31 貴族らしくない貴族子女
昨日王都へと着いたレイン達は旅の疲れを持ち越さないよう早めに休息をとることになった……。
ただレインだけはセバザから再度ガスタード辺境拍の命として、リーザリアの従者として適切な対応ラインを確かめるため、夕食後に食堂に残っておさらいをさせられたため、いつも通りの就寝となった。
そしてまだ薄暗い早朝、レインはいつもなら走り始める時間だったのだが、昨日セバサから、ライバード王国学院の入学式のために他の貴族も多く王都へと来ていて、厳戒態勢が敷かれていることを聞いていたため、走ることは断念していた。
「今日は魔法の訓練かな」
ガスタード辺境伯の屋敷は王都では広い部類に入るが、私兵を常駐させることは国法で禁じられているため、訓練場などは完備されていない。
だから屋敷の敷地に入って直ぐのスペースで、レインは魔法の訓練を始めた。
魔力を練り上げ、徐々にそれを身体中へと巡らせていく。
身体が活性化していくのを感じながら、魔力を対外へと薄く拡げていく。
レインは簡単そうにやっているが、実際ここまでスムーズに出来るのは、国の中でも一部の魔法関係者しかいないのだが、レインはそのことに気がついていない。
レインはそれをただ遊びの一環として覚えてしまっていたからだ。
レインの魔力が対外に放出されてからその遊び相手である精霊になっていない幼精が集まり始める。
レインは幼精達に魔力を分け与えながら、さらに魔力を延ばしていくと、幼精達は嬉しそうに飛び回ったり、レインに近づいて引っ付いたりしてくる。
「あんまり吸わないでね」
レインは笑いながらそう告げると、目を瞑ってさらに魔力を拡げていく。
最初のうちは森の中なので分からなかったが、気配を隠す魔物や動物がいたとしても、レインのこの魔力がそれらに触れると、大体のいる位置が把握出来てしまうものだった。
魔力レーダーともいえるものだが、三年間リーザリアの従者として、また自身もあまり何かに巻き込まれることを避けるため、訓練をしていた。
従者としてあまり表に出過るとそんな従者を連れた主人が笑われるものだが、現在の雇い主はガスタード辺境伯であるため、リーザリアの護衛として、学友として、ライバルとしてレインはライバード王国学院へ通う。
だからガスタード辺境伯から見て例え貴族であろうと、爵位を持たない貴族の子息子女は有象無象である。
問題を起こすことは禁じられているが、問題となる障害物は速やかに排除していいという命がレインには出ていた。
「まぁ十二歳の子供だけど、ある程度の頭はあるだろうし、俗にいう英才教育も受けてきているだろうから問題はそこまで起こらないだろう」
レインは完全に楽観視していた。
レインの貴族の基準はガスタード辺境伯とリーザリアなのだ。
ガスタード辺境伯は冒険者を私兵長に命じる変わり者で、リーザリアは世間を知らない引きこもりみたいなものなのだ。
そのことをレインが正しく認識するのはもう少しだけ先のことだった。
レインは魔力拡げていくと、何やら屋敷から離れたところで馬車が停車していることに気がついた。
「この時間に妙だな。普通なら宿に停車している時間だし、そうでなければ目的地へと走っているのが普通だ」
レインはそう思って門から魔力の検知した馬車を覗いて見ると、明らかに貴族が所有している馬車だった。
「何かトラブルか? ……えっ? 違うの」
レインが会話するのは緑色の幼精だった。
「ありがとう」
レインがお礼を言うと、緑色の幼精はレインから魔力を軽く吸って満足そうにゆらゆらと揺れるのだった。
「念のため、セバサさんに伝えておくか」
魔法の基礎である魔力訓練だけとなり、少し消化不良ではあるが、未然にトラブルの元を防ぐことをセバサから教えられているレインは、直ぐに行動を開始した。
既にセバサが起きていることはレインも把握しているので、彼の居るであろう食堂へとレインは足を運ぶこと決め屋敷に入ると、そこでレインは声を掛けられた。
「レイン、いつも通り訓練とは本当に真面目だな。それよりも訓練はもういいのか?」
