恋心を消す魔法薬の使用後
「恋心を消してしまえる薬があったら良いのに……」
「そういう魔法薬があると、噂を聞いたことはありますが。本当かどうか」
メイドのその言葉に、エルベリア伯爵令嬢アリーチェは顔を上げた。
「あるの?! 恋心を消す魔法薬が?!」
「噂です」
「詳しく教えて」
「とある令嬢が、魔女の薬屋で恋心を消す魔法薬を買ったそうです。忘れられない人を忘れるためだとかで」
「それでその令嬢の恋心は消えたの?」
「消えた、という噂です」
「その魔法薬はどこの薬屋で売っているの? すぐに調べて!」
◆
「あの薬屋です」
メイドは恋心を消す魔法薬の噂について調べ、その薬を売っている薬屋の場所を突き止めてくれた。
アリーチェは早速メイドの案内で、街外れにあるその小さな薬屋を訪れた。
薄暗い薬屋の店内には、魔女という噂にふさわしい雰囲気の老婆がいた。
「恋心を消す薬ねぇ。あるには、あるが……」
恋心を消す薬はあるかとアリーチェが尋ねると、老婆は渋い表情で言った。
「本当に必要なのかい?」
「必要です」
「逃げられない政略結婚かい?」
「いいえ、婚約解消はしようと思えばできるのですが……。恋心が邪魔をするのです……」
「?」
首を傾げた老婆に、アリーチェは説明した。
「私の婚約者は別の女性に夢中になっているんです。不誠実な相手とは婚約解消したほうが良いことは頭では解っているのです……。でも私は彼を愛しているので、婚約解消に踏み切れないのです」
「親は許してくれているのかい?」
「両親は、婚約解消したほうが良いと言っています。でも私は、気持ちの整理ができなくて……」
「あんたの親は、娘の気持ちを尊重してくれるのかい?」
「はい」
「贅沢な悩みだねぇ。葡萄酒でも飲んで、浮気男なんて忘れちまえばいいだけじゃないか」
「そ、それが出来ないから悩んでいるのです……。お金ならあります。恋心を消す魔法薬を売ってください」
必死に懇願するアリーチェに、老婆は諦めたように小さく溜息を吐いた。
「解った」
アリーチェに了承の返事をした老婆は「贅沢な悩みだねぇ」と独り言を繰り返しながら、カウンターの奥にある薬棚から小さなガラスの小瓶を取り出した。
硝子の小瓶には怪しい紫色の液体が入っていた。
「一日一回、一匙飲むんだ。早ければ一回目で恋心は消えるよ。苦いからね。水かお茶にでも混ぜて飲むと良い」
「ありがとうございます!」
恋心を消す魔法薬を手に入れたアリーチェの心には、喜びと悲しみと切なさが入り混じった感情が溢れた。
◆
(これでジュリオを忘れることできる……)
アリーチェは帰宅すると、早速メイドにお茶の用意を言いつけた。
お茶の用意が整うと、アリーチェは恋心を消す魔法薬が入っているガラスの小瓶を傾けて、中に入っている紫色の液体をスプーン一杯分、お茶のカップに注いで混ぜた。
(これを飲み干せば……この恋は終わる……)
アリーチェの頭の中に、ジュリオとの思い出が走馬灯のように巡った。
◆
アリーチェがジュリオに出会ったのは、お互いにまだ十二歳だった頃だ。
アリーチェは親に連れられて行った園遊会で、やはり親に連れられて来たラゴーナ伯爵令息ジュリオと出会った。
「仲良くしてくれると嬉しいな」
綺麗な顔立ちで優しい物腰のジュリオに、アリーチェは夢中になった。
するとラゴーナ伯爵家から、アリーチェにジュリオとの縁談が持ちかけられた。
