28 秘密特訓
その日、辺境伯の屋敷に学院の入学試験結果が届いた。
合格通知を開けたのは辺境伯で、順位はリーザリアが三位に入り、レインは四位だった。
合格点などは未記入であったことから、色々な勘繰りが出来る状況だったが、レインは辺境伯から言われた結果について頭を下げるだけだった。
ただ、一人だけは違った。
リーザリアだ。
レインが辺境伯の屋敷に住むようになってから、何でも出来てしまうレインに対して、少し劣等感を感じ始めていたのだ。
そのレインに勝ったのだから、その喜びもひとしおだった。
「レインに勝ったわ」
家庭教師のマリナリアに嬉しそうに報告するリーザリアの姿は本当に嬉しそうにしていた。
「それはおめでとう御座います」
そんなリーザリアをマリナリアも本当に嬉しそうに褒めるのだった。
レインはいつもの負けず嫌いの性格が嘘のように、それでもリーザリアが変に思わないように称える。
「まさか負けるとは…僕もリーザリア様に、今度こそ勝てるようになりますからね。今回はおめでとう御座います」
「受けて立つわ。三年間絶対に負けないんだから。レイン学業に関してはライバルだからね」
12~14歳までの三年間を過ごすことになる学院生活を前に、リーザリアはレインにライバル宣言した。
「宜しくお願いします」
レインは受けて立つことにした。
実は辺境伯にはそうなることが予想済みだったようで、お願いされていたのだった。
「きっと、切磋琢磨したいと言い出す。だからそうしてやってくれ」
辺境伯に頭を下げさせてしまったレインに断ることなど出来る訳がなかった。
レインは自室に戻ってから学院を卒業した後のことを考える。
「卒業後、数ヶ月で成人である十五歳になるんだよな。僕はその時、一体何をしているだろう?」
三年のうちにその答えを探そう。
レインはそんなことを考えながら、学院生活を送る前に最後の追い込み修行することにした。
「ふむ。本当に行かれますか?」
「はい。確かにここでも訓練は出来ますが、直感みたいなものが鈍りそうなので……ちょっと森で修行してきます」
「では最低十日に一度は戻ってきなさい」
そうセバサさんにそう言われて、レインは了承した。
レインは許可を貰うとタークスの街から十キロ程の離れたところにある森へ行き、そこで三ヶ月間の修行を行なうことにした。
森に篭って修行することで、己とリーザリアを狙う悪意に対処出来る様、自分を磨き直したかったのだ。
レインには後一つ目的があった。
それは小さい頃から挑んできた飛行魔法を完成させることだった。
レインはその日から修行をスタートさせた。
初日に関しては実はかなり緊張していたのだが、ビッグボアを見つけたことにより、レインの緊張はあっさりと解けた。
「いただきます」
レインはそう呟くと矢を放った。
魔力が注がれた矢が木々の間を通り抜けビッグボアの心臓に突き刺さった。
ビッグボアを何度も食べてきたレインには、心臓を狙うことなど容易な事だった。
こうして幸先の良いスタートを切ったレインは、この森で不思議な出会いを果たすことになる。
それは一週間が過ぎようとしていた頃の夕暮れだった。
キラキラしたものが、視界に映った気がしたレインは、夕日が反射したのだろうと思った。
しかし、それは夜になっても薄っすらと光っているように見えた。
「火の玉? とかじゃないよな」
触ろうとするとスゥーっと消えていった。
「一体、今のは何なんだったんだ?」
レインは困惑しながらも、いつも通りに罠を仕掛けて、木の上で眠ることにした。
その日からレインは夕暮れ時になるとその光を目にするようになっていった。
十日目がやって来たので、辺境伯の屋敷に帰ることにしたけれど、さすがに手ぶらで帰るのは気まずかった為、お持ち帰り様にビッグラビット二匹とビッグボアを取って置いた。
「オークが近いところにいないのは残念だったな」
レインはそんなことを呟いて、血抜きをして、内臓を取り出したことで、軽くなった肉の塊を担いでタークスに帰るのことにした。
しかし八十キロはある肉の塊を担いで帰ったために、門兵に止められることになるとは、この時のレインは気がついていなかった。
レインが厨房に肉の塊を持っていったところで、背中に何かが当たった。
