ると近所のおばちゃんに挨拶をする為に緩やかに止まる。挨拶の度に緩やかに止まるので、それがインターバル走になっている。

 自分の限界一歩先まで走ると、家の前の草むらに倒れこんだ。


「はぁはぁはぁ 」

 息を切らしている今からが本番。僕は空を見上げて、この世界にもあった太陽の光を感じ、大地の匂いを嗅いでいると風が僕を優しく撫でてくれる。火照った身体を冷やすように汗となって水分が身体から出て行く。

 息を吸うたび、吐くたびに僕は生きている。

 そのことを実感しつつ、僕は小さいながらも世界を感じて一つになる。

 大きく息を吸い込みゆっくりと吐き出す。

 スゥーハースゥーハー

 酸素を取り込んで・・「おいレイン」っと邪魔が入る。


「はぁはぁはぁ 」

 呼吸を整えながら目を開けて起き上がると見つめる先には兄と村の子供たちがいた。

「んだよ。なんでそんな息が切れてるんだよ。変なやつ 」

ラスタードはこちらを呆れるように見ている。

「こいつがラスター君の弟?」茶色い髪をした男の子


「私の妹と同じくらいだわ 」赤い髪の女の子がいた。


「どうだ。レイン俺には友達がいっぱいいるんだ。凄いだろ 」

 ラスターは勝ち誇るが、たった二人だよ。数を数えられないのか?それともボッチな僕に友達が俺はいるぞというアピールなんだろうか?


「しゅごいね。はぁはぁ 」

 息を整えながら肩を弾ませて褒める。


「お前は仲間に入れてやらないからな 」

 勝ち誇ったようにそれを言って三人は去っていった。


 それを母が見ているのも気がつかないとか、どれだけ猪突猛進なんだ?残念な兄を考えるのを止めて、もう一度大地との対話を重ねていくのだった。


 夜になって両親が兄を叱り、こちらを睨んだ兄はまた拳骨を貰っていた。シナプスの数が凄い減っていそうで、兄の将来を悲観しながら、僕は日常を過ごしていくのだった。


 二歳の全力ダッシュは端から見れば可愛いもので、挨拶をすると撫でられるし、たまに食べ物を貰えたりする。


 他にも話し相手になると色んな伝承や出来事を面白おかしく語ってくれたりするので、レインスターは飽きることなく、毎日の修行を楽しみながら成長していった。


 大人たちの優しい眼差しと、何故か子供たちの敵対する視線を感じながら、レインスターは友達がいないボッチ状態のまま五歳を迎える。



お読みいただきありがとうございます。

本日はこれで終わりです。

聖者無双の手直しを引き続き頑張ります。

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