アリーチェはジュリオとの縁談に飛び上がらんばかりに喜んだ。
婚約はすぐにまとまった。
ジュリオもアリーチェと婚約できたことを喜んだ。
アリーチェとジュリオとの仲は良好で、ジュリオはずっとアリーチェに優しく、アリーチェを特別扱いしてくれた。
ジュリオの態度が変わったのは、十五歳になり王立貴族学院に入学してからだ。
「ジュリオ、劇場のチケットが取れたの。一緒にどう?」
「ごめん、アリーチェ。忙しいから行けないよ」
アリーチェが誘ってもジュリオは断るようになった。
ジュリオのほうからアリーチェに話しかけて来ることもなくなった。
誕生日や、外せない行事には、ジュリオは出て来てアリーチェをエスコートしてくれた。
だがアリーチェは、ジュリオに恋をしているからこそ気付いた。
ジュリオの心がそこに無いことに。
そんなある日。
ジュリオと、男爵令嬢プリシラ・カミロとの噂を耳にした。
ジュリオはプリシラと一緒に、劇場や展覧会やカフェで目撃されていた。
アリーチェが誘ってもジュリオは「忙しい」と言って断るのに、ジュリオはプリシラとは出掛けていた。
やがてその噂はアリーチェの両親の耳にも届いた。
アリーチェと婚約していながら別の令嬢と親密にしているジュリオに、両親は激怒して、アリーチェに婚約解消をすすめた。
「我が家から援助を受けていながら、太々しいにもほどがある」
そのときアリーチェは初めて、婚約と同時に結ばれた事業提携のことを知った。
同じ伯爵位で同格だと思っていたが、経済的な事情は違っていた。
アリーチェの家エルベリア伯爵家は、ジュリオの家ラゴーナ伯爵家に事業の援助をしていたのだ。
「アリーチェが嫁ぐのならばと今まで援助してきたが。アリーチェを差し置いて、他の令嬢にうつつを抜かしているなら話は別だ。あの恩知らずめ。この婚約は解消する。事業の提携も白紙に戻す」
「お父様、待ってください……!」
アリーチェはジュリオに恋をしていたので、ジュリオと縁を切ることができなかった。
(事業の提携をしているなら、私のことを大切にしてくれるはず……)
「もう少し様子を見たいのです」
だがジュリオの行動は改善しなかった。
アリーチェが誘ってもジュリオは「忙しいからまた今度にしてくれ」と断るばかり。
しかしジュリオは男爵令嬢プリシラ・カミロとは相変わらず出掛けていた。
(ジュリオとは別れたほうが良いんだわ。でも……)
ジュリオへの恋心が、アリーチェを縛っていた。
◆
(この苦しみも、これで終わり)
アリーチェは、恋心を消す魔法薬を混ぜたお茶を飲み干した。
(さようなら、ジュリオ)
◆
「お父様、ジュリオとの婚約を解消してください」
「おお、アリーチェ、ようやく決心してくれたか。任せておきなさい。慰謝料もたっぷり取ってやる」
アリーチェの中にあった、ジュリオへの恋心は消えた。
恋心を消す魔法薬をたった一匙飲んだけで、今までアリーチェを苦しめていた恋心はきれいさっぱり消え失せた。
アリーチェは父に頼んで婚約解消をしてもらった。
ジュリオの家ラゴーナ伯爵家は婚約解消を渋ったが、ジュリオがプリシラと二人で出掛けていることは社交界で噂にもなり始めていたので、ラゴーナ伯爵家は言い逃れは出来なかった。
◆
アリーチェと二人で話がしたいとジュリオから申し出があったが、アリーチェは断った。
(今まで私の誘いを断り続けていたくせに、急に何なの?)
