プロローグ
新シリーズのプロローグです。
夜の廃墟に、女の囁き声とフクロウの鳴き声だけが響びいていた。
古びた石柱が立ち並ぶ廃墟の奥深く、月光だけが頼りとなる闇の中、ルナ・ミストウォーカーはその場に佇んでいた。長い黒いコートが風に揺れ、フードの影が彼女の顔を深く覆い隠す。だが、その瞳だけは、闇の中で妖しく光る紫色の炎のように、鋭い光を放っていた。
肩には、いつものように相棒のフクロウ、ホークアイが静かに止まっている。ホークアイの琥珀色の瞳もまた、闇に慣れた眼差しで周囲を警戒していた。彼女らの視線の先には、苔むした祭壇の中央に置かれた、仄かに輝く古文書。それは、失われたとされる古代魔法の残骸、ルナが長年追い求めてきた「ある遺物」の所在を示すものだった。
「これを見つけるために、どれだけの夜を越えてきたか…」
ルナの呟きは、月明かりの下、凍てつく空気に吸い込まれていく。かつて、魔術師として生きた日々は、今は遠い幻のようだ。家族を奪われ、自らの運命を捻じ曲げられた「事件」その日から、ルナは闇に生きることを選んだ。復讐のため、そして、二度と同じ悲劇が繰り返されないようにするため。
そして失われた魔法の真髄を手に入れるため。
古文書にそっと手を伸ばす。その冷たい感触が、ルナの決意を新たにした。これから始まる旅は、きっと想像を絶する困難に満ちているだろう。だけど、ルナに迷いはなかった。
「もう二度と、失うものはない」
月が、雲の隙間から一瞬顔を出す。その光に照らされたルナの横顔には、固い決意と、そして微かな悲しみが入り混じっていた。ルナは古文書を大事そうに懐にしまうと、再び夜の闇へと溶け込んでいった。ルナとホークアイの姿は、まるで最初から存在しなかったかのように、すぐに消え去った。




