1-2プレイヤーの町
ハヤトとルラはホープスギルドの依頼を完了し町へ戻ってきた所だ。
戻ってきたといっても一時的に滞在しているしているだけである。
ハヤト自身この現実となった世界に留まる目的として世界を見て周る事を選んだ。
元の世界に戻れない今は一つの所に留まる事は心がくすんでいく様な気がした為だ。
そんなハヤトがこの町に滞在している理由はこの町――
ギルドと同じ名前を付けられたホープスと言う町がワールドガーデンに呑み込まれたプレイヤー達によって作られた所である為だ。
ここは町を囲む塀こそ丸太を組み上げただけの拙い物であるが、町の建物はMMORPG時代に課金アイテムとして販売されていた家や宿・ショップ等を寄せ集めて作っている為、中は細部に亘って趣向を凝らした造りの建物が並んでいるのである。
その数は大よそ千軒、プレイヤーの数は建物を所有していない者もいる為、千を超える。
そんな町の中央に大きくそびえ立つ建物にハヤト達は来ていた。
ハヤト達はその建物の大きな扉を開け奥へと進んでいく。
進んで行った先にいた坊主頭のがたいの良い男に話しかかる。
「オヤジ、依頼の品を持ってきたぞ」
「おお、嬢ちゃんとまたきたか。これで塀の修理ができる」
オヤジと呼ばれているこの男はホープスの町を作った立役者で、町を仕切っている内の一人でありギルド管理者のモーチェットと呼ばれる男だ。
モーチェットが管理するこのギルドではプレイヤー達のレベルを考慮し生活に必要な物資・食料を調達するために仕事を割り振っている為、レベルが低いプレイヤーも安全に暮らすことができているのだ。
モーチェットはハヤトから依頼の品である《千寿の大木》を受け取り対価であるMMORPG時代から使われている金貨を渡す。
この世界の金貨は、元の世界の通貨日本円にして十万円程である。
「中級冒険者の名前はだてじゃないな。仕事が速くて助かるよ」
中級冒険者とはMMORPG時代のギルドランクのことだ。
中級冒険者この世界では最上位に位置するランクである。
中級と付いているので変な気もするが、この世界ではMMRPGの公開と同時にプレイしていもレベル40台が良いところなのだからレベル40以上からレベル60未満に当たる中級冒険者はプレイヤーの中でも上位の存在なのである。
ステータスを画面で見ることが出来なくなった今ではレベルは自己申告制なので実際は上級冒険者に当たるのだが、デバックプレイヤーとはいえ運営側だととばれてしまうと非難や命を狙われる可能性があるため低く申告している。
「あと、この装備売れるか?」
「ん――これは、中級の武器や防具じゃねか。どうしたんだ?」
「ルラと《千寿の大木》を集めているときに襲われてな――その時に残していったものだ。余りこういうのは持ちたくなくてな」
「そうか――相手はどんなやつだった?」
「仮面を付けた集団だったよ。顔は見ていないが」
「仮面の集団か――最近、報告にあった集団かもしれないな。困っていたんだ助かった」
「それでこれは、買い取ってくれるのか?」
「もちろんだ、武器や防具はあって困る事はないからな。中級ならなおさらさ。ちょっとまってな計算するから」
そういって、モーチェットから金貨5枚をを受け取る。
――思ったよりも高く買い取ってくれたみたいだ。
「ありがとう。助かる」
「いいてことさ。まあ、PK以外にも上位レベルの魔物が出たと報告もあるし気をつけな。あと…ここも大きくなってきているせいか嬢がいると絡んでくるやつがいるかもしれないから気をつけてやれ」
「?――そうか、わかった」
最後の言葉の意味がいまいち理解できなかったが、容姿のことを言っているのかなと解釈した。
ルラの容姿はハヤトが何十時間とかけてモデリングしこともあり、多くの者が美女だというである。
ハヤト自身も油断をすると理性が崩れそ手を出しそうになる程だ。
上位レベルの魔物がでるって言っていたか――
そこは問題ないだろう。
ハヤトとルラのレベルは60を超えている。
これは、ワールドガーデンが一般向けに公開される前からプレイしていたこととデバックツールで特化型を増やしたことで自分よりもレベル高い相手でも2人で効率的に経験値を稼ぐことが出来たためだ。
もし、同等のレベルだとしても特化型が2つあることにより弱点を補っているため同人数であればまず負けることはないだろう。
そして、上位レベルの魔物といってもせいぜいレベル40がいいところなのだから、レベル60を超えているハヤト達にとって相手にならない。
レベル差が20以上もあれば相手は何も出来ず、一撃に終わってしまう。
