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ワールドガーデン  作者: 東乃純
1世界の始まり
5/26

1-1プロローグ

 目の前には樹齢数百年という大木が生い茂り、後ろには透き通ったエメラルド色をした湖。

 美しい自然とは裏腹に青年と少女は白い仮面を被る男達に鋭く尖った短剣を突きつけられていた。

 「また、襲われるのか……」

 青年は今起こっている自分の境地に脱力し、この現状に飽き飽きとしていた。

 ワールドガーデンと呼ばれるMMORPGが生と死が隣り合う現実世界となって1ヶ月程、悪質な一部のプレイヤーが暴走を始めたのだ。

 この世界では警察と呼ばれるような存在は無く力こそ全てと言っていい。

 その力の上位に存在するのがプレイヤーと呼ばれる人間なのだ。

 必然的に悪質なプレイヤーは自身の力を欲望のまま使うようになる。

 そういったプレイヤーはMMRPGだった頃からPK(プレイヤー殺し)をしていた者が多い。

 その為か現実となったこの世界でもそれを繰り返すのだ。

 その先に死と言う現実があるにもかかわらず……

 青年はそんな世界でPK(プレイヤー殺し)によく襲われるのだ。

 ――理由は単純である。

 青年と亜人(狼種)の少女しかいないからである。

 MMRPGの公開と同時にプレイしていもレベル40台が良いところだ。

 仮面の男達はレベル40まではいっていなくてもレベル30台はあるだろう、もしレベル10程の差があったとしても人数が多いほうが有利なのである。

 青年が亜人の少女を連れていたとしても大して問題にならない。

 プレイヤーから見れば亜人(元NPC)は下位の存在であり、レベル20を超えることがない者を連れている青年にしか見えないのだ。

 そんな青年と少女を今にも切りつけようとしている仮面の男達は不気味な笑え声と一緒に問い掛けてくる。


 「自分の人生を恨むんだな。俺達にかなう訳ねぇ。何処から切り刻んで欲しい?――足かぁ?――腕かぁ?」


 自分達が絶対の強者であり負けることがない存在であるかの様に……

 そんな男達を無視し、亜人(狼種)の少女が青年に話しかける。


 「ハヤト様、時間の無駄です。こんな者達、さっさと潰してしまいましょう」


 虫でも見ている様な目で仮面の男達を見ながら、その容姿からは想像が付かない程に物騒な事を言う。

 亜人(狼種)の少女は美女の中でも上位に入るだろうと思われる容姿を持ち、腰まである長い黒髪に獣耳と尻尾を付けどこか愛くるしく大人しいそうな雰囲気を持っているのだ。

 そんな少女から発せられた言葉は仮面の男達の感に触ったのか突っかかるくる。


 「NPCの癖に生意気なこというじゃねぇか。NPCじゃ俺達にかなう訳ねぇのにな。おめぇは足が立たなくなるまでたっぷりと遊んでやるからだまってな」


 上位の存在だと信じて疑わない仮面の男達はまだ知らない……

 自分達が今置かれている立場に――

 彼女が元NPCの中でも特別に作られた存在だという事を――

 そしてハヤトと呼ばれる青年もまた特別だということを――

 仮面の男達の言葉に殺意を覚え亜人(狼種)の少女は、ハヤトの意見を聞く前に行動を起こす。


 「下種(ゲス)どもが」


 亜人(狼種)の少女が言葉を吐き捨て、仮面の男達の一人に切りかかる。

 先ほどは何も持っていなかった彼女が本来使うことのできないアイテムボックスから取り出したのだ。

 それもNPCではステータス不足で持つ事も出来ない大刀を取り出し片手で持っているのだ。

 本来両手武器に分類される様な大刀は彼女の身の丈と変わらなず、刀を幾重にも重なったかという太さの物を彼女は軽々と持ち上げているのだ。

 仮面の男達は理解できない……

 下位の存在をなぶるだけのただ単純な作業の一つだと思っていたにもかかわらず、目の前には自分達のステータスでは両手で持つのがやっとだろうという大刀を元NPCが今にも振り下ろそうとしているのだ。

