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25 私兵団の実力

 まだ朝日が昇る前にいつも通り目が覚めると知らない天井だった。

「ああそうか。僕は辺境伯の所でお世話になることになったんだ」

 レインはそう呟くと柔らかく暖かいベッドの誘惑を振り払い、ストレッチをしっかり行ってから部屋を出た。


「この時間帯はやっぱり結構は暗いなぁ」

 そんなことを呟きレインが玄関を目指して歩いていると「待ちなさい」と声を掛けられた。


 レインが驚いて振り返るとそこにはセバサルーンがいた。

「おはよう御座います。セバサルーンさん」

「おはようレインスター。今日から君をレインと呼ぶから、私をセバサと呼びなさい。さて、この時間から走りに行くのかね?」

「はい」

「ならこれを受け取りなさい」

 セバサはレインに一枚のカードを渡す。


「そのカードは所謂身分保証書で、レイモンド様が賓客として扱うことになっている者に渡すカードだ。それを見せれば大概は乗り切れるだろう」

「これって失くしたら……」

「当然罰せられるから失くさないように」

 レインの嫌な予感は当たった様で、その顔を見たセバサは笑いながら去って行った。


「朝から爆弾を押し付けられた気分だよ。それにしてもセバサさんって全く気配を感じなかったぞ」

 レインはそう独りごちながら、屋敷の玄関の扉を開いた。


「今日も晴れそうだな」

 薄暗い朝の外気は肌寒かったが、歩きながら屋敷の門まで下って行くとそこには朝早くからしっかりと門番が警備していた。


「おはよう御座います」

 レインはカードを提示しながら話しかけ、出かけることを報告すると子供のレインにもしっかりと対応してくれた。

「いってらっしゃいませ」


 きっとこれが辺境伯家で働く水準なのだろう。

 レインはそう考えながら、街に向かって歩き出した。


「まだこの時間帯は誰もいないんだな。酔っ払いとかもいないから、そこそこ厳しいのかもな」

 街はまだ眠りから覚めていないように、誰の姿もなかった。



 スタークの街を出る時も身分保証書を見せると敬礼されて見送られた。

 レインは笑いながら外周を走ることを伝えて走り出した。


 颯爽と走り出したレインだったが、スータクには三箇所の門があり、このあと二度保証書を提示することになるとは思わなかった。


 五周する頃に朝日が顔を出し始めたので、ランニングを切り上げることにしたレインが街に入ると、にわかに市場周辺が音を立て始めた。

 その音を聞きながら、「街が目を覚ましたんだなぁ」とレインは笑って、屋敷の門を通り屋敷には入らずに白馬のラフィに会いに馬房へと向かった。


「うん。やっぱりそこそこ臭うな」

 僕はクリーンを掛けながらラフィの元へ向かうとラフィは起きていた。

「ちゃんと眠れたかい?」

 レインはそう声を掛けながらラフィにもクリーンを掛けて、撫でながらそのまま筋肉を押してマッサージを始めた。

「緊張したのか?」

 凝っている様に感じたレインはしっかりとマッサージを続けていた。


「誰だ、俺の厩舎入ったやつは」

 暫らくマッサージを続けているといきなり怒鳴り声が聞こえたので、レインはラフィの馬房から顔を出して相手を確認すると馬房から出て挨拶をすることにした。

「ドレック村から来たレインスターです。自分の馬の世話をしに来ました」


「ほう。そすたら白馬の主人か。しっかし、よくその馬を手懐けたもんだべ」

 ここの管理者なのだろう。


 結構良い人っぽいので笑いながら話す。

「手懐けたんではなく交渉したんですよ。安全に子供と暮らせる環境を提供することを約束して」


 レインは馬房に戻ってマッサージを再開した。


「はぁ~。分からんもんだな。その馬さあんまり餌も食べんし、近寄ろうとすると威嚇するんだべ」

 管理人はそう言って肩を竦める。


「ラフィ! ちゃんと食べないと子供が産めないし、ラフィだって危険なんだよ? 少しずつでもいいから食事の量を増やそう。ね」

 レインが叱るとブルルとラフィが鳴き、それがまるで「仕方ないわね。」と言っている様に感じさせた。


「大したもんだな。俺さナリッチだ。兄ちゃんなら厩舎に入ってもいいべ。さってと、じゃあ餌を用意すっから手伝ってくれ」

 ナリッチと言った厩舎の主はレインを認めて手伝いをさせることにした。


「分かりました。でも餌って表現は止めてください。ラフィは特にそうですが、馬は人のパートナーに慣れる数少ない動物です。家畜ではないので食事と言ってください」


 レインがそう言うとナリッチは意表を突かれた顔をして苦笑する。

「・・・本当に兄ちゃん馬想いだな」


 レインはナリッチと食事の用意をして、ラフィの分も用意したがその量は規定よりも少なかった。

「無理には食べなくていい。少しずつ量を増やしていこうな」

 レインが撫でるとブルルとラフィは返事をして、まるで「分かったわ」とレインは言われた気がした。

