第7話_暴力は良くない。話せば解決するよね。
――玉座の間は、静かすぎた。
重い魔力が澱のように溜まり、
呼吸するたび、肺の奥が軋む。
普通なら、立っているだけで膝が笑う場所だ。
「……随分と若いな」
王が、赤黒い玉座に深く腰掛けたまま言った。
値踏みする視線が、頭の先から足元までを舐める。
「聞いていた話では、もっと化け物じみていると思っていたが」
「噂はだいたい盛られるものだよ」
俺は肩をすくめる。
「それに、見た目で判断するのは三流だ」
一瞬。
空気が、ひりついた。
右の領主――獣の血が濃い武闘派が、低く笑う。
「言うじゃないか、小僧」
「だが、ここはお前の遊び場じゃない」
左の領主は、ローブの奥から冷たい視線を投げた。
「……精霊王を従えたと聞いていたが。
それでも、ここに来るのは早計だ」
(ふむ)
役者は揃っている。
力、知、そして王。
俺は背後のフィオナに軽く手を上げ、前に出た。
「今日は喧嘩しに来たわけじゃない」
王の眉が、わずかに動く。
「ほう?」
「顔合わせと……下準備だ」
そう言ってから、俺は小さく息を吐いた。
――ほんの、少しだけ。
閉じ込めていた力を、解放する。
爆発はない。
光もない。
ただ、圧が落ちた。
空気が一段、重くなる。
次の瞬間、三人の顔色が変わった。
「……っ!」
獣の領主が膝をつく。
知将の領主は、壁に手をついて呼吸を荒くする。
王ですら、玉座の肘掛けに掴まり、立ち上がれない。
「な……に、を……」
俺は、首を傾げた。
「大したことはしてないよ。
ちょっと、抑えてた力を緩めただけ」
七歳の声で、軽く言う。
「俺、平和主義なんだ」
「なるべく戦いはしたくないしね」
視線を巡らせる。
「だからさ。
こうやって、話で解決できるなら――それに越したことは無いでしょ?」
返事はない。
あるのは、荒い息だけ。
俺は一歩、踏み出した。
圧を、さらに強める。
床が軋み、
玉座の間に、低い音が満ちた。
俺の声が、自然と低くなる。
「……でも」
目を細める。
「俺の邪魔をするなら、容赦しないから」
言葉は、短く。
だが、十分だった。
三人の意識が、完全にこちらへ縫い止められる。
数秒後。
俺は、ふっと力を引いた。
空気が軽くなる。
三人は、その場に崩れ落ちたまま動けない。
というか領主2人にいたっては気絶している。
「じゃ」
俺は踵を返す。
「また明日、来るよ~」
「良い返事、期待してるね」
背を向けたまま、手を振った。
フィオナが、少し遅れてついてくる。
彼女の表情は、畏怖と誇らしさが混じっていた。
玉座の間を出る直前、俺は思った。
(前準備は、こんなもんでいいか)
――さて。
明日は、どう出るかな?




