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第五節 「転ばぬ先の杖」よりも「転ばせろ」

 前節と繋がる話なのだが。これまた失敗談から始まる。


 退職のために引き継ぎをされた、とある方の話だ。


「○○しないように」が口癖の人だった。何につけてもおやつはカ○ルではなく先回りをするのだ。

「ここは、○○しないようにこうしてください」全部そんなスタンスで臨んでいた。失敗せぬよう説明をするので、引き継ぎ者の目の届く範囲では、後任の失敗は無かった(届かぬ範囲では膨大だったが)。

 私は他者の引き継ぎに極力口を出さないスタンスなので(以前に試みて、懲りた)、雰囲気だけは感じ取っていた。三ヶ月強と引き継ぎにしては長めの時間をかけた結果、どうなったかというと。


 後任の脳内に、失敗した際どうすれば良いか分からないというルーティンが組み込まれた。


 ここでなにが問題だったかというと、転んでみなければ痛みは分からないということ。痛みの解消法が分からないということ。(ツバつけときゃ治る程度なのか絆創膏を貼るものなのか包帯巻くべきなのか?)なんとなくであれど、なにをしでかしたら究極にまずいのか、また報連相のタイミングをはかると言うこと、……様々な経験を省いてしまったことだ。

 子育てではないが、転ぶ前に手を離さずに居てはいつまで経ってもその人が一人歩きを出来ない。手を離し、相手を信じ、見守ることも大切だ。相手の能力を過信せぬことも、ときにシビアに見限ることも。

 引き継ぎとは一人歩きをさせるための訓練なのだ。ましてや自分の事情に依る……。


 それと、「○○しないように」というのは某週刊少年漫画雑誌に連載中の某バスケ漫画でも言われる通りで、防止するには効果的ではない、むしろ逆効果だ。「しないように」と言われるとつい、「してしまう」リスクに怯えてしまううえ悪いイメージが残る。禁止よりかは推奨することを積極的に言うほうを推奨する。「それよりこのやり方のほうが手っ取り早いですよー」とか。


 わざと説明を省き敢えて転ばせるのも必要なプロセスだ。意地悪だなあと自覚しつつも。

 相手が作業のどの辺で躓くのか、段々と傾向が見えてくる。

 一度失敗を経験したほうが身につくというもの。二度も痛い思いをしたくないから。そのうえで、「もっと効率のよいやり方があるのよ」と実際に操作をさせる。そうすると本人も「あ確かに」と納得できる。


 これを事前に言うだけでは大概相手の記憶に残らない。


 引き継ぎが急ピッチであればあるほど後任の不理解と疑問が高まるので、少しでも腑に落ちるポイントを増やすこと。疑心暗鬼なままで放置しない。その人なりの仕事の型があるので、なにからなにまで自分色に染めるわけには行かないが、効率をあげる以上、ある程度は染める覚悟を持つこと。成果物が同じであれどプロセスはひとによって微妙に異なる。Wordの文書一つを作るにもマウスを頻繁に使う人、キーボードだけで足りる人、様々なので。


 余談だが。事務職の経歴がある割にWindowsのソフトをろくすっぱ使えず、かつタイピングだけがやけに速い人が多いというのがここ五年ほどで顕著な特徴だ。(メールSNSツイッター普及の影響か?)


 オフィスワークを志望するのならばもうちょっとスキルアップをしておいてね、というのが個人的な要望だ。

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