第9話_王様ごっこは嫌いじゃない
「それでは、ノクス君――状況を聞かせてくれたまえ。」
アルトは上機嫌で立派な椅子にふんぞり返っている。
「早速ですが、我が主が創造された要塞────」
ノクス・ガルムは一瞬だけ言葉を切り、視線を玉座の間いっぱいに巡らせた。
「──ルミナス大要塞は、禁域の森の中心に完全に根付いております」
その声は低く、だがどこか楽しそうだった。
ここは第十層、最下層。
ルミナス大要塞の心臓部とも言える玉座の間だ。
天井は見えないほど高く、床は黒曜石のように滑らか。
壁には魔力そのものが結晶化した紋様が脈動しており、
呼吸するたびに空間が応える。
「うんうん。いいね、最高だ」
俺は足をぶらぶらさせながら頷いた。
正直、テンションが上がらない方がおかしい。
だってこれ、ほんの数分前まで存在しなかったんだぞ。
――――
森の王はこの世界唯一のフェンリル種とのことだ。
フィオナと同じく名前が無いらしいので、
名前を与えてあげると泣いて喜んでいた。
ちなみに、ノクス・ガルム。
その名は“夜の冥界の番犬”を意味する。
俺は話し合い――という名の互いの立場の確認を終え、
フィオナとノクスと少し雑談してから、禁域の森の中心に立った。
「じゃ、拠点作るか」
それだけ言って、創造スキルを使った。
《創造:拠点》
結果。
森が揺れ、地が割れ、しかし破壊は起こらない。
代わりに、世界が“場所を譲った”。
そうして出現したのが、このルミナス大要塞だ。
「各層の守備は?」
「第一層から第三層までは、私の配下を配置済みです。
侵入者があった場合、一歩でも足を踏み入れた時点で消し炭となります。」
「過剰戦力だなぁ」
「主様の拠点ですので」
即答だった。
ノクスも名前を授かったことで、種としての格が上がっている。
それに伴いノクスが支配下においていた禁域の森の魔物たちも
力を増しているのだ。
玉座の脇では、フィオナが苦笑している。
彼女はこの“王様ごっこ”を止めるどころか、完全に乗っかっていた。
「アルト様、かなり様になってますよ」
「そう?」
「はい。堂々としていて……その……かっこいいです」
そう言われると悪い気はしない。
七歳の体で玉座に座っている時点で、色々おかしいのは分かっているけど。
「で、ノクス」
「はい、我が主」
「これからどうするべきだと思う?」
ノクスは一瞬考えた後、片膝をついた。
「この森、この要塞、この力――
すでに主様は、誰がどう見てもこの森に留まる器ではありません」
フィオナも大きく頷く。
「そうです。国を相手にしたとしても、
アルト様の力だけで返り討ちに出来るでしょう」
「……国、か」
その言葉を口にした瞬間、不思議と胸が温かくなった。
拠点があって。
仲間がいて。
守る場所がある。
好き放題やるつもりだった。
今もその気持ちは変わらない。
でも――
好き放題やるには、土台があった方がいい。
「よし」
俺は玉座の肘掛けに頬杖をついた。
「じゃあ俺も作ろうか。国」
フィオナが目を輝かせ、
ノクスは深く頭を垂れる。
誰にも手出しできない強力な国。
仲間たちが笑って暮らせる国。
「このノクス・ガルム、命尽きるまでお仕えします」
「頼りにしてるよ」
ルミナス大要塞の奥深く。
世界の底で。今後世界を揺るがす存在が動き出す瞬間であった。
――好き放題やる。
その第一歩としては、悪くない。




