33 出発
月一で投稿出来るように頑張ります。
まだ夜が明け切らない早朝、いつもと同じようにレインは目を覚ました。
「今日から学院生活か……」
そう言葉にするだけで何となく気恥ずかしいような、むず痒い気持ちになるのは久しぶりに学生となるからなのか、それとも少なからず学院生活を楽しみに思っているからなのか、自分でも分からないでいた。
レインはベッドから出て学生服……ではなく、いつものように執事の恰好である燕尾服に着替え、昨夜セバサから外出許可を取ってまで狩ってきたオークを調理するために庭へと移動する。
既にオークの肉は血抜きし、部位ごとに切り分けているため、あとは調理して豪快に食すだけの状態だ。
何故レインがセバサに許可を得てまで、オークを狩ってきたのか、その理由はランバード王国学院の決まりごとで、基本的に学生は学院長の許可がない限り、学院の敷地外へ出ることを禁止されているのだ。
そのためこうして豪快に食事をすることは当分お預けとなる可能性が高く、従者としてリーザリアが笑われないように大食いも断腸の思いで控えようとしたのだ。
そんな訳で魔法の火を操りながらオーク肉をじっくりと調理する傍ら、ニオイが蔓延しないように常時クリーンを使い、幼精達と魔力訓練も同時に始める。
そして順調にオーク肉が焼けてきたところで、レインの元へケイオスがやってきた。
「レイン、おはよう。それで朝っぱらから何で肉を焼いているんだ?」
「おはよう御座います。質は分かりませんが、当分満足出来る量の食事は出来なそうなので、入学する前に心置きなく食べておこうと思いまして」
さすがに自分の体格の何倍もの肉を食べようとしているのを見つかってしまいレインは苦笑した。
「殆ど丸々一体じゃないか……腹壊すぞ?」
そんなレインを見てケイオスは呆れながら助言をした。
「少しだけならケイオスさんにもお裾分けしますよ」
少しだけとはなんとも豪気だと思いながら、それこそレインらしいとケイオスは笑った。
「それはラッキーだな。それで模擬戦もしておくか?」
「う~ん、残念ですが、調理と食事を終えたらリーザ様を起こさなければいけないので、模擬戦は長期休暇までお預けになりますね」
「フッ レインらしいな。それじゃあ選別をやろう」
「えっ選別ですか?」
「ああ。これだ」
ケイオスが見せたのは肩掛け鞄だった。
「鞄ですか?」
「ああ。だがただの鞄じゃないんだぜ」
ケイオスの自慢気な言い方が気になり、レインは鞄を鑑定してみた。
〔鑑定〕→〔鞄 ショルダーバッグ C 魔法の鞄 材質 空間石 ミノタウロスの皮 容量3/50 耐久値3200/8000〕
「魔法の鞄ですか!」
この魔法の鞄こそレインが欲しいと思う魔道具ベストⅤに入る逸品だった。
今ならいい感じに焼き育てたブロック肉を提供してもいいぐらいにレインのテンションは高まっている。
「おう。学院生活は大変だと思うけど、魔法の鞄があれば色々持ち運べるだろ? セバザさんも用意しているかもしれないが、レインも自分の持ち物を運べるようにな」
「ありがとう御座います。でもいいんですか? これって凄く高価な物だし、思い出の品なんですよね?」
レインが思い出したのはエレフェレン街で魔道具店リリィを営むリリィのことだった。
「ああ。だがもう冒険することはないし、そこまで使う必要がないし、道具は使ってナンボだからな。もし学院を卒業する時に必要なくなったら返してくれてもいいぞ」
「大切に使わせていただきます」
「ああ。念のため言っておくが、鞄に物を入れても時間は停止しないから、生物や食べ物は入れない方がいいぞ。まぁ茶葉や香辛料は入れても良いと思うけどな」
「はい」
レインはケイオスに感謝して、オーク肉を振る舞い雑談しながら、いずれまた食事をする約束を交わした。
それからレインは自分が与えられている部屋へ一旦戻ると、魔道具店リリィで買った魔道具を収容し、燕尾服から制服へと着替えてから、リーザを起こすために部屋へと出向くのだった。
