六尾の狐は人間アンチです
日本のとある山中にある、大きな洞窟の中に、二つの影があった。
影の一つは、小柄で老人の姿をしていた。
……頭が異様に長く、角張っていなければの話だが。
その老人が、影に語りかける。
「六尾の……聞き入れてくれぬかのう。このままでは、人間と全面対決になるぞ」
六尾と呼ばれた影は、四メートルはある大きな白い狐であった。
狐は、六つの尾を揺らめかせながら、静かに答える。
「断る」
成人した女性の声で簡潔に答えた。
その言葉は、静かにそして確固とした意志を込めていた。
老人は、髪のない長い頭に手を当て、困った表情をする。
そんな老人に狐が問い掛ける。
「ぬらりひょんよ、むしろ聞こう。なぜ妾が引くと思うのか」
「……」
老人、ぬらりひょんと呼ばれた妖怪は返答が出来ず、少しの間口を閉ざす。
「お主の怒りも理解している。だが、曲げてお願いしたい。この衣装は、その覚悟の現れと思ってくれ」
ぬらりひょんは、真っ白な死装束を纏い座っている。
「……」
今度は、その覚悟を理解する狐が口を閉ざした。
しかし、徐々に怒りが勝ってきた狐が吠える。
「妾は絶対ゆるさん!今の人間どもは頭がおかしい!」
怒りのあまり、狐の威厳が崩れていく。
「マジなんなん、あいつら?妾最近やっと六本目が生えたと思ったら……!」
狐は自身の尻尾を睨みつける。
そこには、五つの白い尾と、虹色に発光する一つの尾があった。
恐怖を糧にしてきた狐は、ここ最近の人間の変わりように、逆に恐怖を感じていた。
ゲーミング仕様の尻尾は、現代を糧にした結果生えてきた異端の尾である。
「しかも、これを見ろ!」
言葉と共に、狐の身体は小さくなり、やがて着物を着た人間の少女の姿になる。
「人化の法でなれる姿が、この姿にしかなれなくなったぞ! なぜこんな、ちんちくりんな姿に!」
身長は140センチくらいの身体で凹凸も少なく、金髪でポニーテールが六つある。
「男を手玉に取っておった、細い流し目が良かったのに、なんじゃ、このクリクリとした眼は!」
怒りのあまり、少女のかわいらしい声で叫ぶ。
狐は、現代人のサブカルチャーの思念に汚染されて、ロリババア狐にされていたのだ。
怒りは収まらず、ぬらりひょんにも矛先が向く。
「お主もそうじゃ、ぬらりひょん!」
「な、なんだ?」
「昔のお主は、力も弱く、人間の家の居間に入り込むだけの妖怪だったではないか!」
少女は、ぬらりひょんを指差し、言葉を続ける。
「なんで今は妖怪総大将になっておるのじゃ!?」
「そ、それは……」
「それにこの前、お主の孫を自称する者も尋ねて来たぞ!お主、いつの間に子を作っておった!?」
「ま、まってくれ!それは自称であって、本当に儂の孫ではない!」
慌てふためくぬらりひょんに、怒りに満ちている狐が睨みつける。
しかし、見た目はロリ狐、ぷりぷり怒る姿が、癒しにしかならない。
若干ほっこりしている、ぬらりひょんに狐の目尻が吊り上がっていく。
「やはり人間は邪悪、滅ぼさねば!」
「お、おちつくのだ!」
そのまま飛び出そうとするロリ狐を、ぬらりひょんが必死に止める。
しばらくの押し問答の末、狐も落ち着きを取り戻す。
いきなり、ぬらりひょんが笑いだした。
「なんじゃ、突然?」
「いや、なに、この騒がしさで昔のこと思い出してな……」
遠い目をするぬらりひょんを見て、狐は目を細めた。
「覚えておるか?幕府のころに、鬼の主導で百鬼夜行に参加したことを」
「当然じゃ。……あの頃は妾も3尾で、お主も力のないただのじじい妖怪だったのぉ」
そして、それが二人の初めての邂逅であった。
―――まだ、徳川幕府が開かれてまもなくのころ。
「オメェら、今日は集まってくれたことに感謝する!」
大江山で開催された、鬼主催の百鬼夜行に、狐とぬらりひょんは参加していた。
現地には、大小合わせて百以上の妖怪が集っていた。
「鬼もオレを残して皆、地上から去っていった。」
この言葉にすすり泣く妖怪もいた。
「この度、オレも去ることに決めた!だから、これが最後の祭りだ、派手にいくぞ!!!」
「「「ひゃっはー!」」」
鬼の音頭に合わせ皆が叫ぶ。
その光景を、冷めた目で見つめる三尾の狐。
「なに一人で良い子ぶっておる、ノリが悪いやつだ」
声を掛けたのが、ぬらりひょんだった。
―――それが、二人の始まりだった。
「お主とは、あの時以来の腐れ縁じゃったのぉ」
「あの後、京の都を練り歩いたのは楽しかったな」
「木っ端な妖怪どもが調子に乗って、京の御所に突っ込み、結界に触れて消え行くのが見ものじゃったな」
ぬらりひょんは、笑いながら思い出を語った。
「半数以上あれで消えたからな、最後は二十鬼夜行だったな!」
語り終えた二人は、無言になり見つめ合っていた。
「あの頃は良かった。人間は我らを恐れ、敬っていた」
「時代が変わったのだ、六尾の……」
二人は、懐かしそうに、そして少しの寂しさを含め言葉を紡いだ。
「時代が変わったのは、この忌々しい尾を見ればわかる」
忌々しく、自身のゲーミング尻尾を睨む。
その後、ぬらりひょんに顔を向け、ニヤリとあくどい顔をのぞかせる。
「ふん、妾はすでに人間どもに攻撃を仕掛けておるのだぞ?」
ピクリと、ぬらりひょんの表情が一瞬動く。
「この忌々しい尾のもつ能力は、「いんたーねっと」とやらに介入できる。その力を使い、人間を混乱に陥れることも可能じゃ」
「……」
「もうすでに、戦果もあげておるわ!」
狐の勝利(?)宣言に、ぬらりひょんは苦しそうに答える。
「……六尾の。それは不特定多数をFXに誘導したり、SNSでレスバしていることではないよな?」
ギクリと、今度は狐の表情が固まる。
「な、な、な、何を言っておるのかさっぱりわからんぞ?」
「最近、SNSで大量の荒らしが現れてな、そのIPを辿ると、この何もない山奥周辺が発信源と断定された」
わかりやすく、六尾が揺れ動く。
「しかも、どこのプロバイダーも使われておらず、な・ぜ・か、凄まじい妖力だけ検出された」
「……」
「この周辺に、強大な妖力持ちはお主しかおらん。対策もしてないから直ぐにわかったぞ」
六尾が地面に力なく垂れ下がる。
「FXで溶かした人間の顔がみたかったのじゃ……」
「……は?」
「こんな尾にした人間どもの、絶望した顔がみたかっただけじゃ!妾の言葉に反論する愚か者どもを言葉で叩き伏せただけじゃ!!!」
「……」
あまりの言葉にぬらりひょんは絶句する。
「もうよい!語る言葉はすでにない!ここから去れ!!!」
「ま、待て、話を聞け!」
「この先は、力でわからせてみせよ!!!」
狐はその言葉と同時に、姿を消した。
その後、狐は人間と共生派の妖怪たちとの戦いに敗れ、その壮絶な末路は——アへ顔、Wピース、M字開脚であったとかなんとか。
めでたしめでたし
初めての短編です
狐とアへ顔で書いてみました