ジュリオへの恋心が消えているアリーチェには、ジュリオからの誘いは煩わしいものでしかなくなっていた。
(ジュリオもこんなふうに、私の誘いを煩わしいと思っていたのね)
アリーチェは苦笑した。
今までの自分はなんて馬鹿だったのかと。
そして腹が立ち始めた。
(どうして私だけが辛い思いをしなければならなかったのかしら)
甘く苦い恋心が消えたアリーチェの中には、怒りの炎が燃え始めた。
(ジュリオはプリシラさんと恋を楽しんでいるのに。どうして私だけが魔法薬を飲んで恋心を消さなければいけなかったのかしら。裏切ったのはジュリオなのに。ジュリオは楽しんでいて、私は苦しんでいたなんて、不公平だわ)
アリーチェの部屋のテーブルの上には、紫色の液体が入ったガラスの小瓶があった。
恋心を消す魔法薬だ。
一匙で恋心は消えたので、魔法薬はまだ残っていた。
(そうだわ)
アリーチェはちょっとした報復を思いついた。
(この魔法薬をジュリオにも飲ませてあげましょう)
◆
「アリーチェ、会えて嬉しいよ」
二人で話がしたいというジュリオの申し出を、アリーチェは受けることにした。
アリーチェはジュリオを屋敷に招いた。
「そう? あなたはあまり嬉しそうな顔ではないけれど」
「そんなことはない」
ジュリオへの恋心は消えていたが、アリーチェには解った。
ジュリオにはアリーチェへの気持ちがこれっぽっちもないことが。
(親に言われて来ているのよね。事業提携を継続したいから)
アリーチェはジュリオにお茶をふるまった。
「外国製のエッセンスよ。最近これにはまっているの」
アリーチェは、香料用のガラス瓶に移し替えた恋心を消す魔法薬をエッセンスだと偽り、自分のお茶に入れてみせた。
そしてジュリオにも薦めた。
「ジュリオもいかが? 気に入ってくれると嬉しいのだけれど」
「……変わった色のエッセンスだね……」
紫色の液体をジュリオは胡散臭そうに見た。
「あら、気に入らないの?」
アリーチェは不機嫌そうな顔をして見せた。
「やっぱりあなたとは別れて正解だったわ。好みが全然合わないみたいね」
「そ、そんなことはない」
ジュリオは慌てて言い訳をした。
「初めて見るエッセンスだったから、何かなって思っただけだよ」
「嫌そうね」
「嫌じゃないよ」
「でも私と同じエッセンスを入れる気はないんでしょう?」
「……アリーチェが好きなものなら僕も試してみよう」
「まあ、嬉しい。ぜひ味わってね」
アリーチェはジュリオのお茶にも、恋心を消す魔法薬を一匙入れた。
紫色の液体が、お茶の色をほんの少し濁らせる。
「アリーチェ、プリシラのことを誤解しているようだけれど、プリシラは本当にただの友達なんだ」
言い訳を始めたジュリオに、アリーチェはお茶をすすめた。
「まずはお茶をどうぞ。冷めないうちにお召し上がりになって」
「ああ……」
ジュリオはカップを口に運んだ。
「……少し苦味があるね」
「その苦味が私は気に入っているの。あなたはその味が気に入らない? やっぱり私たちは合わないみたいね」
「い、いや、これはこれで、面白い味だと思うよ」
◆
――翌日。
「アリーチェ、たまには一緒に観劇でもしないか? 最近全然出掛けていなかっただろう?」
アリーチェが王立貴族学院に登校すると、ジュリオがアリーチェに話しかけて来た。
「男性と二人で出かけるなんて、そんなはしたないことは出来ません」
違和感を覚えながらも、アリーチェは即座に断った。
アリーチェとジュリオは同じ学院に通っているがクラスは違った。
今まではアリーチェが会いにいかなければジュリオと顔を合わせることはなかった。
だがジュリオがアリーチェに会いに来た。
(どうして?)
ジュリオの顔は、学院に入学してからずっとアリーチェに向けていた冷たい表情ではなかった。
アリーチェが出会ったころの、アリーチェに優しく、アリーチェを特別扱いしてくれていたジュリオの顔だった。
(恋心を消す魔法薬を飲ませたら、どうして昔に戻ったの?)
アリーチェは気付いた。
(もしかして……ジュリオは私への気持ちが冷めたんじゃなくて、最初から私のことなんて好きでも何でもなかった?)
