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10 レインは魔法を知り、ラスターは厳しさを知る

 

 ゴブリンの襲撃があった翌日早朝、街まで救助要請に向かったマキナリが冒険者を連れて帰ってきた。


 レインは話を聞いた時に、そもそも村の近くに街があるとは思っていなかったので、そのことに吃驚していた。


 そのレインより吃驚していたのは冒険者達だった。

「ゴブリンの眉間に矢が刺さってる。こいつも、あれもだぞ」


 其処に祖父である村長が現れて、僕のことは言わずに濁して伝えた。

「いや~申し訳ない。うちの狩人が頑張ってくれて何とかなりました。勿論、駆けつけて頂いた対価はお支払いしましょう」

 そう撃退したことを冒険者に話しながら、お金が入った皮袋を冒険者に渡そうとするがそれは受け取らなかった。

 というよりも冒険者達の目的が既に変わっていたのだ。



「それよりもその狩人は何者ですか?これだけ腕なら中級冒険者、それも上位の腕前ですよ」

 そう言って村長に詰め寄る。

「ほう。それほどですか。なら村は安泰ですな。はっはっは」

 祖父は笑ってやり過ごした。祖父もレインが既に識字能力と計算が出来る頭があるのを知っていたし、既に重宝していた為にレインの名前を出すことはなかった。


「・・・そうですか。魔物の死体には魔石があって、それを抜かないとアンデッドになるので全て持ち帰っても?」

「ええ。ただ狼の毛皮は行商人に売りますから、差し上げられませんが」

 冒険者達はそれを了承した。

「それでは魔石を貰っていきますね」

 冒険者のリーダーが挨拶を済ませると村の外に向かっていった。



 冒険者達がゴブリンの死体の心臓付近に短剣を押し込み、石のようなものを取っているのがレインからは見えた

「あれを貰って行くってことは何かに使えるのか? それとも魔物の討伐した証に必要なのかな? 後で御祖父ちゃんに聞いてみよう」


 見張り台からレインは気を切って冒険者達を観察していた。

 そして冒険者達が全ての魔物から石を取り出し終わると、一人の女性が杖を掲げた。

 先端が光り出して、血で汚れた仲間達が光ると一瞬で綺麗になった。


 レインはその光景に思わず叫んでしまった。

「すごぉおおい。あ?!」

 冒険者達はレインを見つけていた。



 冒険者達はことのほか優しかった。矢を放ったのは誰かと頻繁に聞いてきたけどそれは曖昧に流していた。

「さっきの凄いやつ。あれってなんですか?」

 レインは杖を持った女性に興奮しながら聞いた。

「あれは魔法よ。遠い昔に勇者様が現れて、その勇者様がかなりの綺麗好きだったみたいで、クリーンていう魔法を開発して現世に残したのよ」

 それって転生者?それとも本当の綺麗好き?今はどうでもいい。


「そうなんですか。便利そうですね。でもきっと難しいですよね?」「そうね。まず魔力がないと使えないし、属性も水と風がないと使えないわ。君がいつか魔力を認識出来たら【風と水よ 汚れ穢れを払い給え クリーン】って唱えてみるといいよ。」