「痛い」
そんなことを呟くリーザリアがいた。
「えっと……リーザリア様何か御用ですか?」
「十日間も何処に言ってたの。レインがいないから、つまらなかったじゃない」
拗ねたように言うリーザリアの姿を見てレインは和んだ。
「……リーザリア様に負けないように、僕は現在秘密の特訓をしているんです」
レインは笑って答えるとプゥーと頬っぺたを膨らませるリーザリア。
「ズルいわ」
「三ヶ月経ったら屋敷に戻るように言われていますから、それまでリーザリア様も頑張ってください」
「えっ? また直ぐに出かけるの?」
先程まで怒った顔は一変して、悲しそうな顔になったところで、背後から声が掛かった。
「今日は一日滞在して、リーザ様とダンスのレッスンと勉強をしてもらう予定です。もちろん夕食も共に取り、明日の朝食を食べたら、また十日後に帰ってきますよ」
「なっ!?」
レインが振り返るとセバサがいた。
「う~ん、分かった。今日は一緒に勉強ね」
「はい」
レインはセバサからの眼光に負けて、頷いた。
辺境伯と夫人もこの日の夕食は久しぶりに賑やかだと嬉しそうに話しをして、レインの十日間の暮らしを聞いて楽しそうにしていた。
「レイン、十日後にちゃんと帰って来るのよ」
翌朝の朝食が終わった後に、リーザリアにそう言われたレインは、約束をしてから辺境伯の屋敷からまた森をに戻った。
「何だか待っていてくれる家族がいるって感じがするな……村は大丈夫なのかな?」
レインは不安になりながらも、三年後には一度帰郷しようと考え始めた。
レインが森に帰るとあの光の玉は一つだけじゃなく、その数が増えていた。
「君たちは一体何なんだ?」
もちろん答えなどはなかった。
また十日間が過ぎ去ろうとしていた時に、彼等? 彼女達? の正体が判明した。
幼精だったのだ。
レインが呟いた言葉に、幼精達は反応して縦に動いたり、横に動くのだ。
レインはそれからいくつも質問すると光は急速にレインの下へとやってくることになった。
それからは森から帰ればリーザリアと一日を過ごし、夕暮れ時からは幼精たちと話すことが多くなった。
「ラフィと別れる時に身体に入り込んで来た不思議な光玉と似ているから、ラフィのおかげなのかな?」
縦に動く精霊達を見ながらレインは心が温かくなるのを感じていた。
「そっか」
ラフィに心の中でお礼を言いながら、レインはさらに鍛錬を続けた。
幼精達は魔法を使おうとすると寄ってくるので、もしかしてと思ったレインは幼精達に聞いてみた。
「僕の魔力を対価として、魔法を教えてくれないかな?」
するとたくさんの幼精は縦に動いて肯定してくれた。
こうしてレインは幼精達を先生にして、魔法を使用したり魔物と戦ったりしていく。
レインが住んでいた村の近くの森では、遭遇したことがない魔物も多くいた。
しかし奇襲を受けないように、昼間でも幼精達が現れて教えてくれるので、レインには死角がなくなっていった。
「僕の魔力をあげる変わりに、魔法をイメージした魔力をあげると魔法を使ってくれるから凄いよな」
実は幼精に魔力を与えると詠唱しないでも、魔法を使ってくれることが分かり、そのメリットにレインは興奮しながら、鍛錬を続けていった。
但し、どれくらいの魔力で、どれぐらいの魔法になるかは、さすがに調整と研究が必要だった。
その為に、二ヶ月目を過ぎた頃からは、森の奥深くまで入りたくさんの魔物と戦いながら、実戦で使える戦闘スタイルの確立と、精霊に魔法を使ってもらうタイミングと威力、魔力量を分析していった。
そしてレインの研究は飛行魔法についてが、殆どだった。
「こういうイメージなんだ。だから少し飛ぶ為に力を貸して欲しい」
森の中でフワフワと浮かぶ光の球体である幼精にレインはお願いをした。
レインは魔力を分け与えて、噴射して空に上がるではなく、空中を駆けたり、自由落下を無くして空中に留まる方法を研究するのだった。
そしてあっという間に三ヶ月が過ぎ去り、入学式まで一ヶ月を切っていくのであった。
お読みいただきありがとう御座います。
今回、妖精ではなく、幼精としていますが、わざとです。
低位精霊でも良かったのですが、幼い精霊の方がファンタジーだと感じましたw