アリーチェとジュリオが出会ったのは十二歳のときだ。
十二歳なら、親に「あの令嬢と仲良くしろ」と言い含められて、指示通りに行動することは出来ただろう。
ジュリオと親しくなったら、すぐに婚約の打診が来て、当時のアリーチェはそれを幸運だと、想いが通じ合ったのだと大喜びしたが。
最初からアリーチェとの婚約を狙っていたなら、手際が良かっただけのことだ。
(我が家との事業提携が目的で、ジュリオは私に近付いたの?)
「ジュリオ、あなたはもう私の婚約者ではありません。婚約者でもない異性と一緒に出かけることはできません」
「婚約してないことが問題なら、また婚約をすれば良いじゃないか」
「ご冗談を」
(今までは私が誘っても「忙しい」と断ってばかりだったのに。何なの?)
「あなたにはプリシラさんがいるでしょう。プリシラさんとお出掛けになればよろしいのよ」
「アリーチェ、やっぱりプリシラのことを何か誤解しているだろう。僕はもうプリシラには会っていない。もう誤解されるような行動は慎むと誓うよ」
「あなたのこともプリシラさんのことも、私にはもう関係のないことです。お引き取りになって」
アリーチェが、しつこく食い下がるジュリオと押し問答をしていると。
ジュリオに突進してきた女生徒がいた。
「ジュリオ、ここにいたの! やっと会えた!」
(プリシラ・カミロ……)
それは、ジュリオと二人で出かけていた男爵令嬢プリシラ・カミロだった。
プリシラは当たり前のようにジュリオの腕に自分の腕を絡めた、が……。
「カミロ男爵令嬢、離れてくれ」
ジュリオは嫌そうに眉を歪めて他人行儀にそう言うと、プリシラの腕を軽く振り払った。
「ジュリオ、どうしたの……?」
「馴れ馴れしく呼ばないでくれ」
「ど、どうしたの急に……」
「誤解されるような行動は慎みたいんだ」
「誤解って……」
言い合いを始めたジュリオとプリシラに、アリーチェは言った。
「お邪魔のようですから、私は失礼しますね」
「ま、待って、アリーチェ!」
ジュリオが何か言っていたが、アリーチェはさっさとその場を立ち去った。
「ごきげんよう」
◆
――その翌日。
「アリーチェさん、貴女、ジュリオに何かしましたか?」
王立貴族学院にアリーチェが登校すると。
今日はプリシラ・カミロがアリーチェに話しかけて来た。
「あら、貴女はどなた?」
アリーチェは、プリシラとジュリオとはクラスが違った。
婚約者だったジュリオが特別に親密にしている令嬢だったプリシラのことを、アリーチェは知っていたし、昨日もジュリオに突進して来た彼女に会った。
だが紹介をされたことはなく、昨日も紹介されなかった。
自己紹介もせず話しかけてきたプリシラの無作法に、アリーチェはしれっとした態度で返した。
プリシラはむっとした顔をしたが、自己紹介をした。
「カミロ男爵の娘プリシラです。以後お見知りおきを」
「ご丁寧にどうも。エルベリア伯爵の娘アリーチェですわ。それで? 私に何のご用?」
「ジュリオのことです。アリーチェさん、ジュリオに何をしたんですか?」
「彼とは、婚約を解消しましたわ」
恋心を消す魔法薬のおかげで、執着心をきれいさっぱり消すことが出来たアリーチェは清々しい笑顔で答えた。
アリーチェはプリシラに、真っ直ぐな質問を投げかけた。
「プリシラさんはジュリオに捨てられたの?」
「……っ!」
プリシラは顔を歪ませ、憎々し気にアリーチェを睨みつけた。
(恋心を消す魔法薬の効果があったのね)
恋心を消す魔法薬を飲んで、ジュリオのプリシラに対する態度が急に変わったなら。
それはジュリオがプリシラに恋をしていたということだ。
(私は二人の恋愛の邪魔者だったということ……)
アリーチェはプリシラの恋心も消してやりたくなった。
ジュリオとプリシラの相思相愛の恋心が、アリーチェを苦しめたからだ。