「へぇ~便利そうですね。他には何かあるんですか?」

 そう言うと同じように火が出るファイア、水が出るウォーター、風を起こすウインド、土を柔らかくするペーストを教えてもらった。



「ありがとう。お姉さん。」

 お礼を言う。

「うん。可愛いわ。」

 頭を撫でてくれた。

「じゃあな。坊主。」

「はい。冒険者さん達ありがとうございました。」

 頭を下げると「ははは。」と頬を掻いて村から去っていった。


 それを見送り僕は気付いたことを口にした。

「あれって気じゃなかったのか?」

 その事実に初めて気がついた。


「魔法には詠唱が必要って言ってたな。いいよ。気が無いなら魔法で作ればいいじゃない」

 そんな昔の貴族の女性が使った言葉を引用して、いつかカメ〇メ〇と舞〇術を夢見てレインは魔法の研究を独学で始めていくことになる。


 僕が家に着くまでに何故か「腹ペコ坊主」や「食いしん坊のレイン」と笑われながら呼ばれることを疑問に思ったけど、しっかり挨拶して家に帰るのだった。


 家に入ると母さんはイスに座って肩を落としていた。

「それでラスター兄さんは結局どうなったの?」

「当面は母さんも実家に行って、ラスターと一緒に実家の畑を手伝うことになったわ」

「・・・そっか。ラスター兄がこれで大人しくなってくれるといいね。このまま村長にラスター兄がなったら村の将来が不安だからね」

「本当にね」

 落ち込む母の背中をポンポンと叩くことしか出来なかった。


 SIDE ラスタード


 なんであいつばっかり。

 俺は弟が昔から気に入らない。

 弟の癖して俺に懐きもしないで、村のオッサンとかオバサンにばっかり可愛がられやがって。


 それだけじゃない。

 村の子供達を手下にしてやったのに、俺が畑仕事に行っていたら、どんどんあいつらは俺と距離を置き始めた。

 これも全部あいつが悪い。

 俺がこれだけ畑仕事を頑張っているのに、いつも遊びやがって。



 もう俺は丸二年も畑仕事をやった。

 今日からあいつにも同じ苦しみを味あわせてやる。

 そうすれば俺の偉大さが分かるだろう。


 しかし俺の目論みは父さんに潰され、母さんには俺の唯一の楽しみである食事を取り上げようとした。


 ちくしょう。俺は仕方なく畑に向かわないであいつの行動をつけることにした。

 別に畑がサボりたいんじゃない。

 これはサボっている弟の尻尾を捕まえる俺の正義だ。おっ出てきたな。


「げっ、あいつマルダの婆さんのところに行くのかよ。」

 マルダは薬効の臭いで、俺は近寄りたく無い。

 少しの間マルダ婆さんの家を監視していると扉が開いた。


「げっ、今度はビリーのおっさんかよ。あいつあんな凶悪なやつと一緒にいるなんて何を考えているんだ? あれ? あいつが何で弓なんて持っているんだ。」


 俺が壊してしまった弓はしっかりと直っていた。村の入り口に向かう二人を追い掛けていると、あいつがいきなり振り返るから吃驚した。


 こちらを見て首を傾げているが、お前ごときに見つかるか。

 俺は村から出て行った二人を追うために柵の抜け道を通って、少し離れた場所から二人を追いかけて森に入った。



「なんだよ。森って言っても結構明るいじゃんか。さっさと探さないとな。」

 俺は森を歩き始めた。



「クソ、全部あいつのせいだ」

 俺は道に迷った。ウロウロしているとあいつ等を見つけたが、あいつ等もこちらに気がついたらしい。

「ちっ見つかった。しょうがない逃げるか」

 俺はあいつ等の反対側に走ると開けた場所に出た。


「此処ならあいつらが来ても直ぐに分かるな。」

 見通しの良い場所に出れた俺は、少し端に移動して隠れようとしたその時だった。


 ギュンっと音が聞こえた次の瞬間、シュウっと足に何かが捕まり一気に視界が上がりながら逆さまになっていった。

「なんだこれは、離せ離せ。」

 俺は力の限り叫ぶ。するとレインとビリーのオッサンが現れた。


「何をやっているんだ。」

 レインに言われて俺は怒った。

「レイン、弟の分際で」

 俺はレインを殴ろうとしたが、動けないので殴れなかった。


 ビリーのおっさんがロープを切り落として「逃げるぞ」と叫んだ。

 レインとビリーのおっさんは走る。


 俺も追いかけながらレインを転ばせようとしていたら、あいつは俺に弓を構えた俺はそれを見て凍った。まさか俺を殺そうとしているのか。

 俺は怖くて「ヒィ」と声を上げるとレインから矢が放たれる。

 ヒュンと音が聞こえ俺の真後ろでドスという音と獣の叫び声がと聞こえた。

 振り返ると狼が俺の後ろで大きな口を開けて死んでいた。


 ま、まぁ弟が俺を殺すとはさすがに勘違いだった。


 でも、そこまで考えたときだった。

「おい小僧。貴様は俺たちの命を危険に晒したんだ。覚悟して置けよ」

 そう言って睨むビリーのおっさんが怖かった。

 そして俺を食べる勢いで近づいて来た瞬間、俺は恐怖のあまり気絶した。



 気がつくと真っ暗闇の中にいた。

 外が騒がしい。

 何があったんだ。

 身体を動かそうにも全く動けなかった。


 俺は「出せぇ」と力の限り声を張り上げると漸く父さんと爺ちゃん、それにビリーのオッサンが現れた。


「なんで森に入った!」

 いつもの怒る父さんとは違ってもの凄く低い声だった。

「レ、レ、レインが、サボってると思ってつけていたら森に遊びに行ったんだ。しかも弓なんて持って。俺でも持ったこと無いのに」

俺は怖くても必死に無実であることを伝える。

「この馬鹿者が!」

 拳骨がくると思いきや拳骨はされなかった。


「ラスター、弟に感謝するんだな。もし誰か犠牲が出ていればお前を奴隷商人に売って遺族に分配しなければいけないところだった」

爺ちゃんはそんな恐ろしいことを言い出した。

「な、なんで俺ばっかり。レインだって森に行っただろ」

「ああ。俺と一緒にな。俺は狩人だから森に行く。お前達が食べている肉は殆どが俺の取った獲物だ」

「それがレインと関係あるのか?」

「あいつは俺の弟子だからな」

「なんで、いつもいつもレインばっかりなんだ」

 不公平だ。あいつばっかり。俺は不公平なことをいう大人たちが嫌だった。


「だったら十五歳までしっかりと畑仕事をするなら教えてやる」

「ほ、本当か?」

「いいのかビリー」

「ああ。どうせラスターはサボるし、サボらなかったら根性が付いたと思えば分かりやすいだろ?」

「そうじゃな。しかし罰は必要じゃ」

「だったらみんなの前で尻叩きするか」

「いいじゃろう。今なら皆集まっているしな」

 そして俺はみんなの前で尻を十回も叩かれて、みんなの笑いものにされた。



「今に見てろよ。十五歳まで畑仕事して、村一番の狩人になってやるんだからな」

 翌日から母さんの実家預けられた俺は、朝から夕方まで母さんの監視付きで、畑仕事という地獄に放り込まれるのだった。


 SIDE END


 こうして村に少しの平和が訪れるのだった。


お読みいただきありがとう御座います。

これで一章は終了です。

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