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21 辺境伯からの召喚状

 収穫の秋を迎える頃、辺境伯であるレイモンド・オルガス・フォン・ガスタード辺境伯爵に一帯の村から連盟で陳情書が上がった。


 内容はドレック村のレインスターと呼ばれる少年が非常に優秀な狩人で、オークを弓で狩り、識字能力、計算能力も高く、このままでは彼との見合いをしたいと夢を見る娘達でいっぱいになってしまい、婚礼が進まないという何とも対応に困る内容だった。


「……こんな陳情書が来るとはな。おい、これは事実か?」

「はっ。真実かどうかは分かりませんが、四ヶ月前にドレック村から二回に分けてオークが全部で十五体運び込まれたようです。また精肉店との交渉もその者がしていたと聞いています、ただそのものがオークを斃したかは不明確です」

「ふむ……そのレインスターとやらを一度見てみるか。使えそうならリーザの護衛として一緒にラインバード王国学院に入学させてもいいかも知れんな」

「しかしそれでは、あの村に狩人がいなくなってしまいますが?」

 初老の燕尾服を着た執事にそう言われ、辺境伯はまた考え始めた。


「腕利きの狩人を何人か村に送ってやってくれ。村の中の若く才能がありそうなもの達を仕込めば、ある程度の狩人にはなるだろう」

「畏まりました」

 返事をした執事はスゥーっと消えていった。

「ふむ。辺境の村で育った少年か。野蛮なものでなければいいが……」

 辺境伯は陳情書をもう一度読みながら、娘にもこのことを伝えないといけないと考えるのだった。




 収穫の秋が終わり、今年も寒い冬がやってきた。

 ビリーの工房は年中火を灯している為、冬は畑仕事がなくなった男衆が工房で暖をとりながら、井戸端会議をするのが日課となっていた。


 その中に唯一ゴライの姿はなかった。

 レインを含めた子供達の姿もここにはなかった。


 彼等が最近会議で話すのは決まって将来の村長の話と、欲しいもの、女の話だった。


「将来の村長はレインで決まりだろ。もう一端っていうか異常なくらい狩人の腕も村の防衛にも力を入れているし、何より頭も良い」

 大人の評価は高い。

 しかし反対の意見が出ないわけではない。


「でも同年代のガキ達にはいつも陰口叩かれてるよなぁ」

「そうじゃないとやっていられないんだろ」

「そうだ。顔良し、性格良し、頭良し、武芸に秀でて、手先も器用。そんな同年代が村の内外から、許嫁になりたい女の熱視線を独り占めしちまって自分達は見向きもされない。嫌でも自分と比較するだろ?」

