1-5プレイヤーの追跡
ハヤト達が村からホープスに向かい走り始めるとシアンから悲鳴のような叫び声が聞こえてくる。
「うあぁぁぁぁぁぁ」
「シアン、我慢しろ。これ以上速度を落とすと日が落ちるまでに戻れなくなる。そうなると、村人をさらった連中たちが町を出てしまうかもしれないからな」
能力補正ほぼ皆無といっていいシアンは、ハヤト達の速度になれていない。
ただでさえ、ハヤト達の速度は馬車よりも速い。
それを生身といっていい状態で走るのには、シアンにとって恐怖の何者でもないのだ。
いうなれば安全が保障されていないジェットコースターに乗るようなものだ。
ハヤトはシアンに理由を伝え、我慢させる……
何か後ろで言っているが言葉になっていない。
そうしているうちにシアンから悲鳴が聞こえなくなった。
やっとなれたか――
すると横からルラが話しかけてくる。
「ハヤト様、シアンが気絶しております」
「ああ、そうか静かになったと思ったら気絶していたのか。悪いことをしたな。シアンには悪いが、ルラこのまま行く」
「はい」
気絶したシアンを背中に乗せたハヤトとルラはそのまま走っていく。
次第にあの見慣れた囲む丸太で組み上げられた拙い塀が見えてくる。
やっと見えてきたか。
なんとか辺りが暗くなる前に着いた様だ。
町の前までくるとハヤトはシアンに声をかけ起こす。
「シアン、シアン起きろ。着いたぞ」
何度か声を掛けた後、シアンは目を覚まし辺りをきょろきょろと見渡す。
先ほどまで気絶していたためか状況が理解できていない。
「町に着いた。お姉さんをさらった連中にばれるといけないからローブはそのまま付けておいてくれ。あと俺達から離れるなよ」
「う、うん」
ハヤトとルラ、シアンは町の中に入っていく。
ギルド近くに来たところでハヤトは、シアンに聞く。
「どうだ?お姉さんか村人をさらった奴らの臭いはあったか?」
「お姉ちゃんの臭いは感じられないけど、あのヒューマン達の臭いはあるよ。何処からかはわからないけどこの町にいると思う」
「そうか、さらった奴らから聞き出すしかないな」
まだ日が完全に落ちていないからな、何処に行くかわからない――早く見つけないと。
さて何処から探すか――
このままギルドで情報を集めるのが賢いか。
ルラとシアンを連れてギルドに入るとシアンがハヤトに服を引っ張ってくる。
「どうした?」
「こ、ここにいる。臭いしかわからないけど……」
「わかった。見つけたら教えてくれ」
何故ギルドにいるんだ?
亜人を奴隷にするなど依頼として出されるわけがない。
他に依頼を受けていたということか?
しかし、オヤジが亜人を奴隷している者がいたらこの町に置いておくわけ無いはずだが――
考えている内にギルドの依頼受付の所まで来る。
「どうした?変な顔をして」
「ああ、ちょっと考えごとをしていた」
「そうか。そうそうもう知っているかも知れないが魔獣の大群の件ならもうすんだぞ」
魔獣達を殲滅したのはハヤトとルラなのだからもちろん知っている。
しかし、ここで自分達が倒した事を言ってしまうと二人で行った意味が無いので話を合わせるようにする。
「そうなのか?」
「――聞いていないかのか?」
「ああ」
「そうか、さっき偵察に行った者から連絡が着たんだよ。こちらに向かっていた魔獣の大群が消えているってな。ただ、完全にいなくなったかわからないからな、報告しに来た連中に事実確認をしている所だ」
「何も起こらなくてよかったな」
「なんだよ。人事みていに町を作ってから1、2を争う出来事だったんだぜ」
「すまん、そういうつもりじゃないんだが考え事をしていた。もともとオヤジがいるから心配していないしな」
「言ってくれるじゃねか」
オヤジが声を出して笑ってる。
最後の一言は余計だったかな少しうるさいな。
それよりも話を進めなくてはな。
「オヤジ聞きたい事があるんだが、ローブを着た怪しい連中がここにいると思うんだが見ていないか?」
「ローブを着た怪しいやつね――怪しいかどうかわかんねえがローブを着たやつならここにいっぱいいるからな――」
「そうだな。この町の者以外ならどうだ?何人かでいると思うんだが――」
「部外者ってことか?そうだな。今ここにいるおめさん達と――魔獣の大群を報告しに来た連中たちぐらいだが」
報告しに来た連中か――魔獣達に追いかけられてそのままこの町に来たってことか。
報告して足止めでもこの町の連中にさせるつもりだったのか?
