最後の贈り物
掲載日:2015/06/16
とある山奥に
老人が一人で住んでいた
そこは本当に山奥で
老人は本当に一人だった
老人はたくさん本を読み
あらゆる事を知っていて
山を降りれば賢人と呼ばれるような人物だった
何千、何万という本を読んでおり
世の中の出来事はほとんど知っていて
良い事も
悪い事も
昔の事も
最近の事も
分け隔てなく頭に入っていた
そんな老人の元に
二通の手紙が届いた
久しぶりの手紙だった
一通は古い友人の訃報を告げる手紙だった
葬式はとうに終わっていた
老人は一言もしゃべらず
黙ってその死を受け入れ
その死を悼んだ
もう一通はその友人からの手紙だった
長い手紙だった
そこには友人と共に過ごした
長い長い時の流れが記されていた
過ぎ去った日々が描かれていた
初めて出会った日の事
最後に別れを告げた日の事
目もくらむような楽しかった日々
激しく競い合った日々
苦悩に打ち震えた夜
暑い日差しの中の出来事
凍える夜の語らい
喜びに涙が止まらなかった時の事
何千回も告げた『また会おう』
老人は長い手紙を前にして
友人と過ごした日々を
賢人と呼ばれる前の日々を思い出した
何千、何万という本を読んできた老人は
手紙を前にして
たった一人で泣いていた
何でも知っている賢人は
友人の死を知り
涙が止められなかったんだ