「ジュリオったら、酷い人ね。プリシラさん、私が相談に乗るわ。ここでは話せないこともあるでしょう。一度うちに遊びにいらして」
「何か企んでいるんですか? その手には乗りませんから」
警戒心をあらわにしたプリシラに、アリーチェは微笑んだ。
「あなたがジュリオとお付き合いがしたいなら、お手伝いするわ。私はジュリオにつきまとわれて迷惑しているから、あなたがジュリオと付き合ってくれたら、私は都合が良いのよ」
「自慢ですか?」
「プリシラさんが私とお友達になったら、ジュリオはプリシラさんを無下にできなくなるわ。私はジュリオには興味がないから、私を利用して良いのよ?」
「……!」
◆
「これは私が最近はまっている外国製のエッセンスよ。お茶に入れて飲むの。プリシラさんも如何?」
アリーチェはプリシラを自宅に誘った。
そしてお茶をふるまった。
「不味そうな色ですね」
アリーチェがエッセンスだと偽った、恋心を消す魔法薬を見てプリシラは顔をしかめた。
「ジュリオも飲んだのよ」
「本当ですか?」
「本当よ。『アリーチェの家で不味そうな色のエッセンスを入れたお茶を飲んだ』って言えば、プリシラさんが私のお友達になったことをジュリオは信じると思うわよ。このエッセンスのことを知っているのは、私に招かれた人だけですもの。ジュリオとの話題作りに如何」
「じゃあ……いただきます……」
恋心を消す魔法薬を混ぜたお茶を、プリシラは飲んだ。
◆
(どうしてかしら……)
翌日、王立貴族学院で。
アリーチェは腑に落ちない光景を見て、首をかしげた。
アリーチェの視線の先では。
プリシラがジュリオに言い寄り、ジュリオがプリシラを嫌がっている。
「カミロ男爵令嬢、これ以上、僕につきまとうのをやめてくれ」
「私にそんなこと言って良いの? 私、アリーチェさんとお友達になったんだから。ジュリオが酷いって、アリーチェさんに言いつけてやるわ」
「嘘を吐くな。アリーチェが君と仲良くするはずがない」
「本当よ。アリーチェさんが好きなエッセンスを入れたお茶を一緒に飲んだわ」
(プリシラさんは恋心を消す魔法薬をたしかに飲んだのに……。プリシラさんの恋心はどうして消えていないの?)
プリシラは今までと変わりなく、ジュリオに馴れ馴れしく近付いている。
(もしかして……)
アリーチェは気付いた。
(プリシラさんは恋なんてしていなかった?)
冷静に考えてみれば。
ジュリオの家はアリーチェの家より経済的に劣るとはいえ、伯爵家だ。
男爵家のプリシラから見たら、見目が良く伯爵家の跡取りであるジュリオは、結婚相手としては良物件と言える。
(プリシラさんは最初から打算で動いていたの? ジュリオはプリシラさんに簡単に転がされていたということ? ……私もジュリオに簡単に転がされていたけれど……)
アリーチェはやるせない気持ちになり、深い溜息を吐いた。
◆
「お父様、私の結婚のことなのですが……」
アリーチェは父に頼んだ。
「私の結婚相手は、お父様に決めていただきたいです」
「アリーチェ、どうした。好いた人と結婚したいと言っていたのに」
「人を見る目に自信が持てなくなってしまったのです……」
◆
――街外れの薬屋。
「ごきげんよう」
アリーチェは恋心を消す魔法薬を売ってくれた薬屋を再び訪れた。
「おや、お嬢さん。また何かご入用かね?」
魔女のような見た目の老婆は皮肉っぽく微笑んだ。
「お礼を言いたくて来たのです」
「恋心が消えてすっきりしたのかい?」
「ええ、とても。それに勉強にもなりました。やはり結婚は親が決めた政略結婚が最善ですね。恋心なんて結婚には必要ありませんわ」
「年寄りみたいなことを言うね」
「勉強をして賢くなったのですわ。ところで……」
アリーチェは朗らかに微笑んで老婆に言った。
「惚れ薬はありますか?」
「恋心は必要ないんじゃなかったのかい?」
「私には必要ありません。でも相手にはあっても良いと思いますの」
――完――




