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20 井戸建設

3話目

 レイン達が村に帰ると何だか騒ぎになっていた。


「今回は魔物ではなさそうですね? 」

「ああ。それにしても祭りがある訳でもないのに如何したんだろうな? 」

 村に入ると普段は畑を耕している人から、何故かラスターまで井戸予定地で泥んこになりながら作業をしていた。


「一体何をしているんですかね? 」

「分からん。楽しそうではあるがな 」

 レインが掘った穴の付近を鍬と麻袋を持った村人達が井戸を人力で掘っていた。

「レインにマキナリ良く戻ったな 」

 祖父である村長が現れてレインとマキナリがこの状況を聞こうとすると大声を上げて二人の帰りを伝える。

「皆、マキナリとレインが戻ったぞ 」

 そう言うと泥だらけの姿のまま近寄ってくるので、マキナリが叫ぶ。

「待て、今の自分の姿を見てみろ。折角の商品が泥だらけになるぞ」

 彼らは土産を泥だらけで受け取ろうとしていたことに気がつき、どうするかを話していたので、レインがこのまま渡すことは出来ないので湧水の水晶を使って手を洗わせてから商品を渡していった。



 全てを渡し終えるとマキナリは牧場に戻っていった。

 そしてレインはこの現状聞く。

「それで何をしていたんですか? 」

「……井戸なんじゃが、水が出ると分かって嬉しくなっての。それにみんなとやれば徐々に楽しくなってきたのだ。最初はラスターの罰として掘らせていたんだが、それが楽しそうで皆が集まったんじゃ 」

 娯楽の少ない世界だから起きたことだと理解しながらも、祖父の悪びれる様子もない清々しい笑顔に毒気を抜かれた気分になった。

 それでも一応注意することにした。

「村長。井戸は固定化を掛けないと崩れるし危ないんですよ?」

「大丈夫じゃろ。ここの地盤はかなり固いからな。昨日から掘っているが、まだ五メートルも掘れてはいない 」

 ……これを危険と思わない非常識な行動を取られるとレインでもさすがに井戸工事を投げ出したくなった。

「じゃあ両親に戻ったことを伝えに家に帰ります 」

 レインはそう言って誰もいない自宅に戻り、暫くしてからゴライさんのところで購入した水晶と魔石を預けると森に向かった。



 レインは森に入ると少しずつ気分が持ち直してくるのを感じていた。

「端から見ればおもちゃを取り上げられて拗ねる子供の構図だよな 」

 そんなこと呟きながら、罠を確認していくと大きな猪が落とし穴に嵌っていた。


「ここでは魔法を行使しても誰からも見られないし分からない。……この村は僕にとってとても生き辛い環境になってしまったのかも知れないな 」

 まだ生きている猪の心臓を短剣で一突きすると、首を切って魔力を全開にして猪を引き上げて、血抜きをしながら内蔵を焼いて食べる。

 クリーンを使って臭いを落としてから猪を運び帰ることにした。

「……帰りたくないけど帰るか 」


 レインは森から抜けると肉を父に渡し、自宅に戻って棒を取ると人がいない牧場周辺で棒を振り始めた。

 無心で棒を振り続けて少し時間経つと日が沈んでくる。


「あ~あ。全然集中出来なかった。でもやっと落ち着いたか。……大人が井戸掘りがしたいなら止める必要はないもんな。僕は手伝わないけど」

 レインはそう切り替えた。自宅に帰りまだ母もいなかったので、レインは晩御飯の用意をしながら、今以上の鍛錬をどうするかを考えていた。

(蛮勇になって森の魔物を狩れば、それで全てOKな感じではないだろうからな)

「まずは将来をどうするかを考えないとな」レインはそう呟くうちに夕食を作り終えた。



 家に帰ってきた両親とラスタードの話を聞きながら、翌日から水晶を置く為の台を設置して行き簡素な屋根を作成していった。


 ラスタードの罰は今後も継続していくことは決まったが、中途半端な井戸掘りを継続するだけの罰であって罰でないものだった。


 レインは色んなことが中途半端でラスタードも無責任だと思いながら、円がいびつになってしまった穴を早朝に直しながら、一日五メートルずつ密かに買っていた固定化できる魔道具を使って固めていった。

 そして一週間で規定の三十五メートルを掘り終えた。


「あれ?ここの地層だけ色が違う 」


 そして鑑定するとミスリルと書いてあった。

 「あの矢筒と一緒だな 」

 それだけ呟くと気にも留めずに、更にそこから更に三メートル掘ると噴水のように吹き上がった。


「凄い水圧だな 」


 顔に当たった水は少し痛かったが、水の出た周りを魔道具で固定化し、最後にクリーンを掛けて井戸が完成した。


「おう。お疲れ。じゃあ設置するか 」


「はい 」


 ビリーさんにお願いしたレンガを敷き詰めて固定化し、小さな子供でも使える様に滑車を付けた。最後に雨水が入らないように三メートル四方に柱を立てて屋根を付けた。


 こうして井戸プロジェクトは終了した。



 オークが持っていた大剣は鍛冶屋で同じ重さの錬成された鉄と交換したのでないが、いつか森で見かけたら自分のものにしようと決めた。


 十二歳になったら街に出て職人にでもなろうかな。


 既にレインの心は村から出るベクトルへと向かうのだった。

お読みいただきありがとうございます。

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