30 王都到着
凄く久しぶりに書きましたw
レイン達はライバード王国学院への入学に合わせ、ランバート王国の王都へ無事に到着していた。
前回同様ガスタード辺境伯の領地から三日の旅だったが、護衛も含めて大人数の移動であったため、盗賊はおろか魔物すら近寄ってくることはなかった。
この三日間でレインはリーザリアのために色々な話をすることになった。
生まれ育った村のこと、家族のこと、村で良くしてくれたしてた人達のこと。
魔物を初めて狩りで殺したことも隠さずに、ただ少しだけボカして伝えながら、料理の話を交える形でリーザリアを怖がらせない工夫もしていた。
途中からマリーナやセバサ等も話に耳を傾けていたのだが、レインもそのことに気がついていた。
レインはすっかり二人のことも信頼していたので、敢えて二人にも自分がどう生きて過ごしてきたのかを聞かせることにした。
話の中には、今回の王都までの護衛を務めてくれたケイオスと当時ケイオスのパーティーメンバーが始めて村へやってきたエピソードも披露することになった。
ドレック村にゴブリンが襲撃してきたことを全て話し終えると、リーザリアの顔色が少し良くないように感じたレインは、少し刺激が強かったと反省していた。
「それにしてもレインは七歳の時に、そんなたくさんのゴブリンと戦ったのね……怖くなかったの?」
「たぶん怖かったと思います。それでも死にたくないし、知っている人が死なせたくなかったので、あの時は精一杯戦いました。幸いなことに近接戦闘ではなく、弓による遠距離攻撃だけでしたから」
きっと普通の子供だったら無理だったなどと言うつもりはなかった。
本当に誰も死なせなくないと思えたからこそ、あの勝利があったとレインは考えていたのだ。
そんな当時を振り返りながら、久しく帰っていない故郷を思い出す。
本当に何もない村だった。
それでも愛情を持って育ててくれた両親や狩りを教えてくれたビリー、色々な工作に付き合ってくれたゴライ、食事をご馳走してくれたマキナリ達のことを懐かしく感じていた。
「レイン何だか優しい顔しているわよ?」
「故郷が少し懐かしく感じただけです。両親とも久しく会っていませんから……」
「帰っちゃダメよ。レインはこれから王都で暮らすんだから……」
焦ったようにそう言い放つリーザリアを見ながら、レインは自分に依存し始めていることにどうしようかと考えていた。
「分かっています。それにライバード王国学院へ通うのは私の意志でもあります。リーザリア様の従者兼護衛として、そして勉学のライバルとしても今故郷へ帰る訳にはいきませんから」
「それならいいのよ」
リーザリアは安心したのか、再び笑顔になった。
リーザリアの母であるマリーナもそんなレインに依存する娘を心配に思っていたのだが、それはそれでいいかと考えていたりする。
レインはそのことに全く気がつくことはなかった。
その後、ケイオス達と出会ったことを話そうとするが、そこまで話す内容が無かったと思い止まり、魔法士であるリリィの話に切り替えた。
この時ケイオスがこの場にいなくて良かったとレインは思わず笑った。
少しだけ脚色してリリィに魔法の基礎を教えてもらったことにして、現在彼女がエレファンの街で魔道具屋を開いて、そこで世の中には面白い魔法や人々の暮らしに役立つ魔法があることを知り、魔法に興味を持ったことを伝えた。
それをリーザリアは楽しそうに、マリーナは感心して、セバサは何やら考えているようだった。
その後はリーザリアからの質問に答えたり、馬車に乗り続けていると身体が鈍るので、馬車から降りて走ったりして、何とか退屈な三日間を乗り切るのだった。
そして話は冒頭に戻り、一同はガスタード辺境伯の所有する屋敷へとやってきた。
レインもガスタード辺境拍の使用人でもあるため、皆と一緒に仕事をしようとしたのだが、そこにセバサから指示を出された。
「レイン、本日からリーザリアお嬢様の護衛の任へ就くのだ」
「本日からですか?」
「屋敷内にいるので護衛自体はする必要がない。意味はそれで分かるな?」
「はい。出来ればライバード王国学院へ入学する前にもう一度、ケイオスさんと模擬戦をしたかったのですが……」
「分かった。こちらの方で調整しておこう」
「よろしくお願いします」
セバサに頭を下げたレインは、リーザリアの元へとやってきた。
「あらレイン、お仕事はいいの?」
リーザリアはそう口にするが、実際はとても嬉しそうな顔をしている。
「はい。本日はお嬢様の護衛というか、従者として適切な距離で接するという練習だと認識しています」
「あらレイン、そんな難しく考えないでいいわよ。リーザとはお友達感覚で接しなさい」
リーザリアの隣にいたマリーナが笑いながら声を掛けてきた。
レインは頬を引き攣りながら、何とか笑顔を作り適切な言葉を選んで対処することにした。
「光栄なことです。しかし私のすべきことはリーザリア様に降りかかる火の粉を払うことが仕事です。従者として入学する以上、火の粉を余計に増やすことになることは避けるべきかと」
「う~ん真面目ね。でもリーザが望んだらどうするの?」
先程よりも口角が上がったマリーナ笑顔にレインは敗北を悟っていた。
「……リーザリア様が望まれるなら……です。例え火の粉が増えたところで振り払うだけですので……」
「じゃあレインが私の初めての友達なのね。特別にリーザと呼ばせてあげる」
満面の笑みでそう言われても、それだけはさすがに無理だとマリーナに視線を送ると、いつの間にか扇で口元を隠して目じりの下がった顔でこちらを見ていた。
「何処に目と耳があるか分かりませんので、今はリーザ様と呼ばせていただきます。緊急の時は呼び捨てにしてしまうことがあると思いますが、お許しください」
「あ~あ。レインは固いわね。面白くないわ」
「面白味を求められても困ります。ですが必ずリーザ様をお守りすることをマリーナ様ともお約束させていただきます」
「あら、それはリーザを生涯守り抜くという誓いの言葉かしら? それは騎士として? それとも……」
マリーナが無駄に含みを持たせて話すことで、一人顔を真っ赤にさせたはリーザリアであった。
「れ、レイン、あなた本気なの」
「……ライバード王国学院でリーザ様に言い寄る有象無象の輩から、またリーザ様に敵対する者からも必ず”従者”としてお守り致します」
レインはリーザリアに臣下の礼を取った。
「そ、そうよね。お母様、あまりからかわないでください」
「あら? あなたが望むなら私は応援してあげるわよ」
「なっ!? し、知らない」
マリーナはレインがからかい甲斐のない性格だと判断したのか、いじる矛先を変えたのだろう。
リーザリアが顔を真っ赤にしていることを想像しながら、レインは決して顔を上げない決意を固めるのだった。
こうしてライバード王国学院の入学式を二日に控えたレイン達は、変な気負いもなく王都の屋敷で疲れを癒やすことになった。
そして翌日、レイン達の同級にしてリーザリアの護衛につく子爵令嬢リリーナ・フィオレンスが屋敷を訪ねてくるのだが、レインはこのことで頭を抱えることになる。
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