それであのレベルの魔獣達の数を誤魔化していたのか――
逃げて追いかけられるよりも町を潰してでも魔獣の数を減らしたかったというところか。
まあなんにしろ町は無事だし、そのおかげでここに留まる事になったんだよしとするか。
「その報告してきた連中はこれからどうなる?」
「もうそろそろ事実確認が終わると思うが。終わればもう話を聞く事もないだろう。そいつらが何かしたのか?」
「そいつらと決まったわけじゃないからな。まだなんともいえない。終われば報告にくるよ」
「おいおい。物騒な話じゃないだろうな。町を巻き込むなよ」
「ああ、わかってるよ」
そう言ってハヤト達はギルドの入り口にある休憩室で報告に来た者達が出てくるのを待つ。
休憩室と言っても壁で仕切られているわけではなくただ入り口横に二十人程が座れるスペースを設けているだけだ。
「シアン、ここを村を襲った連中が通ると思う。通ったら教えてくれ」
「うん。わかったよ」
しばらくすると食堂で絡んできたローブの男達が通る。
奴らもこのギルドを使っているのか――そりゃそうかプレイヤーならギルドを使うのは当たり前だからな。
食堂での借りを返したいのもあるが、奴らは気がついていないみたいだしこのまま方って置くほうがいいな。
ルラの方から何かが軋む様な音がする。
横を向くとルラが戦闘態勢に入っている。
ここで暴れるのはまずい。
建物を壊してしまうのもあるがここはこの町を仕切っているギルドだ――オヤジもいる。
ハヤトはルラの目の前に手を持っていき静止させる。
初めは目で拒否しようとするもハヤトが首を横にふると諦めた表情となる。
ハヤトとルラがそんなやり取りと数秒の間にしていると知らずにシアンはハヤトに声をかけてくる。
「あ、あいつらだよ……」
少年は体を震わしながら小さく声をかけてくる。
その震えた指が指す先には先ほどハヤトとルラが見ていた男達がいた。
そうか奴らだったのか――
ルラに小声で伝える。
「ルラ、今は手を出すな。奴らには村の人たちの所に案内してもらう。臭いを念のために覚えておいてくれ」
「わかりました」
そう言ってローブの男達がギルドを出るのを待ってからハヤト達は跡を付けるように出る。
出る前にハヤトやルラもローブの男達に顔を見られているのでローブを被る。
これじゃあ見た目は連中と一緒だな……
そう思いながらもギルドを出る。
ギルドを出て早々にローブの男達を見失う。
着替えるのに時間がかかってないはずだが――失敗した。
まあルラに臭いを覚えて貰ってるからこの距離なら大丈夫だろう。
「ルラ、奴らは何処に行った?」
「南の方角に行ったようです」
ルラが指差した方向へ行くとすぐにローブの男達が見つかる。
すぐに見つかってよかった……
「このまま距離をとりつつ尾行する」
そう言ってハヤト達は見つからないように距離をとりつつ後ろをつけて行く。
ふと気がつくと辺りは日も落ちかけ真っ赤な夕焼けが出ていた。
もう暗くなるな。
――このまま行くと町を出るが。
この世界の夜は視界の悪い上に魔獣が多くなる出現するようになりいくらレベルの高いプレイヤーでも襲われて死ぬリスクが出てくる。
どうするつもりだ?
野営でもしているのか――馬車があればそれも可能か。
場所さえ移動しなければアイテムや防御魔法でなんとかできるからな。
と言うことはこの近くに村人を連れた馬車がある可能性が高いな。
今日中に助ける事ができそうだな――よかった。
もし奴隷として捕まえているならどういった扱いをしているかわからないし早めに助けたい。
心にも体にも傷は浅い方がいい。
ローブの男達は町をでると先ほどと打って変わり会話をし始める。
何かありそうだな――ここからじゃ会話をしているのはわかるが聞こえないな。
「ルラ、連中の会話を聞き取れるか?」
「全部は難しいですが断片的になら聞こえます」
「それでいい。聞こえた事を言ってくれ」
「わかりました」
「――村…襲った…魔獣…想定外…町の…押し付け…アイ…買う…時間が」
村…襲ったか――奴らで間違いはなさそうだな。
大体俺の読み通りだったってことか。
ルラは話を続ける。
「――ギル…長も…悪い…亜人…女で…遊ば…いい…奴隷…」
女で…遊ばか――まあ、奴隷てなると考えることは何処も同じって事か。
食堂で絡んで来たときもそうだが救えない奴らだな。
ルラの言葉にシアンが口を噛み締めている。
これだけじゃどうなってるかわからんからな。
村人の扱いが悪いのは確かだな――
「ルラ、もういい。必要な情報だけあれば教えてくれ」
「わかりました」
ハヤト達は気づかれないように距離を保ちながら進んでいく。
しばらくするとローブの男達が草原で立ち止まる。
周りには砂と少し枯れた草が生えているだけだ
ここら辺には何もないはずだが――
ハヤトが考えている内にシアンが話しかけてくる。
「ハヤト兄ちゃん、ここにお姉ちゃん達の臭いがする」