1-4名前のない村
足跡を追っていくと木々が高々と生い茂る森が目の前に現れる。
それらの木々は魔獣達に付けられたであろう傷がの残っているものの倒れる事なくたっている。
その森の奥へと足跡は続いている。
森の中に入っていくと周りの木々の葉により太陽がほのかにしか入ってこない。
薄暗いな――足跡は何とか見えるな。
ハヤトとルラは少し速度を落としつつも着実に奥へと向かっていく。
少しすると目の前から光が差し込んでくる。
薄暗さになれたハヤトは眩しさを感じながらもその光の先を見る。
あれは、家か――
光の先には木で出来た家が立ち並んでいるのが見える。
あそこから魔獣の足跡が続いているようだ。
ハヤトはMMORPG時代の記憶をたどる――
ここにあんな家あったかな?
記憶を辿るも思い出せない。
「ルラ、この森に村なんてあったか?」
「―― 一度だけ、来た事があったかと思います。確か中央に神殿があったはずです」
――ああ、あの村か。
ルラの一言で村の事を思い出す。
確か――MMORPGの時はイベント性のない所だったな。
村の名前も決められておらず、ショップなどもなくただオブジェとして中央に石造りの神殿が置いてあるだけで何もない。
NPCが住んでいるだけの村――
何も無かったためハヤトは一度狩りの時に通りかかっただけだ。
忘れてしまっても仕方が無いな。
名前のない村の事を思い出しながら進んでいく。
村に近づいて行くと異様さが目立ってくる。
村にある建物が所々壊れているのだ。
魔獣達が通った事による破壊もあるがそれ以外に付いた様な違和感のある傷が無数にある。
「ルラ、警戒を怠るなよ」
「はい。ハヤト様」
ルラに注意を促しもし何かあってもすぐに戦闘態勢へ入れる様にする。
警戒しながら村の中に入っていくと亜人が先ほど赤黒いバッファローの様な魔獣に踏み潰されてしまったのだろうという所々潰れ欠けている死体が転がっている。
魔獣達にやられたのか――
あのレベルなら亜人は一溜まりもないもんな……
ハヤトは口に手を置きながらその亡骸を見る。
この世界になって死体は見慣れたつもりだったがいざこう言うのをみると駄目な……
吐き気と共に憤りを覚える。
……すんでしまった事を考えるのは不毛だな。
気持ちを切り替え――足跡を辿っていく。
足跡は中央にある神殿から伸びてきている。
「ここが原因か」
ここには何も無かったはずだが――
警戒しながらルラと共に神殿の中へと入る。
木造の家が立ち並ぶ風景と異なりこの神殿だけ古代ギリシャに造られたような大きな石の柱が何本もそびえ立ち細かい彫刻と共に石の屋根が付いている。
今はわからないがMMORPGの頃のマップはAIが生成していたせいなのかもしれない。
そんな神殿の中央に行くと、亜人の男女が何かに覆いかぶさるように魔方陣の跡らしき窪みと共に倒れている。
亜人の男女を見ると背中に鋭い物で切りつけられた様な跡がいくつもあり、そこからおびただしい量の血が流れ水溜りとなり魔法陣のようなものに流れていていっている。
先ほどの亡骸とはうって違い、この男女の亡骸は魔獣ではなくおそらくプレイヤーによるものだ。
ハヤトは幾度と無くそんな傷を見てきたため直感する。
ここにもか……
そんな事を考えていると死んでいるであろう男女がかすかに動く。
まだ生きているのか?
確認をするため男女を寝かせる。
――そうか、動いたのはこっちか。
ハヤトは、男女の亡骸を動かした先にいたものをみる。
そこには、小学生ぐらいの亜人の少年がうずくまっていた。
覆いかぶさるようになっていた亜人の男女はこの亜人の少年を守る為だったのだろう。
亜人の少年を見ると息はあるものの衰弱しきっている。
――早く回復をしないと危ないな。
ハヤトは亜人の少年を抱え口に体力回復用ポーションを流し込む。
――余り変化がないな。
依然と衰弱している亜人の少年を見ながら考える。
魔力切れも起こしいるのか?
魔力回復用のマジックポーションを流し込む。
亜人の少年は目覚めないも肌に血色が戻る。
魔力切れだったか――しかし亜人が魔法を使っているところをこの世界になってまだ見たことがないが何故魔力切れを起こしている?
