閑話4 私の従者
大変お待たせしております。
現在聖者無双を書いている時間もやっとだったりするので、レインスターの更新が止まっております。週一のはずで書こうと思ったのですが、少し無理でした。ただ必ず完結までは持っていく予定ですので、よろしくお願いします。
ライバード王国学院への入学の為、レイン達一向は王都へ向けて順調に旅を続けていた。
レインも入学試験の際に往復した道だったので、周囲に悪意があるかどうかだけを探れば良いと思っていたのだが、隣でブスッとレインを見つめるリーザリアに、無言の圧力を掛けられていた。
「えっとリーザリア様、何か御用でしょうか?」
無言の圧力に負け、レインはリーザリアに話しかけると、リーザリアはブスっとした表情のままレインに口を開いた。
「レインは一体いつになったら、森でのお話を聞かせてくれるの?」
馬車の中が退屈だったこということもあるが、それ以上にリーザリアは同世代のレインが、周りの大人とだけ話しているのが、気に入らないみたいだった。
レインは助けを求めようとマリーナさんを見るが、ただ笑われているだけで、助けてくれる素振りは全くなかった。仕方なく今度はセバサを見ると、微笑んで頷いてくれた。
それがリーザリアと話していいという合図だと正しく理解したレインはリーザリアにこう語りかけた。
「今日はどんな話をしましょうか?」と
◇◇◇
リーザリアはこの王都へ向かう馬車でレインの話をゆっくりと聞けると思っていた。
しかし、そんな時間はいつまで経っても訪れなかった。
何故レインは自分の従者としてついて来たはずなのに、いつも忙しそうにしていて、ゆっくりと話してくれないのだろう。
徐々に不満が溜まっていくけれど、レインは相変わらず話をしてくれないので、ジッと彼を見つめることにした。
リーザリアから見たレインは、本当に色々なことを知っている同じ歳の少年だった。
そしてそのレインが話す外の世界ことは、何を聞いてもすべてが新鮮に聞こえて、本の物語を読むよりもずっとワクワクするものだった。
リーザリアはそんなレインがしてくれるお話が、いつの間にか一番の楽しみな時間になっていた。
それなのにここ数ヶ月間はレインが森に行ってしまって、勉強をするのも本を読むのも一人になってしまい、とてもつまらないと感じるようになってしまっていた。
ただレインが森から帰って来たときは、セバサが気を利かせてくれて、レインの話を聞く時間を作ってくれたので、とても嬉しかった。
レインの話す内容も森へと出掛けて行ってからとても臨場感があり、魔物が仕掛けた罠に嵌ったことや魔物との戦闘、いつかは開発したい魔法と多岐に渡り、飽きることはなかった。
でも残念なことに、ライバード王国学院へ入学するにあたり、その準備でレインだけでなく、リーザリアも忙しくなってしまい、今日まで中々レインの話を聞くことが出来なかったのだ。
だからこそ母であるマリーナにお願いして、レインを同じ馬車に乗ることに成功させたのに、レインが話す相手はセバサや、御者、外に居る私兵団長だけだった。
たくさんお話が聞ける。
リーザリアのその考えは、脆くも崩れ去るのだった。
それは面白くないことではあったが、レインを見ていると皆に声を掛けてくる理由が分かった気がした。
きっとレインの話がキラキラしているから、みんなが集まってくるんだ。
リーザリアはそうは思った。
しかし、それで納得出来るかといえば、そんなことはなかった。
レインは私の従者。皆がレインと話したいのはしょうがないと思う。
それでもレインとお話しがしたい気持ちは私が一番強いわ。
だから少しはしたないけど、レインを見ながら頬を膨らませることにしたの。
レインはそこでようやくこちらに気がついて声を掛けてくれた。
だけど慌てるレインがおかしくて、もう少しだけ頬を膨らませていることにしたの。
レインは困った顔をしながら、どんな話が聞きたいかを尋ねてきたから、私はいつも通り、レインの森でのお話をお願いするのだった。
◇◇◇
私がレインのこと知ったのは、ライバード王国学院の入学するときに連れて行く従者をお父様が選定している時だった。
お父様の私室に呼ばれた私はそこでレインのことを初めて耳にした。
お父様が治めている開拓村の一つに、とても優秀狩人がいて、その狩人が私と同じ歳の少年であることを教えてくれた。
「なんとあのオークを倒してしまうらしい。一度会ってみて、本当に優秀でリーザが従者にしてもいいと思ったら、従者にしようかと思うのだがどうだ?」
普通なら、辺境伯の爵位を賜っているお父様の娘なのだから、同じ派閥の貴族である子息もしくは息女が付くのが一般的なのに、そうは思っても会わないのに決め付けるのはいけないと思って、私は了承することにした。
「お父様を信頼していますから、お任せ致します」
私はそう言ってお父様の私室を後にした。
私には小さな夢があった。
それは外の世界を見てみたいということと、色々な体験をしてみたいことだった。
けれど、その好奇心はずっと胸に奥にしまっておいた。
お父様やお母様が心配をさせることはしたくなかったし、貴族令嬢としての振る舞いを覚える毎日でそんな余裕がなかったから。
お父様の提案を受け入れたのは、その優秀な狩人と会えば、外の世界のことが聞けると思ったからだ。
いくら狩人で優秀だとしても、きっと教育は受けていないし、そちらに関しては期待をしていなかった。
そしてレインと初めて会った時、もの凄く驚いたのを覚えている。
だってレイモンお兄様と同じぐらいの身長なのに、何処か大人びた雰囲気を纏っていたんですもの。
それに漆黒のローブがとても似合っていたんです。
さらに驚かされたのは、夕食を共にした時だった。