レインは声が聞こえた方へを向けると私兵長であるケイオス……それと呼びに行こうとしていたセバサがいた。
「おはよう御座いますケイオスさん、セバサさん。実は訓練を始めて直ぐ、気になる事案が発生したので、セバサさんに指示を仰ごうと思い、訓練を切り上げました」
「ほう。それでその事案とは?」
「はい。何処かの貴族のようなのですが、屋敷からそう離れていないところで停車しているのです。トラブル等ではなさそうなのですが、一応お耳に入れておこうかと思いまして……」
「……レイン、案内を。ケイオス殿、貴方にも一応来ていただきます」
「はっ」
レインは二人と一緒に屋敷を出て門の手前まで来て口を開く。
「あの馬車です。やはり動きはありません。ですが、人が乗っているようなので……」
「あれは……二人とも門を開けるのを手伝ってください。その後にあの馬車へ向かいます」
「セバサ殿はあの馬車の所有者を知っているんですか?」
「はい。子爵であるフィオレンス家で間違いないでしょう。それにしても……」
セバサが含みを持たせた言い方をしながらも話を切ったことで、これ以上は自分達が聞く意味がないことなのだとレインとケイオスは理解した。
二人とも空気が読める性分である為、無駄な説明を避けられたことをセバサは微笑みながら、馬車へと移動を開始した。
馬車の御者をしている者はセバサよりも年を取っている執事だった。
老執事はレイン達を一瞥して一瞬警戒する雰囲気を纏った気がしたが、直ぐに警戒が解かれた。
それを確認したセバサが御者の老執事へと声を掛ける。
「こちらガスタード辺境伯にお仕えしているセバサルーンと申しますが、失礼ですが、フィオレンス家の方では?」
「左様で御座います。色々とありまして、王都へと着いたのが先程のことだったので御座います。それで宿を取ろうとしたのですが、何処の宿も満室でしたので……」
「そうでしたか。それでは我が主の屋敷でお休みください。馬車の中にはリリーナ・フィオレンス様も乗っておいでなのでしょう?」
「おおっ! なんと有り難き言葉。感謝致しますぞ」
執事は感謝を述べて、レイン達と共にガスタード辺境伯の屋敷へと移動した。
老執事はセバサの誘導に従って屋敷の前で馬車を停めると、直ぐに御者席から中へ移動して、それから声を掛けているようだったが、中々扉が開くことはなかった。
そしてようやく扉が開くと、疲れた表情をした老執事と眠そうなに目をこする少女が姿を現した。
「お待たせして申し訳ありません。こちらが子爵令嬢でおられるリリーナ・フィオレンス様になります。明日からリーザリア様とご一緒にライバード王国学院で学ぶ予定となっております」
老執事はそう言ってリリーナ・フィオレンス……リリーナを紹介するのだが、馬車には彼女しか乗っていないこともあり、レインを含めそのことは理解は出来ていた。
「初めましてリリーナ・フィオレンスです。よろしくお願いします……ところで爺、ここは何処? この方々はどなた?」
「ここはガスタード辺境拍様の王都のお屋敷です。それとこちらの方々は辺境伯で働かれている方々です」
「そうなんですね。どうぞよろしくお願いします」
明るく何処か天真爛漫な雰囲気を感じさせる少女と、フィオレンス家の懐事情が垣間見えた気がした一同であった。
リーザリアの学友にして側付きに選んだ辺境伯の命令は絶対なのだが、レインは疲れ切った様子の老執事を見て嫌な予感がするのだった。
そして……。
「あ、貴方のこと思い出した。入学試験の時に一番目立っていた人だよね? じゃあ一緒にライバード王国学院へ通えるのね」
「はい。リーザリア様の護衛兼従者のレインスターと申します。リリーナ・フィオレンス様よろしくお願いします」
「固いよ~レインスター君。これから三年間よろしくね」
そう言って手を差し伸べられたレインは、貴族だけど貴族らしくないリリーナに、やはり嫌な予感を巡らせながらも手を差し出し、握手するのだった。
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