「また来るから、お腹が空いたら食べるんだよ」

 レインは自分の食事のことを思い出して屋敷に向かった。

 さすがに貴族様を待たせるとマズいと思っていた。


 ナリッチに後は任せて屋敷前でクリーンを発動させてから屋敷の中へと入った。



「丁度よかった」

 屋敷に入るとセバサが待っていた。


「もう朝食の準備は整っていますから昨日、食事をした場所に向かいなさい」

「わかりました」

 レインは本当に気配のないセバサが気になったが、朝食の誘惑に負けて階段を上って食堂まで歩いていく。



 ノックをして扉を開けると誰も居らず、それにホッとして昨日と同じ席の前で待機した。

「さすがに座っていたら駄目だよな」

 それからは時間を潰すために食堂を眺め始めた。

 高級感のある絵画や美術品、シャンデリアまで、昨日は感じることのなかった空気感がそこにはあった。


「さすが、貴族はお金持ち何だよなぁ」

 まだこの世界で村しか知らない、そして街の常識も知ることのなかったレインでも、ここがどれだけ自分の育った環境と違うかは分かっていた。

「朝は点いていなかったけど、灯りがすべて魔道具って尋常じゃないお金持ちなんだな」

 そう呟いたところでドアがバァンっと開いた。


「おはよう御座いますリーザリア様」

 レインは中に入ってきた少女に挨拶をした。

 リーザリアはレインを見て肩を落とした。

「ま、負けましたわ」

 レインには微かだがそう聞こえた。


「?」

 レインが疑問符を浮かべているとリーザリアが口を開いた。

「貴方確か…………「レインスター、レインで構いません」そうだったわね。レイン、貴方一体いつ起きたの?」

「朝日が昇る前に起きました」

 するとリーザリアは凄く驚いた顔をしながら更に問う。

「そんな朝早く起きたら、眠くなっちゃうじゃない。眠くならないの?」

「三歳からの習慣ですから」

 レインはニッコリ笑った。


「そんなに早く起きて何をしていたの?」

「スタークの街の外周を五周程走っていました」

 それを聞きまた驚いた顔をして問う。

「そんなに走ったら、朝から疲れちゃうじゃない。疲れないとでも言うの?」

 全く何を考えているの?レインにはそう言った副音声が聞こえた。

「そうですね。ですから申し訳ないのですが、本日もたくさんの朝食を頂くことになります」

 レインは苦笑いを浮かべてそう答えた。


「ふふふ。だからあんなに食べるのね。ふふふ」

 どうやらリーザリアの機嫌は直り口許を隠して笑ったことにレインは心の中で安堵した。


 丁度そこで扉が開き辺境伯と第一夫人が顔を出した。

 レインは頭を下げた。


「今日は随分とご機嫌だなリーザ」

「あ、おはよう御座います、お父様、お母様。レインのお腹が空く秘密がわかりましたの。ふふふ」

 リーザリアの笑いのツボを刺激したらしく笑い続ける。

「それはなんだい?」


「魔道具が魔力を補充しないと動かなくなるのと一緒で、食事をたくさん食べないと動けなくなるみたいなんですの。まるで魔道具みたいな人なんですのよ」

(普通の人はそうですよ)

 レインは心の中でツッコミを入れた。

 それに辺境伯が興味を示した。

「ほう。朝から何かしたのか?」

「スタークの街の外周を五周もしたんですって」

 何故かリーザリアが笑いながら答えた。


「五周とは……」

 辺境伯はその後の言葉が出なかった。

 そして席に着くとレインにも着席を促す。

「席に着け、朝食にしよう」


 レインのあれ? という顔を見ていたのか辺境伯が疑問に答えた。

「第二夫人とレイモンはいつも二人で食事を摂るし、レイナスは妻を娶り夫婦で朝食を摂る。昨日はレインに紹介するために呼んだに過ぎない」

「では頂くか」

 こうして朝食が始まり、レインが辺境伯から話題は振られたことに答え、夫人とリーザリアが話を膨らませるという賑やかな感じで、恙無(つつがな)く終了した。



「これより訓練を始める。そのまえに一人紹介する。昨日から旦那様の賓客となったレインスターだ。彼は十歳だが、こう見えてすでにオークとの戦闘にも勝利している」

 すると辺りがざわめく。


 朝食を終えたレインは兵士達の訓練に混じることになった。

 現在はケイオスがレインを紹介していた。


「勝利したと言っても彼は狩人だから、弓による戦闘でのことだがなぁ。そんな彼が接近戦を学びたいと訓練を申し出てきた。遠慮はしないでいい。扱いてやれ」

『おう』

 声が揃う。


「レイン、挨拶を」

 ケイオスがレインに挨拶を促す。


 ケイオスだが実はこの街における私兵のトップだった。

 辺境は戦争が皆無なので、ケイオスの実力……Bランクでも優秀な部類なのだ。


「初めましてレインです。僕は対人戦を経験したことが数える程度しかないため、自分の実力が分かりません。弓を扱うのと同じぐらいの実力を付けたいと思いますので、ご指導ください」

