19 我が装備よ、またいつの日か
2話目
早朝に村を出たおかげで昼には辺境の街エレフェレンに着いたレイン達は精肉店に来ていた。
「これはオークのリーダーさんも含まれています。しかし今回は傷が出来てしまいましたので、一体銀貨三十枚で手を打ちましょう 」
レインはエドビスと交渉を始めていた。
「馬鹿やろう。傷物は痛みやすいから売れないのは常識だろ、仕方ないから銀貨二十二枚だ 」
「これは否ことをおっしゃる。前回教えてくれた話では体内に魔素が残っているから肉に影響がないと言っていたじゃないですか?銀貨二十七枚 」
「それでも客は見た目を選ぶんだよ。銀貨二十四枚だ 」
「だったら目の前で露天を開きますよ。銀貨二十六枚」
「いや坊主それは脅しだろ。でも銀貨二十五枚にしてくれよ。その代わりに今から少しずつだけど、肉を食べさせてやるから 」
「……そんなものでは騙されませんよ。銀貨二十五枚とお肉各種で 」
「いや、もう目が釘付け過ぎて駄目だろう 」
レインはそう笑われてエドビスとの商談に負けた。
しかし約束通り色々な肉を食べ比べて楽しい一時を過ごすのだった。
レインのその美味しそうに食べる姿を見た者達はこぞってエドビスの店で次々に肉を買い上げていくことになったが、レインはそれに気がつかなかった。
「助かったぜ 」
エドビスからレインはそう言われ、頭に?マークを浮かべたがサービスなのかオークのステーキを焼いてくれたので、良い笑顔で肉が焼きあがるのを待っていた。
「また来いよ 」
そう言ってエドビスに見送られたレイン達は、早い段階で売れたオークの代金を受け取り、村のみんなから頼まれたものを購入していくのだった。
その後に冒険者ギルドへ魔石を売りに向かったのだが、マキナリが面倒なことを引き受けてくれたおかげで、レインはあのこちらの実力を窺う視線に巻き込まれることは無かった。
「何だったんですかね?」
「ああ。少し目が血走っていたな。」
入り口で見ていても受付のあのオークナイトとオークリーダーのDランク魔石を見た時の顔は凄かった。
そしてマキナリを見た後に入り口にいたレインを見つけ凝視された。
受付をしてくれたのは三日前と同じ女性だったので、これにはレインも焦っていた。
「しかしレイン、魔石があれだけあったってことは」
「はい。七歳から溜め込んだものですから」
「それにしても金貨になるって凄いよな」
「そうですね」
レインは苦笑いを浮かべた。
今回レインは魔石が冒険者ギルドで売れることを知って、今まで溜め込んだ九割の魔石を売った。
その数千三百六十四個にもなり、金額にして金貨一枚と銀貨三十六枚と銅貨四十枚となったのだ。
それに今回の襲撃で得た魔石はDランクが一つ銀貨五枚だったので、三つで銀貨十五枚とEランク六体で一つ銀貨一枚なので銀貨六枚となり、合計銀貨二十一枚となった。
「それで何か買うのか?」
「まぁお金は溜めておきます。もう少し身体も成長するだろうし、無駄遣いはしたくないですからね」
「そうだな。じゃあリリィの魔道具屋で最後だったな」
「はい」
さっき無駄遣いをしないと言った手前、レインは悩んでいた。
人から見て無駄遣いに見えるものだけど、喉から手が出るほど欲しい商品が目の前にあったのだ。
リリィの魔道具屋に入ったから追加の湧水の水晶と掘削の螺旋結晶を購入したと時のことだった。
「おめでとう御座います。好感度が基準値を超えました 」
突然リリィがレインの手を掴み微笑んだ。
「もうかよ。やっちまったな 」
後ろでマキナリがそう呟いた声がレインに聞こえるとリリィの顔がどんどん近づいてきて……止まった。
「今日から君は正式なうちのお客様でお得意様だよ 」
ピースした手を目の前に持っていきウインクした。
「はぁ~ 」
その見ていて痛いポーズのリリィに軽く会釈した。
「リアクションが薄いぞ? 」
年齢は言わないが痛い年齢・・・(ギロリ)ではないお姉さんが話を進める。
「実はこのお店は世を忍ぶ仮の姿なのだよ 」
そんなことをリリィが言いだし、カウンターの中に招き入れられるとそこには地下へと続く階段があった。
「ついて来て 」
リリィはレインにそう言うと階段を下りていく。
レインはマキナリを見ると頷かれたので、リリィに付いていくのだった。