普通の村人、しかも子供がテーブルマナーなどを知ることはない。
だから例え食事を薦めたからといっても、貴族と食事することはしないし、したとしても粗相をしないように、こちらの顔色ばかりを窺うのが精一杯だろう。
ところがレインは普通ではなかったの。
テーブルマナーをそつなくこなし、出てくる全てのお料理に関して、評論をしていくのだった。
緊張するどころか、元々貴族なのではないかと疑うほど洗練されたものだった。
そしてホストであるお父様に恥を欠かせないように、一つもマイナスな発言をすることがなかったのだ。
これには少しでも粗相をしたら、イジワルをしようとしていたリリアーナ様とレイモンお兄様も、唖然としていることしか出来ない様子だった。
それがとても面白くて、レインと早くお話しをしてみたくなっていった。
でも、次の日にレインのことが嫌いになったわ。
だって、私が難しいと思っている問題を次々と解いていってしまうんですもの。でもレインが得意なのは計算だけだった。それ以外の項目は全て私の方が得意だった。
この日からレインに負けたくない気持ちが強くなっていったのだけど、ライバルを嫌いになるのは勿体ないと、お母様に言われて、仲良くすることに決めた。
お父様は既にレインを従者にすることを決めたみたいだったので、私はレインに勉強を負けないように頑張ることにした。
そうしたある日、レインが普段何をしているのか、お母様に尋ねる機会があった。
「お母様、レインはライバード王国学院の入学するための勉強しかしないのよ。予習だって大切なのに、いつもお茶の時間になると何処かに行ってしまうの」
「レインのことが気になるの?」
お母様はからかうように言ってきたので、私は慌てて首を振って答える。
「レインが入試を失敗したら、新しい従者を雇わないといけなくなるじゃない」
「じゃあレインぐらい優秀な子でもいいのかしら」
「だ、駄目よ。レインは勉強のライバルなのだから。お母様、何でイジワルを言うの」
「それはリーザが可愛いからよ」
お母様はそう言って微笑みながら、私を抱きしめるのだった。
そしてレインが何をしているのかを教えてくれた。
「レインは私兵達に混じって戦闘訓練しているか、セバサの手伝いもしているわ」
「でもレインは狩人何だから、私兵と戦闘訓練しても弓は使えないのでしょう?」
「そうみたいね。もしかするとリーザを守るために剣の腕を磨いているのかも知れないわね。」
「何でいちいちニヤニヤするの。もう。それよりセバサの手伝いって?」
「レインは優秀だからもしかすると、セバサの後継者にするのかもしれないわね」
「レインも忙しいのね。入学試験は私の勝ちね」
「レインは手強いわよ」
「ライバルには負けないわ。それにレインは意識してくれないみたいだから、絶対にライバード王国学院の試験に勝って、レインにライバルだって認めさせるの」
「ふふふ。頑張りなさい、リーザ」
「はい、お母様」
こうして試験の日まで、私は必死に頑張るのだった。
そして試験の日を迎えたのだけれど、入学試験の筆記試験は想定したものよりも簡単な問題しか出なかった。レインはこれぐらいじゃ間違えないだろうと思いながら、全ての解答欄を埋めて筆記試験を終えた。
戦闘技術を見る試験になり、私は緊張していた。何故だか色々な人の視線が私を見ている気がしたのだ。
このままじゃ、もしかすると魔法を失敗してしまう。そう思ってレインに先に試験を受けるように言うとレインは直ぐに試験を受けてくれた。
次第にこちらを窺う視線が強くなってきた時だった。
ダァーンと弓が的を貫いた音が聞こえると、今まで感じていた視線が嘘のように消えていった。
そしてレインはこちらを心配してか、五射を連続して放ち、全てを的の中心を射抜いたのだった。
レインと視線が合って直ぐに、試験官がレインに剣を持たせた。
レインは近接戦闘が出来るのかしら? 少し不安を覚えたが、それは杞憂だった。
試験官の剣を弾き、剣の切っ先を試験官に突きつけてレインは見事に勝利したのだった。
もう。私の心配を返して欲しいわ。そう思いながら、レインが私の従者で誇らしく思えるのだった。そしてあの嫌な視線も感じなくなった私は、自分が放つことの出来る最大魔法であるアイシクルレインという水魔法の派生魔法の氷属性中級魔法を成功させることが出来た。
帰り道にこれから同学年になるかもしれない貴族の子息達が、レインを恐がりながらも呼び止めて近づいてきた。
私はそれがとても嫌だった。従者だからなのか、ライバルだからなのか分からないけど、レインが馬鹿にされていると思ったら、レインの名前を呼んでいた。
レインは名乗りを上げようとした子供達を簡単に投げ飛ばしてみせた。
「レインは私の従者よ。彼を馬鹿にするなら私を馬鹿にするのも同罪よ」
聞こえていないかも知れないけど、それを告げると嫌なモヤモヤが無くなっていた。
こうして試験が終わり、試験に勝ってレインにライバルだと認めさせたのだった。
◇◇◇
「リーザリア様、聞いていらっしゃいますか?」
昔のことを思い出していたら、レインが心配そうにこちらを見ていた。
それが少しおかしくなったけれど、一生懸命に話してくれるレインに悪い気がして、少し誤魔化すことにした。
「ええ、聞いているわ。ただレインの開発している魔法が、少し気になったのよ」
「開発出来たら、一番にリーザリア様にお見せ致しますから、申し暫らくお待ちください」
「約束よ」
お父様が従者にしてくれたレインが一緒にいてくれるなら、ライバード王国学院での生活も不安になることなく、過ごせる。私はそう思いながら、レインのお話しに耳を傾けるのだった。
お読みいただきありがとう御座います。