「……まぁ恨まないとやっていられないんだろ」

「確かにな。まぁ一番可哀想なのはラスターだけどな。弟と張り合っているが、さすがにそろそろ自覚して来ただろう」

「最近のあいつは頑張ってるぞ。まぁ性格は凄く歪んでいるけどな」

 男達はレインスターとラスタードを思いながら、他に村長になりそうなものがいないことについても、同じような話ばかりするのだった。




 そんな会話が繰り広げられている一方で、レインの同世代の娘達もまた毎日家を変えてはお喋りに花を咲かせていた。

「最近レイン君に話しかけようとすると、ラスタードとか他の男の子が邪魔するんだよね」

「あ~分かる。でも最近の男の達って仕事をサボっているから将来不安だよね」

 うんうんと皆一斉に頷く。そして話はまたレインに戻る。


「あの弓を構えている時の真剣な表情が好き」

「私はレイン君がたまにマキナリさんの牧場で寝ている時があるんだけど、それを見ると何だかキュンキュンするのよね」

「私は食べ物を食べているレイン君が可愛くて一番好き」

『分かる』

「でも、レイン君って大人たちとばかり話しているんだよね」

「小さい時からだから癖なのかもね」

「女の子に興味を持つのはあと少しだろうしね」

「誰がレイン君のハートを射止めるか勝負よ」

『負けない』

 年頃の娘達は絶対負けられない戦いをレインが全く知らないところで繰り広げていた。



 そんな少女達の会話が続く頃、男の子達もまた集まって話していた。

「あいつ最近胸が大きくなってきたよな」

「そうそう。それにミミも背が伸びてきて良いと思う」

『ミミはまだ八歳だ、ロリコン』

「そういえば許婚制度ってどうなっているんだ? いつもはこの時期になると村長さんのところに話が来るだろ?」

「……なんかレイン目当てがほとんどで俺達は、はぶられているって聞いたけど」

「なんだと!」

『許せん』

 男の子達のボルテージは上がっていく。しかし一人の少年が声を上げる。

「でも俺は結婚したぞ」

『裏切り者!!』


「あ~結局は顔か」

『はぁ~』

 哀愁漂う少年達だったが、今はレインを恨む気にはなれなかった。

 二度に渡る村の防衛を成功させ、知りたいことは丁寧に教えてくれる。

 村の防衛後から少年達とレインは良好な関係を築けていたのだ。

 そんなとても性格が良い奴だと知ってしまった少年たちは、レインと自分達を比較して自分達の小ささを知り反省することで、少年達もまた心の成長期を迎えるのだった



 そしてレインの家では近所の奥様方が集まっていた。

「レイニーちゃん。これって本当にレイン君が作ったの?」

「ええ。もう私よりも料理が美味しいのよ。母親として少し悔しいわ」

「まぁレイン君だからね」

「そうなのよね。あの子が唯の食いしん坊じゃなかったのは、不幸中の幸いだったわ」

 レイニーは笑いながらレインを落として誉めた。

『ははは』

 それが奥様方の笑いを誘い、家には笑い声が響くのだった。

「そう言えばグラスさんは?」

「朝からお義父さんのところに呼ばれているわ」

「今度は何があったのかしら?」

「本当に平穏な日が続いて欲しいわ」

 そう言いながらレイニーは溜息を吐くのだった。



 村長の家ではグラスが父から受けとった手紙を見ていた。

「しょ、召喚状?それも辺境伯様からですか?」

「ああ。今朝方届いた」

「なんでまた?」

「レインがあまりにも活躍し過ぎるために、村の内外から婚約したい娘が増えてしまいこのままでは許婚も決まらないから…らしい」

「そんなこと誰が?」

「お前達の親、私とナレタダの村長のことだが、それを除いた近隣の全村長の連盟で秋に陳情書が届いたらしい」

「陳情書って」

「ああ、普通は災害などの対策や食料が無いときなどにお願いする為のものだ」

「それでレインは?」

「……急な話だが、召喚に応じる為に明日中にこの村を出て、辺境の街エレフェレンに向かい、其処から辺境伯の住んでいるスタークの街に向かうことになる」

「……あの子は成人もしていない子供ですよ。それをかなりの道のりじゃないですか」

「ああ。だから馬を買うように言われている」

「はぁ~なんで次から次へ問題が……。レイニーに何て言えば、父さんも説明してくださいよ」

「…………」

 村長であるグラスの父は顔を背けた。

 それだけレイニーがマジ切れしたら怖いのだ。


「……百歩譲ってレインが召喚されてしまったら、村に狩人がいなくなりますが?」

「……手紙をよく読め、そのうち腕利きの狩人が何人か送られて来るそうだ」

「そんな家も無いのに?」

「ああ。せめて村に来るのが、がさつな者達でなければいいのだが」

 村長とグラスはお互いの顔を見合ってから、盛大に溜息を吐くのだった。



 一方、レインは「ハッ、セイ」とゴブリンが持っていた少し錆びたブロードソードを片手ずつに持って、双剣を振っていた。

 それもゴブリン相手に接近戦で戦っていたのだ。


 心臓に左手の剣を突き刺し、そこから回転して右の剣で首を中間まで切った。

「まだまだキレがないから首を刎ねることが出来ないんだ」

 レインは戦闘のダメ出しをしながら死体を一箇所に集め、森の中を警戒しながら進む。

 移動しながら魔物を探して倒す。


 一対多の戦闘は避ける為に遠距離からは弓で倒し、敵の数が減ったら双剣の実戦相手として、槍がないので木の棒で狭い中でも戦えるように突く攻撃のみでゴブリンを倒していった。


 レインは余っていた掘削の螺旋結晶で森に十メートルほどの深い穴を掘り、そこに魔石を取った食べられない魔物の死体を落としてはファイアで燃やして放り込む。

 そんなに都合良くは燃えないので、オークや猪から出た(ラード)をたっぷりと入れていたのだった。

 魔物を燃やすのに時間は掛かるが、クリーン使えば臭いが拡散しないので、この方法を選択したのだった。

 こうして血の池と骨の山を築いたレインスターは気配を消しながら魔物と戦い続けてきたのだ。


「この森の魔物はゴブリンとオークとウルフだけなんだな」

 そんなことを呟きながら、成人前には予約していた武器や防具を買って自由に暮らせるなと考えていた。


 レインは自分が魔法を使えることがバレたら、今より酷いことになりそうだと理解していた。

 こっそりと両親の話を聞いた許婚の数。

 いつ自分にモテ期が到来したのかは定かではないが、十歳で結婚相手が決まるって貴族かよ。

 レインはそんなツッコミをしてから狩りに精を出していた。


「しかし、僕はいつまで経っても魔物を殺すことには慣れない。こいつ等は最近村の近くまで来たってことは森に食料がないのか?」

「今日はもう帰るか」


 オーク二体をリアカーに乗せるとレインはリアカーを引き始めた。


 帰ったレインを待っていたのは突然の召喚状だった。

 母の泣く姿と父が謝る姿を見て、レインは自分を本気で心配してくれている両親に心の中で謝罪した。


 あまりに浅慮だった自分を恥じてレインは両親と共に泣くのだった。

 

 ラスタードもレインが居なくなることを知って、一言だけ呟いた。

 「……帰って来るまでは俺が村を守る」

 不覚にも笑いが込み上げてしまったが、レインは兄を信じてみることにした。


 そして翌日、マキナリと一緒にオークの死体を荷台に乗せ、レインスターは辺境の街エレフェレンへと旅立つのだった。


 次にレインが村を訪れる時、あまりの変貌に愕然とするのはまた遠い未来の話であり、この時のレインは知る好もなかった。


お読みいただきありがとうございます。

これで二章が終了です。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 聖者無双のアニメから気になってこちらも読ませていただきました。 面白くて、一気に読んでしまいました。 [気になる点] この村の行く末、長年の先に再び訪れ愕然とするほどの変貌が気になります。…
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