ギルドを出たハヤトはルラに提案する。
「報酬も入ったことだし飯にでもするか」
「はい」
ルラは尻尾を横にゆらゆら揺らしながら元気良く返事をする。
よっぽどお仲が空いていたのだろう。
ハヤト達はギルド近くにあった酒場のような食堂に入る。
ここの食堂は人気のようで昼食の時間帯を過ぎているにもかかわらず席の大半が埋まっている。
元の世界と比べると娯楽が少ないのも要因としてあるのかもしれない。
席を探しているとウエイターの少女がやって来て案内をしてくれる。
この少女もプレイヤーの様だがレベルが低そうだ。
低レベルのプレイヤーが冒険をしているとすぐに死ぬ可能性があるためこういった仕事をしているのだろう。
「ご注文はどうされます?」
ウエイターの少女はメニューを見せながら聞いてくる。
メニューを選ぶのに時間を掛けるのも面倒なのでウエイターに任せる。
「ここのお勧めを持ってきて」
「わかりました。今日のお勧めメニューはキャロのハンバーグとなっていますのでこちらを2つお持ちしますね」
ウエイターの少女はめんどくさい顔を見せず、慣れているかのように勧めてくる。
キャロ?――確か牛をモチーフにしたまじゅうだったかな。
「ああ、それで頼む。ルラ他に欲しいものはあるか?」
「そうですね。何かもう一品ほどあればうれしいのですが」
「そうか、ルラは肉が好きだったよな。鳥っぽい質の料理を一品追加で」
「わかりました。チキッタのステーキをお持ちしますね」
そう言うと、注文を厨房の方へ伝えにいく。
――厨房に注文を伝えに行った後、こちらへと戻ってくる。
「お客さん。珍しいね。亜人の女の子を連れてくるなんて。しかも美人。彼女?」
先ほどとは違い、なれなれしい口調になる。
暇なのか?
ルラはルラで尻尾をゆらゆらしながら頬を赤らめる。
ん?
――なんだその反応。
「いや、彼女じゃないよ。わけあって一緒に冒険をしてるんだ」
ルラがサポートキャラだったことを伏せる。
ワールドガーデンでサポートキャラを持つことが出来たのは、デバックを行っていた俺だけだ。
プレイヤーを呑み込んだゲームの運営側ばれないため秘密にしなければならない。
ルラを見るとさきほどまでゆらゆらとゆれていた尻尾が垂れている。
なんか、見てるとかわいいな。
「そっか、最近はたちの悪いプレイヤーが亜人を奴隷みたいに扱うものが出てきてるみたいだし。お客さんは彼女を助けた方かな?」
亜人を奴隷?初耳だ。
オヤジがなんか言っていたのはこういうことだったのか?
亜人を奴隷にするシステムなんてMMORPG時代には無かったはずだが――ってことはプレイヤーが力によって強制的に亜人を従えていると言う事か……
抑止力がないとこれほどまで愚かな事をするような者が出てくるんだな……
下手に勘ぐられるのも面倒な為、ハヤトはウエイターの少女の話に合わす。
「まあ、そんなところだ」
「へへへ、王子様か。かっこいいね」
そう言ってウエイターの少女は頬を頬をほころばせながら厨房へと戻っていく。
少しすると料理が目の前に運ばれ並べられる。
思った以上に量が多いな――食べられるかこんなに?
食べ切れなかったらもったいないが残しすしかないな――
ハヤトの予想を超えて、鉄板のような皿一杯に乗っけられたハンバーグをみて思う。
ハヤトが半分程食べた頃、ルラはハンバーグを食べ終えてステーキを食べていた。
よくた食べるな。
亜人だから食欲が強いのか?
と考えながらルラを見つめると目が合う。
その瞬間、ルラは目をそらし少し頬を赤らめる。
そして、何事もなかったようにステーキを食べ続ける。
やっぱり、女の子か。食欲があっても大食いに思われるのは恥ずかしいんだな。
そうハヤトは解釈する。
ハヤトが残り半分のハンバーグと格闘している内に新しい客が入ってきた。
先ほど旅から戻ってきたような薄汚れたローブ着た3人組の男達だ。
男達は、入ってくるなりこちらに視線をむける。
男の一人が近づいてくる。
「おい、ここはプレイヤーの町じゃなかったのかよ。何で亜人がいる。」
ローブの男の一人がルラの顔を舐め回すように顔や体を見てくる。
男の視線を感じルラの耳がピックっと動き手に力が入る。
「しかし――亜人にしちゃーえれべっぴんだな。どうだそんな男と一緒にいるより俺達についてこないか?俺が守ってやるよ」
この男はよほど自分の腕に自身があるのかハヤトがいるにもかかわらず、目の前ですごいことを言ってくる。
元の世界でもそのような男は見た事がない。
仮に彼氏が目の前にいる女性の前でナンパをする男なんて早々いない。
なんだこいつは?