「凄い」
そこにはズラーっと色んな魔道具が並んでいた。
「実は私達はB級ランクパーティーの時に解散して、そのタイミングで私は冒険者を引退したの 」
あの時のパーティーが解散していた事実をレインは初めて知った。
たぶん魔物の強さが上がれば高収入になるのだろうが、その分危険な仕事を引き受けないといけなくなるから、仕方ない気もしたが。
「これでも中々評価は高かったのよ」
パーティーを思い出してかニッコリと微笑む。
「当時も仲が良さそうでした」
「そうよ。仲が良かったの。だからカップルが二組だったんだけど、片割れが浮気してね。ふふふ」
レインは初めて黒いオーラを視認出来る人と出会った。
「おい魔力が漏れているぞ 」
どうやらレインが心配で追って来ていたらしく、マキナリがツッコミを入れた。
「はっ?! 話がそれたわ。えっとだから引退したから所有していたものを分配したの。それがこれらのアイテムや魔道具なのよ」
たくさんのアイテムが並んでいた。
「質問なんですけど、良くこれだけのものを持っていられましたね。倉庫でも使っていたんですか?」
「ふふふ。私たちは空間魔法の掛かった魔法の鞄を持っていたからこれだけ量を確保できたのよ。」
そう言って胸を張った。
「世の中には便利なものがあるんですね 」
「そうよ。まぁそれは結婚して子供が出来た二人に上げちゃったけどね。欲しい物があるなら売るわよ。勿論お金は取るけど」
そう笑うリリィさんに失礼して、一つ一つ鑑定していく。
すると突然鑑定がパワーアップして耐久値が追加されたことに驚きつつも、再度鑑定をしながら一通りを観察した。
「いくつか引かれたものがあります。あそこの弓と矢筒のセットとそこのローブとこのブーツなんですけど 」
「あら、そういえば狩人だったわよね? 」
「はい 」と答えた。
「……もしかしてゴブリンの眉間に昔当てていたのって? 」
「はぁ~。それ以上は詮索してくれるな。こいつはまだ十歳なんだから 」
直ぐにマキナリが割って入るが、その表情はそれを認めるには十分なものだった。
「なるほどね。あの時は七歳かぁ。それは分からないし、分かっていても何もしなかったわよ」
リリィの発言でマキナリの強張った顔がいつもの顔に戻っていった。
「……そうね~。全部新品しかも価値もあるけど……うん一つ金貨1枚で売ってあげるわ」
と言われた。「う~ん。」と唸りながらレインは思考して答えを出した。
「じゃあ今回は・・・何も買いません 」
その意外な言葉に二人はカクっとこけた。まるで新喜劇みたいだった。
そんなことを思いながらレインは何故買わないかも答える。
「本当は欲しいんですけど、高い買い物になるので両親から独立したら購入しようと思います」
そして懐から金貨一枚と銀貨五十枚を取り出すとリリィに頭を下げてお願いした。
「その三つは予約させてください 」
そう前金を払って予約することを決断したのだ。
「……へっ?」
固まるリリィだったがやがて笑い始めた。
「……さすがにオークを倒したお金があるって言っても村には必要なものが多いんです。今は固定化の魔法を使える人も探さないといけないし……だから予約が出来ればお願いしたいです 」
レインはまた頭を下げた。
「はぁ~。マキナリさんが口止めしたいくらい本当にいい子なのね 」
「謙虚で優しい食いしん坊のレインだからな 」
「最後にオチをつけないでくださいよ 」
レインの抗議は笑いを誘い部屋には笑った声が響くのだった。
「いいわ。じゃあお金があと半分貯まったら買いにいらっしゃい。それまでは待っていてあげるわ 」
そう言ってリリィはレインの頭を撫でるのだった。
こうしてレインは自分のものは何も買わず、それがストレスとなったのか、宿でマキナリが涙目になりそうな量の食事を摂った。
翌朝には機嫌も落ちついたレインは出発する際にリリィの魔法具店を見つめて未来の装備品たちにきっと迎えに来ると誓った。
新しい装備を夢見ながらレインは装備品に振り回されないよう、これまで以上にもっと厳しく鍛錬していく決意を固めるのであった。
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お読みいただきありがとう御座います。