そしてノックをした後、返事がないことを確認したレインはいつも通りドアを開いた。
するとそこには驚くことにいつも通りに眠っているリーザとリリーナの姿を見つけた。
出会った時にはあれだけ反発し合っていたのに、女の子は分からないものだな……そう思いながら、レインは二人を起こすために声を掛けた――。
その後セバサから呼び出されたレインは、お金の入った革袋を渡された。
中には金貨、銀貨、銅貨が無造作に入っている。
「セバサさん、このお金は?」
「給金とは違うが学院生活をしていてもお金が必要な時がある。無論レインが心配している食費は無料だが、学院の中には購買もあるから学院生活滞りなく円滑に進むように使っていい」
セバサに促されたレインはとりあえず袋に入った金額を計算していくことにした。
これを仮に狩りで得た魔石を売ることを計算した場合、この資金を稼ぐとしたら数か月は掛かりそうな大金だった。
「些か多い気がしますが……」
「お嬢様にはお嬢様で別途資金は渡してある。それに三年間だからそこまで気にしなくていい」
「……ありがたく頂戴します」
セバサからそう言われてしまってはレインも断る必要もなくなってしまった。
「よし。それとお嬢様に魔法の鞄を持たせることにしたのだが、その中に密封した茶葉や香辛料、蜂蜜などが入っている。それはレインが受け取り管理するように」
「はい。出来るだけ死守出来るようにします」
リーザは大の蜂蜜好きで、どんなに機嫌が悪くても忽ち機嫌が良くなるご機嫌取りな逸品なのだ。
ただし蜂蜜は高級品なので、そんなに数量がある訳もなく、これを管理するのがいかに難しいか、セバサの仕事を見て来たレインも知っていた。
「命令が出されても、何とか諭すように」
「はい」
そんなやり取りをしていたら、瞬く間に時間が過ぎて、とうとうライバード王国学院へ登校する時刻になった。
屋敷の前でマリーナが出発するために馬車に乗り込んだ三人へ声を掛ける。
「リーザ、あまり無茶はしてはいけないわよ。それと困ったらレインに頼るのよ。レインは貴女の騎士なんだから」
「はい。お母様」
今にも泣きそうなのを我慢するマリーナとリーザを見て、レインは親子って似るんだ~と微笑ましく見ていた。
「レイン、お願いね」
「はい。必ずお守り致します」
「リリーナちゃんもお願いね」
「リーザさんとは昨日のお昼から仲良くなりましたので。いざとなったら私もレイン君を頼ります」
「三人ともいってらっしゃい」
こうしてマリーナに見送られ、ランバード王国学院へ向けセバサが御者する馬車は走り始めると、リーザが泣き出してしまう。
それを見たレインはセバサにアイコンタクトを送り、セバサが頷いたのを見て、シクシクと涙を流すリーザの口に、先程加熱してあとに冷やして作った蜂蜜飴を入れた。
「レ~イン、甘くて美味しいけど、寂しいわ」
「はい。まずは半年の我慢です、そうすれば長期休暇になりますから、マリーナ様とも会えますよ」
「……頑張るわ……」
「はい。先程マリーナ様も仰られていましたが、これからは常にリリーナさんが側にいてくれますし、僕も精一杯力になりますので、頼ってください」
「リーザさん、これからは持ちつ持たれつですわ」
「そうね……二人とも学院生活を頑張りましょう」
「ええ(はい)」
それから間もなく三人を乗せた馬車はランバード王国学院へ到着した。
「リーザリア様、行ってらっしゃいませ」
「セバサ、お父様とお母様のことお願いね」
「この命を賭してもお守り致します。リリーナ様、リーザリア様をよろしくお願い致します」
「ええ」
「レイン、お嬢様を頼んだぞ」
「はい」
最後にセバサに見送られ、レイン達はランバード王国学院へ足を踏み入れた。
お読みいただきありがとうございます。
内容的にはあまり進みませんでした。
作者も久しぶり過ぎて読み返すことになり、誤字の多さ笑うしかなくなりました。