閑話2 後十五年早く
幼少期から冒険者に憧れ、俺は幼馴染達と一緒に冒険者になった。
俺の腕だけなら既にAランク冒険者だと言われるようになっていた。
A級からまだ上を目指せると言われたが、その頃に子供が出来て、俺の夢は変わった。
後悔はない。
好きな女と一緒になって、子供も生まれた。
とても幸せだ。
だが、俺の前に一人の少年が現れるレインスターだ。
結婚後に冒険者を引退した俺は、今の雇い主であるレイモンド様に、その実力を我が領の平和の為に使って欲しいと誘われ、私兵の長に任命して翌年のことだった。
「レインスターという男を迎えにいってほしい」
レイモンド様に頼まれた俺はエレフェレンに赴いた。
そう言えば、幼馴染のリリーナがこの街で、魔導具屋をしていることを思い出して寄ってみることにした。
それぐらいの寄り道ならばちは当たるまい。
俺はそう考えて友人の店を探して漸く辿り着いた。
「リリーナ久しぶりだな。」
幼馴染であり友人のリリーナの店に寄った。
「あら、久しぶりね。アンナとアキネス君は元気?」
元気なリリーナがいた?
「なんか機嫌が良くないか?」
「ああ、分かる? 今ねぇ性格のいい子と約束していてね。その子は狩人なのよ」
「ほう。俺達が引退したした時にパーティーにあの弓を使えるだけの斥候がいたら、それこそ狩人がいたらAランクも固かったんだけどな」
「そうね。貴方の剣と私の攻撃魔法、アンナの槍とあいつの盾。後は情報分析能力と罠を解除出来る能力、遠距離から援護出来る力を持った子がね。レインスター君、後十五年遅かったわ」
「はぁ? もしかしてあれを売るのって新人冒険者か?」
待て、その前に今リリーナは何て言った? レインスターだと?
「ううん。ほら一度マキナリさんの村に行った時があったじゃない? ほとんどのゴブリンの眉間に矢を放った狩人がいたでしょ? 実はあれって、あの時に私が魔法を教えた子だったのよ」
リリーナは嬉しそうに言うが、俺の頭の中で処理しきれない。
「きっとあの子は凄くなる。まぁ冒険者じゃなければ、あまり有名にはならないかも知れないけど、それでもきっと周りが放っておかないわ」
こいつは昔からそうだが、感が良いからな。
辺境伯に呼ばれていることも、もしかするとその一歩なのかも知れないな。
俺はそう感じていると、客が入ってきた。
「リリィさんいますか?」
開いたドアを見ると一人のまだ顔に幼さが残る少年が入店した。
「あら、噂をすればレイン君いらっしゃい」
リリーナがそう言って出迎える。
これが十歳だと? 身長は個人差があるから何とも言えないが、こいつは相当鍛えているぞ。
これで十歳だったら、他の子供とは偉い違いだぞ。
俺は驚きながらも声を掛けることにした。
「君がレインスターか?」
「あれ?お兄さんってリーダーだった人?」
どうやら俺を覚えていたらしい。
何だか覚えられているのは嬉しいものだ。
「おお。本当に覚えているとは」
あの時の出会いにも、意味があったようだな。
「今じゃ貴族様の私兵なのよ」
リリーナがそう言って俺をからかう。
俺は本題を言う前にリリーナが割って接客をしだした。
「それでどうしたの?」
「残りのお金を貯めてきましたので、あれをください」
「本当?」
レインスターは皮袋をカウンターに置いた。
その中には銀貨がどっさりと入っていた。
「十歳の稼ぎじゃないわね」
リリーナはそう言ったが、こいつが普通じゃないことはこれで理解した。
「じゃあケイオスっと待ってなさい」
そう言ってリリーナは地下に消えていった。
「よもやあの少年がこれほど大きくなっているとはな」
「ははっ。成長期です。あ、結婚おめでとうございます」
むむリリーナが言ったのか?
まさか子供に祝福されるとはな。
「ありがとう」
それも悪くないと思い俺は礼を言う。
その僅かな時間でリリーナが戻ってきた。
「はい。お待たせ」
リリーナが持ってきたのは全て迷宮の武器と防具で、斥候用にとっておいたものだった。
「おい。これって迷宮の装備じゃないか」
「そうよ。だってこの子だったのよ。眉間の矢の狩人」
俺は驚愕した。
「あんなに小さかったのにか?」
俺の腰程しかなかった小さな少年が眉間の狩人だと?
それを聞いて俺の中のピースが繋がっていく。
ゴブリンの眉間に矢を放って倒す、まさに弓の神に愛されているような村の至宝を村長が隠すわけだ。
それはそうだろう。
十を超えるゴブリンの眉間を射抜く、凄腕の七歳を手放すわけが無かった。
そしてそれが成長しレイモンド様に召喚される。
なるほどな。
こいつがどういう男が興味が湧いてきたぞ。
俺はこの時に初めてこの任務に選んでくれたレイモンド様に、心の中でお礼を言った。
レインスターは傑物の片鱗を直ぐに見せ始める。
警戒していた白馬を従属させて、それを銀貨10枚で買う交渉術。
野営の料理も不寝番。
とても十歳の子供のそれを大きく上回っていた。
普通の十歳なら夜は怖くて泣きはしなくても、ぐっすり寝る事なんて出来ない。
そして直ぐに起されたら起きれる反応にも一目置ける。
いつの間にか酒が進み寝ていた俺が目を覚ますと、遠くで狼の群れが死んでいた。
夜に何でこんなに正確に射抜けるんだ?
こいつはどれだけの腕をしているんだ?
色々疑問がわいてくる。
狼までの距離は四百メートルはあった。
それでも射殺していた。
本当に何で十五年早く産まれてこなかった。
レイモンド辺境伯様の屋敷に着いた翌日、レインスターは訓練に参加することになった。
その後に近接戦闘を高めたいといって訓練に参加したが、非常に弱く何の役にも立たなかった。
もちろん私兵達が、だ。
俺は訓練をつけるために対峙したんだが、この負けず嫌いめ。
俺はこの日から、俺の弛んだ意識を叩き直して、レインに俺の凄さを思い知らせるために必死で訓練をすることになる。
正直な話、数年後にはレインに勝つのは難しいだろう。
だから身体が出来あがる前に、きっちりと上下関係を叩き込もう、
そう考えてレインと毎日模擬戦闘をし続けるのだった。
ケイオスの閑話でした。