 レインはそう言って頭を下げた


「さてここで彼の弓の腕前を知っておいてもらおう。それが接近戦における彼が望むレベルになるだろうからな」


 ここの訓練場は屋敷の後ろに作られており、広さは横長で縦五百メートル横一キロとかなりの広さがある。


「レイン準備はいいか?」

「はい」

 レインは精霊の長弓に魔力を注ぎながら弦を引いて矢を放った。

 凄まじい勢いで飛んでいった矢は的の中心を貫通して後ろに置いてあった藁に突き刺さって止まった。


「見事だ」

 声が掛かるとそちらを見た兵士達は片膝をついて座った。

 辺境伯が視察にきたのだ。

「それだけの腕前ならオークとて屠れるのは当然だ」

「恐れながらこの弓は購入したばかりで、普段の弓では半分までしか飛びません」

 レインは弓のおかげだということを強調して説明する。

 さすがにこれはやり過ぎたの認識したのだ。


「たわけ、倍ほどの距離を射抜く、その技量を褒めているのだ」

 辺境伯はそう言って笑った。

「いいものを見たぞ。では励めよ。」

 辺境伯は屋敷に帰っていった。



「ゴホン、まあ分かったと思うが、レインは弓に関しては天武の才を持っている。但し、接近戦をしたことがない者に負けるなよ。じゃあ訓練開始」

 初めはランニングだったのだが、十周したところで終わった。

 あれ?っと思っていると大半が息を切らしていたのを見て首を傾げる。


「続いて一対一だ」

 ペアを組まされて僕より身長の高い少年と相対する。

「お願いします」と言うが「ちっ」と舌打ちをされた。


 少しイラッとしたが、頭に血が上らないように気をつけて様子見をすることにした。

 相手の力量が分からないからだ。


「始め」

 ケイオスの声が聞こえた瞬間、接近してくる相手の剣を避け、受け流す。

 今回レインは右手にブロードソードの刃を潰したもの、左手に盾を持つ初めてのスタイルで挑んだ。


 剣での攻撃は何というかモーションが大きく、剣筋も何処か歪んでいて、これならカウンター出来るんじゃないか?

 そう思いながら待っていると、やはりモーションが大きな攻撃がくる。

 レインは剣を避け、その剣に追撃して落とすと、そこから回転して盾で膝裏を叩いた。

 膝カックンだ。

 その勢いが強かった分、相手が仰向けに倒れた。

 レインはゆっくりと相手の首に剣を突きつけた。


「そこまで」

 殆どが終わっていた為にケイオスさんに止められた。

 しかし、やっぱりと思うことが頭を過ぎっていく。

 勝った順に二人目、三人目、四人目と戦っていき五人目も圧倒した。


「じゃあ勝ち残ったところに四人と今、負けた者は三名と一対多の状況で戦闘に入れ」

 そう言われて四人に囲まれた状態でスタートする。


「はじめ」

 合図と同時に前後から攻撃が来た。

 レインが前進すると焦って前の人が剣を振り下ろしてきた。

 レインはもう一歩姿勢を低くして腕を掴むと、相手を後方に投げ飛ばして、バックステップで包囲から抜け出した。


 仕切り直しで深呼吸をしてから、レインは一番近い相手に急接近すると、盾で攻撃を受けながら、シールドタックルで吹き飛ばす。

 そこで半回転しながら、剣を振るとレインに迫っていた相手の剣を弾じく。

 レインはそこで蹴りを膝裏に入れた。


 首を剣の平で叩く。

 最初に投げた男が仕掛けてくるが、剣を剣で叩き落とし、胸に蹴りを叩き込むと相手はふっ飛んだ。

 そこへ攻撃をしてきたもう一人の剣を弾き、盾を前蹴りすると後ろに倒れこんだ。


 レインはまるでゴブリンと戦っているみたいだ。

 そうと思いながら、対人戦の初の一対多も終了した。


「負けた者は後で負けた数の十倍走れよ。さてとレイン、お前中々強いな。俺と戦ってみるか?」

「お願いします」

 ケイオスに聞かれたレインは即答した。

 完全な消化不良だったのだ。


 レインは以前戦ったCランクの冒険者、兎獣人メリッサよりも強いことを願ってケイオスと対峙するのだった。

お読みいただきありがとうございます。

本編よりも書いていて楽しいw


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