閑話3 後継者
このガスタード家に雇って頂いて早二十五年。
もう四十を超えてしまいましたが、未だガスタード家で雇っていただいております。
誰かが言っていました。
完璧超人のセバサと。
それを聞いた私はとんでもない、いつもそう思っております。
私は隠密は行動が出来ますが、武力はほとんど有りませんし、そう見せているだけに過ぎません。
完璧超人を育てる。
それが私の兼ねてからの夢でした。
しかし、私の教育を受けた者達は執事になってそこで満足して終わりになる者しかいなかった。
一向に私の存在を脅かそうと、執事長になりたいと思う人物は現れませんでした。
息子もそうです。
執事が勤まるように幼い頃からしつけをしてきましたが、レイナス様、レイモン様に仕える気がなく、結局冒険者になってしまいしました。
子育ても失敗しているのですから、既に完璧ではないのです。
まぁ、あの子の人生ですから好きにすれば良いと思います。
こうして月日が流れて先代から執事長として仕えてきましたが、後継者候補にあがるような人材は発掘できませんでした。
ガスタード家は現在、跡継ぎの問題に揺れています。
レイナス様、レイモン様と可もなく不可もなくと言った感じの成績でしたが、リーザリア様は優秀です。
聞いたことを理解するまで取り組み、分からなければそれを考える力があります。
しかし回りに歳が近い子は少なく、周辺の貴族様のところには同世代のお子様がいらっしゃらいないことから、寂しそうにしているのが見受けられました。
貴族ですから、もちろんパーティ等にご出席されることもありますが、レイモンド様はリーザリア様溺愛している為に、出席もさせていません。
何処かに同年代のライバルになりそうな子とも思いましたが、こんな辺境にいる筈がないと諦めていました。
諦めてリーザリア様がご結婚なされたら、あとはやることも多くありませんので、私は引退してたまに旦那様の相談相手になろうかと考え始めていた矢先に、ある村の少年を調査することになりました。
近隣一帯から許婚にしたいともて囃され、神童と噂の狩人。
これを聞いた時はどうせ村だけと考えていました。
神童とはよく使われる言葉ですが、本当の神童とはあまりいません。
しかしこの子は調べていくと神童と呼ばれておかしくないことがいくつも確認できました。
オークを弓で倒し、識字、計算の能力に優れ、発明家であり、薬学から商才まであり、その上で学ぶ姿勢が正しく努力家。
まさに執事にふさわしい人材と言えるでしょう。
まぁ村育ちですから本人と会って資質を見極めるようにしてレイモンド様に報告書を渡しました。
実際にあったレインスターは年齢よりも大人びていて、性格は謙虚で礼儀正しく、ユーモラスもある少年でした。
もちろん才能も同年代よりも高く、それに溺れて天狗になることもない、努力を欠かさない少年だったのです。
本物の努力の天才であり、継続することの出来る強い意志がある人物であることから私は歓喜しました。
うまく育てられれば私の後継者に……もっとそれ以上の存在になるのではないかと。
レインスターが屋敷に来た日、私が驚いたことが二つありました。
まず彼は村民であるにも関わらず、魔法を使用したこと。
これは貴族では珍しくありませんが、村民は使用できる人間はごく稀です。
さらに夕食では、近隣で食いしん坊だけで連想される少年の、食欲、食に対する知識に驚かされました。
本人はそのことを理解しているのでしょうか?
私はこの日、面白い人材のレインスターを使い潰さないように、レイモンド様にお願いしました。
翌日から礼儀作法やダンスも最初は難がありました。
しかしそれも最初だけで、日に日に上達していき、一月で振り付けや相手に合わせる事が出来るまでに成長しました。
「セバサさんあの子は天才なのでは?」
「いえ、努力家なのですよ。一人で夜遅くまで起きていて、何度も反復練習をしていましたから」
その瞬間、何故レイモンド様が教育しようと思ったのかが分かりました。
「セバサさんの後継者ですか?」
「そうですね。そうなると良いと考えています」
マクアリアの言葉に私は少し照れながら、答えた。
「珍しいセバサさんが見れた御礼です。レインスターをビシビシ鍛えてまいりましょう」
そういうマクアリアも楽しそうにしていたのは間違いありません。
何せレイナス様もレイモン様も、ダンスがお嫌いでしたからね。
私に無い戦闘力。
齢十歳の少年が、Aランクの実力を持つ冒険者であったケイオス隊長と、接近戦をしてほぼ互角で戦っていました。
その前の弓の技量も凄まじく、既にリーザリア様の護衛とするなら申し分の無い武力を発揮しました。
その後の語学と計算は度肝を抜かれました。
学院への入学問題から国の文官採用レベルを出したのに、それをスラスラと解答をしていく早さに、最初は難しくて適当に書いているのかと思いました。
しかし採点を始めると計算は満点、語学は言い回しが独特だったのを除いては、全く非の打ち所がありませんでした。
こうして私はレインスターを、何としても自分の後釜にするべく、計画を立て始めるのでした。
「レイン、君が私の後を継ぐのも時間の問題です、ふっふふ。ふわっはっはっは」
私は数年振り?に全力で笑うのでした。
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