24 美食家レイン参上
レインが弓を弄っていると部屋にノック音が響いた。
「はい?」
レインが声を出すと扉の外から声が聞こえた。
「お食事の時間で御座います」
レインはベッドから立ち上がり、素早く扉を開いた。
「案内をお願いします。」
扉を開いた先にいたメイドに案内を頼むと「こちらです」とメイドの誘導に従い進む。
用意されたのは辺境伯の私室とは真逆のところにあり、レインは運動不足解消のためかな?
そんなことを思いながら食堂に通された。
中には五メートル程のテーブルがあり、そこに辺境伯が誕生日席で座り、右手に二人のご夫人、その対面に少し年が上くらいの男性が二人、細身の小さい女の子が座っていた。
レインは既に集まっている貴族に対して、粗相が合ったらマズいと直ぐに再起動して謝罪から入った。
「遅れて申し訳ありません」
「遅れてはいない。私達が席に着いてから呼び出したのだ」
辺境伯の言葉にレインは徐々に落ち着いてきた。
別段怒られる訳ではないことに安堵した。
「レインスターよ。そこで自己紹介せよ」
少し上から目線の発言だったが、貴族なのだから仕方ないとレインは自己紹介を始めた。
「はっ。皆様方、お初にお目に掛かります。ドレック村から来たレインスターと申します。村から出たことがあまり無く、田舎者で常識に疎く、ご不快な行動や言動を取ってしまうことがあるかも知れません。ですが、寛大な心でお許しいただき、ご指導下さるよう平にお願い申し上げます」
レインはそう自己紹介して頭を下げた。
「という訳でレインスター。レインが我が家に一年間逗留する。私の賓客としての扱いだから無碍に扱ったら私に泥を塗る行為だと思え」
『はい』
声を揃えた。
レインは品定めされているかような目に晒されるが、辺境伯から家族の紹介をされる。
「レイン。私の妻は二人いる。第一夫人のマリーナ」
「宜しくレインスター」
「第二夫人のリリアーナだ。」
「リリアーナよ」
あ、この人は歓迎していない。
レインは直感的にそう感じた。
「マリーナとの息子でレイナス」
「レイナスだ」
「リリアーナとの息子でレイモン」
「レイモンだ」
「最後にマリーナとの子でリーザリアだ」
「宜しく」
と手を振ってくれる。
「皆様宜しくお願い致します」と頭を下げた。
「では早速料理を運んでくれ。レインは私の対面に座れ。食いしん坊よ、私を驚かせてくれよ。くっくっく」
辺境伯がそう笑いながらレインに告げると、レインは顔が赤くなるのを感じたが、それも料理が運ばれてくるまでのことだった。
ただレインを注目していた目が、辺境伯に向けられ辺境伯の家族が驚いているを感じることもその時のレインは気がつかなかった。
料理はコースとなっていた。
前菜から一人だけ大きな、それこそ十倍はある大皿にたっぷりの料理が運ばれてきた。
そして食事が始まる前にこちらの世界のいただきますをレインは始めて体験する。
「偉大なる神と大地の恵みに感謝を」
『感謝を』
レインもそれに倣いって声に出した。
「感謝を」
確認すると回りはが食べ始めたので、久しぶりにナイフとフォークを使って失礼の無いように、手を素早く動かしてよく噛みながら食べていく。
それを見た辺境伯がまた笑い、リーサリアが観察の目をレインに向けてくるが、レインは音を立てずに汚く見えないように集中して黙々と食べる。
そして一品目を食べ終えた。
「前菜はどうだった」
「はい。ペッチの実がアクセントになっていて、更に隠し味でバルサミコ酢が使われていて、爽やかさを演出して大変美味しかったです」
全員が驚いた顔になる。
レインはそれに対して?を浮かべるが、そこへ今度はスープが運ばれてきた。
「なんとも甘い香りがします」
口に入れると甘みが駆け抜け、そのあとにピリッとした刺激があった。
「これも大変美味しいパンプキンに生クリームと岩塩で味を整えていますね、荒く挽いた胡椒がその甘みに飽きを感じさせません」
それぞれが確かめるようにレインは飲む。
そして魚料理では無く肉料理がメイン料理、デザートと順番に出されていった。
「これはオークのステーキですね。なるほど、ハーブと煮込んで臭みを消して煮込むとは、かなりの技術と素晴らしい発想力ですね」
「生野菜でさっとお湯を潜らせてありますから、美味しさが引き立って・・・」
「なるほど、グランべりの実を干して甘みをだすなんて・・・」
最後まで十倍の料理を回りのペースに合わせ、さらにコメントしながらレオンは食べ切った。
その様子を終始楽しげに見ていた辺境伯が口を開いた。
「何処でそんなに料理を覚えたのだ?」
「お恥ずかしい話ですが、食いしん坊と言われて食のことに無知だとなんだか悔しくて、趣味で自分で調理もしますし、薬師が近所に住んでいたので色々調味料として口に入れました。
「くっくっく、がっはっはっは。なるほどな。面白いやつだ。そうだ明日の朝食はまたメイドに呼びに行かせる。食事のあとは兵にでも揉んでもらうと良い」
「ありがとうございます。それと失礼になるかもしれませんが、私は日課で日の空ける前から走っているのですが、走る場所が何処かないでしょうか?」
「ふむ。さすがに我が屋敷の庭を走らせると庭師が嫌がるからな……街の外へ走りに行ける様に手配しておこう」
「ありがとう御座います」
「では、食事もこれで終わりだ。今回は先に退席してよいぞ」
「はい。大変美味しい料理を振舞っていただき感謝いたします。それでは皆様も失礼致します」
レインはメイドに案内されて自室に帰って眠ることにした。
「明日のランニングが終わったらラフィに会いに行こう」
軽く筋トレをしたレインはクリーンの魔法を使って汗や臭いを落として綺麗な状態になると、そのままベッドに入った。
「はい。大変美味しい料理を振舞っていただき感謝いたします。それでは皆様も失礼致します。」と少年が出て行った。
「くっくっく。本当に食べきるとはな」
「父上あの子は一体誰なのですか?」とレイナスが聞いてくると
「私の護衛候補らしいですわ」
いつもは大人数でいるときに口を開かないリーザリアがそう口を開いた。
それに反応したのはリリアーナだった。
「あなた、そうなんですの?」
「ああ。まだ候補だがな」
「平民よりも子爵家や男爵家、騎士家系だっているじゃないか。何で平民なんかを…」
「黙れレイモン。なら聞くが文字が書けて計算が出来て、オークを単身で狩れる十歳が貴族の中にいるのか?」
「なっ…そんな者がいるわけないでは、ありませんか」
「あれはそういうやつなんだ。いいか、平民だろうとあいつに何かしたら私が許さん。それとリーザ、明日からあいつにも勉強を教えるから負けるなよ」
「むぅ。負けませんわ」
リーザリアは珍しくやる気を見せた。
「期待しているぞ」
辺境伯はこうして息子に釘を刺し、やる気になった愛娘を微笑ましく思っていた。
辺境伯はセバサの後継者とは言わず、今後レインが我が家にどういう風を運んでくれるか、それを考えるだけで、久しぶりにストレスが解消されていくのを感じた。
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