ハヤトが目の前にいる常識外れの男を見て考えているとルラの持っていたコップにひびが入る。
「自意識過剰な屑が私に話しかけるな」
おいおい。
言いたい事はわかるが、そんな言葉で煽らなくても。
ゴミ虫を見るような目で男に言葉を返す。
しかも、いつも使っている大刀はアイテムボックスから出していないものの、ルラの右手がすぐにでも戦闘態勢に入れるように構えの体勢に入っている。
構えといっても周りの者から見てわからない様にしている。
通常はそんな構えでは決定的な一打にはならないがハヤトは知っている。
ハヤト同じ力を持つルラは小さいモーションでも確実に相手にダメージを与える事ができる。
やばい――店をつぶしてしまう。
「べっぴんだからって調子にのるなよ。お前達NPCはプレイヤーに勝てないだからな」
この男みたいにプレイヤーのレベルの方が通常は高くなるため現実世界になった今でも亜人を見下すようなやからがでてしまうのは今に始まった事ではない。
ハヤトはこの世界が現実のものとなってからいくつも見て体験してきたのだ。
この町は力で解決しようとする者達や魔獣からレベル低い冒険者を守る為に作られたのだが、町に来るものが増えてきたため上手くいっていないようだ。
これ以上、ルラを煽る事を言うなよ……。
今にも攻撃しそうなのでルラを止める。
「ルラ、こんなやつ放って置け」
「ですが――」
「ルラ」
「わかりました」
「おいおい、逃げるのか。どんだけ弱いんだ」
ルラを止めていると男が口を挟んできた。
おいおい、ややこしくするな。
これ以上いると、本当に戦闘になりそうなのでルラの手を引いて店を出て行く。
もちろん、テーブルに金を置いていく。
しかし現実となった今、自分の力を慢心している物が多くなった。
特に自分より弱いもの――元NPCを見ると差別的なほどまでに。
自分はああならないように心に決めるのである。
ルラの手を引いてしばらく歩いていると機嫌もなおった様で、今はなぜか機嫌が良い。
「ルラ、気にするなよ。ああいうやつは何処にでもいる。もし、何かしたら俺が守ってやるから」
「は、はい」
ルラは、尻尾をゆらゆら動かし答える。
「ハヤト様が私を守って……」
ルラが小さく何かを呟いている。
正直、ルラのレベルはプレイヤーだったとしても敵わない程なので守る必要はないのだが、勝手に動かれて事態を悪化させられても困るのでこういっておく。
今日は、いろいろと疲れたので早めに宿をとることにする。
「今日は疲れたし、早めに宿を取ろう」
そう言ってこの町に滞在してから使っている宿屋へに向かう。
そういえばルラと手を繋いだままだった。
手を離そうとするもルラが掴んだままで離れない。
「ルラ、そろそろ手を離してもいいかな?」
「へぇ……わかりました」
少し抜けた様な声が聞こえ、惜しそうに手をゆっくりと話す。
ハヤトはそんなルラに気がつかずに宿屋へと向かっていく。
宿屋に入ると宿屋の主人が声をかけてくる。
「いらっしゃい、てお客さんかい。あいにく二人部屋が全て埋まってしまって、今は一人部屋しか空いてないがそれでもいいかい?」
「そっか他を……」
「はい」
ルラがハヤトの会話をさえぎる。
おいおい、ルラ何をゆっているんだ。
一人部屋だと寝るところが足りないだろ。
「お客さん、他を当たられても何処も一緒だと思うよ。今は町が大きくなってきていることもあって人が多く来るようになったからね」
「そうか――じゃあその部屋で頼む。後、布団か何か別であったらそれも借りられないか?」
「あいにく別で布団は用意してなくてね。まあ、部屋は小さいがベッドは二人十分に寝れる大きさだから安心してくれ」
「そうか…」
「いつも通り宿泊代は先払いで貰えるかい。一人部屋1泊銀貨8枚と朝食や夕食を付けるなら1食につき銅貨5枚。どうする?」
「夕食と朝食を二人分付けてくれ」
「えっと――銀貨10枚貰えるか」
宿屋の主人に銀貨を渡し、部屋の鍵を貰う。
「夕食が必要になったらゆってくれ、すぐに持っていく。部屋は二回の203号室だ」
鍵を受け取り二階の部屋へと行く。
部屋を見るとベッドはセミダブル程の大きさがあった。
なんとか密着は免れそうだ。
「ルラ、先に休ましてもらう。もし夕飯時になっても起きなかったら遠慮せず俺の分まで食べてくれ」
「はい。わかりました」
そういって、俺はベットの端で横になる。
――視線を感じる。横を見るとルラがこちらをじっと眺めている。
「ルラさん、じっと見られると寝れないんだけど」
「ハヤト様、すみません。気をつけます」
そういって視線外す。
「おやすみ」
「おやすみなさい」