開けてはいけない箱
掲載日:2026/08/07
夏本番の暑さと静寂を打ち破る、少しひんやりとした怪異譚をお届けします。
祖父が残した「開かずの箱」から響く謎の鈴の音。好奇心に負けてフタを開けた瞬間、主人公を待ち受ける不可解な恐怖とは——。
ぜひ、部屋を涼しくしてお楽しみください。
セミの声が耳を刺す真夏の午後、僕は祖父の遺品整理で見つけた黒い木箱の前にいた。
フタには「絶対に開けるな」と力強い字で書かれている。だが、その中からは静かな「鈴の音」が絶え間なく響いていた。涼やかで、どこか懐かしい音色。暑さに朦朧とした頭で、僕は吸い寄せられるように鍵を外した。
パカリとフタを開けた瞬間、部屋中の蝉時雨がぴたりとやんだ。
同時に、箱の中から溢れ出したのは、鈴の音などではなく——激しい波の音と、無数の人間のあえぐような悲鳴だった。
冷気と共に部屋を満たす濁流の音に押しつぶされそうになりながら、僕は慌てて箱を閉じようとした。しかし、内側から伸びてきた湿った白い手首が、僕の腕を固く掴んで放さなかった。
最後までお読みいただきありがとうございます。
もし今夜、あなたの背後でかすかな鈴の音が聞こえても、絶対に振り返らないでください。