 男達が気がついた時には仲間の一人が真っ二つとなり、血しぶきと共に倒れていったのだ。

 それも刀が触れたであろう部分は刀で切られたとは思えない程、削り取られてしまっている。

 一撃―― 一撃で仮面の男は肉塊へと変わったのだ。

 レベル10ぐらいの差ではこんな事は起こりえない。

 我に返った仲間の一人が悲鳴を上げる。


 「ひぃぃぃぃぃぃ」


 圧倒的に強い立場にいると思っていたものがなすすべも無い弱者へと変わった瞬間である。

 ハヤトと呼ばれる青年が仮面の男達に先ほどまで集団に襲われそうになっていたと思えない程の余裕の声で話しかける。


 「まあ――諦めろ。狙った相手が悪かった自業自得だ。お前達これが始めてじゃないだろ。人を襲うって事は、自分達も襲われるって事だ。知らないでは済ませられない」


 そして圧倒的な力を見せた彼女に言うのだ。


 「ルラ、君の攻撃は後味が悪すぎるから後は見ておけ」


 ルラと呼ばれる亜人(狼種)の少女は、後ろに下がりハヤトに向かってお辞儀をする。


 「それでは、終わりにしよう」


 ハヤトは、アイテムボックスから漆黒の刀を取り出し構え、仮面の男達に終わりを告げる。

 男達の一人が魔法を唱え逃げようとする。


 《テンプシールド《一時的な防御壁》》


 男の周りにはドーム状にガラスの様な透き通った防御壁が張られるも、ハヤトは構わず横一線に切りかかる。

 魔法を使った男は時が止まったように止まり、ゆっくりと胴体が二つとなり崩れ落ち肉塊へと変わる。

 先ほどルラによって切りつけられた男と違い、こちらは切り口も綺麗なまま血しぶきを上げる事なく倒されたのだ。

 その間にも他の男達は逃げようとするが間に合わない。

 ハヤトが仲間を倒したと思った瞬間にもう一人の所に刀を構えて立っているのだ。

 そして、最後の男が気がついた時には自分以外全員肉塊へと変わっていた。


 「ま、まっ」


 男が言い終わる前に綺麗に真っ二つとなり肉塊に変わる。


 「終わったか」


 そういってハヤトは肉塊へ変わった者達をアイテムボックスに取り込みアイテムへと変える。

 この世界で死んだ物はアイテムボックスに取り込む事で死体をアイテムへ、持ち物をそのまま自分の物へと変えれるのだ。

 後処理をして少したった頃、ハヤトは呟く。


 「自業自得か……」


 先ほどまでとは打って変わり後悔しているかのように目を伏せながら呟くのだ。

 死と言う現実を持った世界で相手を倒すと言う事は人を殺すのと同義であり、ハヤトにとって絶対なる罪なのだ。

 もしかしたらこの世界でのHP0()はハヤト達の元の世界に戻る事ができる一つの手かもしれない。

 しかしログアウトできないこの世界では調べようがない。

 人を平気で殺す悪党でも殺すとなると心が割り切れない。

 いくら戦闘では問答無用に相手を倒していたとしても……

 ハヤトはPK(プレイヤーキラー)をするものを生かしておいても同じことを繰り返す事を知っているのだ。

 痛いほど十二分に経験しているのだ。

 この世界が現実世界へと変異した当初はハヤトも殺すのに躊躇い(ためらい)があった為に生かしていたが、あるときそのPK(プレイヤーキラー)を仕掛けてきたプレイヤー達に亜人の村が襲われ無残な状況になってしまった。

 男達は無残に殺され、女達は言うまでもなく(もてあそ)ばれ殺される。

 それを見たハヤトは心に決めたのだ。

 情けは与えないと――


 「ハヤト様――気になさらないで下さい。あの者たちは私達亜人も平気で殺す連中です。もしここで止めなければ他の者が大勢犠牲なったと思います」


 ルラはそう言って悲しそうな顔をしながら、ハヤトの手を両手で持ち胸にかざす。


 「もしかしたら、私達も殺されてしまうことがあるかもしれません。この鼓動が止まることも――。私はハヤト様が殺されそうになるならいくらでも潰していきます」

 「そうだな……」


 ――ハヤトは自分の手が何処にあるのかを次第に理解する。

 見る見る顔が赤くなりすぐさまルラの胸から手を離す。


 「なっ」

 「少し元気になったようですね。ハヤト様の悲しそうな顔を見るよりもそっちの顔の方がいいです」


 先ほど仮面の男達に見せていた表情は見る影も無く、まるで天使のように微笑んむ。

 彼女の笑顔を見ているとどうしようもなく男としての本能に負けそうになる。

 ルラは元々ハヤトのサポートキャラをする為だけに生み出されたのだ。

 亜人という事を除き彼女の美女の中でも上位に入るだろうと思われる容姿は全てハヤトの設定によるものだ。

 何十時間と時間をかけて基本素材から細かくモデリングを自分好みに調整したのだ。 

 そのせいか愛着が生まれ今は子供のように汚したくないという思いが強い。

 ルラもハヤトの事を父親の様に思っているに違いない――

 しかし、ハヤトも男だ。

 いくら汚したくない存在でも本能に負けそうにことはある。

 ――まてまて、ルラは苦労をかけて作った子供みたいなものだ。

 ルラだって、俺を慰めてくれるためにしてくれているだけでそういう意図があってやっているわけではないはずだ――

 そんな彼女に手を出そうなんて何を考えているんだ。

 理性を取り戻すために頭の中で必死に言い訳を作り自分に聞かせる。


 「あ――ありがとう。元気になったよ」

 「はい」


 ルラは天使のような笑顔で喜びを見せるも少しどこか寂しそうにする。




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