この魔法陣みたいなものと関係があるのか――
考えても答えがでない。
少年に聞くしかないな――少年が起きるまで待つか。
起きるのを待つのは良いがここでは何処からこの村を襲ったプレイヤーがくるかわからんな。
周りが見渡せるところに移動したほうがいいな。
「ルラ、見晴らしの良いところに移動するぞ」
そう言ってハヤトは亜人の少年を軽々と持ち上げ、村に入った所にあった広場の方へ移動する。
ここなら、何かあっても対処できるだろう。
亜人の少年を寝かせ一息入れる。
しばらくすると亜人の少年が目を覚ます。
目覚めた亜人の少年にハヤトが声を掛ける。
「大丈夫か?いったい何があった?」
その時、亜人の少年は目を見開き叫ぶ。
「ヒューマン!!」
叫んだ後、亜人の少年は震えだす。
逃げたいのだろうか――後退りしようとするも思うように体が動いていないみたいだ。
プレイヤーに襲われたんだったな。
この反応もしょうがないか。
しかし、勘違いされたままでは話にならんな。
「まてまて、何もしない。俺達はここを調べに来ただけだ。とにかく落ち着け」
亜人の少年の耳がピクリと動き震えが増す。
俺が話しかけてもどうしようもないな。
どうするか――
考えていると横からルラが話しかける。
「怯えなくても大丈夫ですよ。こう見えてもハヤト様は優しい方ですから」
まて、何だその言い方はまるで顔が怖い見たいじゃないか。
ルラに聞き返そうかと迷うも思いとどまる――
「お姉ちゃん……」
亜人の少年が呟き、震えが少し和らぐ。
このままルラに事情を聞いてもらった方がよさそうだな。
俺がここにいるのもあれか――
「ルラ、俺はもう少し村を調べてくるからこの子から事情を聞いてくれ」
そういって、まだ見ていない所を調べに行く。
先ほどは、魔獣の足跡を追っていたため気がつかなかったが裏手から俺達が来た方向に馬車を使ったような痕跡がいくつかあった。
しかも、魔獣の足跡同様まだ新しい。
ここを襲ったプレイヤーが持ってきたものか?
――これは一台だけじゃないな。
複数入ると見て間違いないようだな。
ここにはもういないみたいだが、襲った後何処に行った?
もう少し情報を集める必要があるな。
家の中をも見ていくか。
家の中は大きな力でぶち破られた様な跡の他に鋭利なもので切られたであろう跡と共に亜人の亡骸が幾つかある。
強盗か――愉快犯か――握った拳に力が入る。
この村で生きているのはあの少年だけか――
ハヤトは村の建物全てを見るもあるのは亜人の亡骸のみで生きているものは見つからなかった。
亜人の亡骸を見回っていく内にハヤトはある事に気がつく。
亡骸となった者は年齢が高い者達ばかりだ。
若い者がいない――どういうことだ?
もしかして――
まずは少年の話を聞いてからか。
ルラ達の所に戻ると亜人の少年は少し落ち着いていたが俺が動くと耳がまだビックと動く。
どうしたものか――
亜人の少年のことは後回しにして、ルラに何が聞けたか確認する。
「ルラどうだった?」
「はい。この少年――シアンは、昨日の夜にローブを着たヒューマン達に襲われたそうです。両親とあの神殿に隠れていたそうでが見つかってしまい庇う形でああなったみたいです。。シアンの姉が逃げる前にローブの男達に捕まったみたいなのですがその先はどうなったかわからないそうです」
「そうか」
やはりウエイターの少女が行っていた亜人を奴隷にするプレイヤーがいると言っていたがそいつらに襲われた可能性が高いか――
そうじゃないと、ここに若い亜人の亡骸がない説明がつかないしな。
――まてよ。
魔獣の群れが話に出てきていないがどうして神殿から続いていたんだ?
「ルラ、魔獣の群れが出てきていないが魔獣の話はあったか?」
「魔獣を見たと言う話は聞けなかったのですが――気になることが。ヒューマンからシアンを両親が守っているときに願ったそうです。両親と姉を助けて欲しいと――神殿から声が聞こえてきて光と共にヒューマン達が叫びながら逃げる音が聞こえたそうです。その時に魔力を全て消費したようで意識が途絶えたみたいなのですが、意識が途絶える瞬間にものすごい数の蹄の音を聞いたと言っていました。それが、魔獣の群れだったのかと思われます」
魔獣を召還したということか?
そんなシステムはMMORPGの時には無かったがこの世界になってから変化したということか――
「そうか、あの魔方陣は魔獣の群れを召還するものだったのか――て事はこの村を襲ったプレイヤー達を追いかけていったということか?そうなると向かった先、ホープスにいる可能性が高いって事か。この村のさらわれた人たちも一緒に」
「どういたしましょう?」
ルラは聞いてくる。
ある答えを期待するかのように。
もともとそのつもりだ。
「そうだな、助けに行くぞ」
そう言うとルラの尻尾がゆらゆら揺れる。
「シアンとかいったかな?お姉さんは奴らに捕まっている可能性が高いが君はどうしたい?」
一瞬耳がピックと動き、ゆっくりと口を開く。
「ぼ……ボクはお姉ちゃん達を助けたい」
「よし、よく言った。決まりだ。いざとなったら俺とルラが全力で守るから何があっても離れるなよ」
「うん。ありがとう」
「礼はまだ早い。最後にとっておけ」
ただどうやってプレイヤー達の中からそいつらを見分けるかだな――
そういえば、亜人は耳が良いのはしっているが鼻の方はどうなんだろう?
ルラにも聞いたことがなかったな。
「一つ聞いておきたいんだが、お姉さんや襲ってきたやつの臭いは近くに行ったらわかるか?」
「う、うん。わかると思う」
「そうか、そいつらが近くにいたら教えてくれ」
「うん」
やっぱり嗅覚も良いんだな。
「ルラ、準備はできているか。すぐ町へ戻るぞ」
「はい。大丈夫です。すぐにでも出発できます」
「それじゃあ行こうか」
シアンに耳と尻尾が隠れるようにローブを着せ背中に乗せる。
ハヤトが背中を向け乗るように促すと初めは躊躇するも姉を助けるためか決心をするように乗る。
「シアン、しっかりつかまっておけよ」
「うん」
そうして元来た道を全速力で駆け抜けていく――