第6話_下準備は大事だよね。
――正直に言おう。
この赤ん坊の体は、不便すぎる。
抱えられる。
運ばれる。
勝手に守られる。
悪くはないが、主としては話にならない。
俺はため息をつき、フィオナを見上げた。
「なあ。これ、どうにかならないかな?」
「……何を、でしょう?」
「この体だ。主として動くには小さすぎる」
一瞬きょとんとしたフィオナは、すぐに目を見開いた。
「まさか……成長、ですか?」
「そうだよ……とりあえず普通に生活する分には困らない程度にっと」
《創造:成長促進》
次の瞬間。
周囲の魔力が、俺に集束する。
温かい流れが四肢を包み、視界が一瞬だけ歪んだ。
骨が軋む痛みはない。
ただ、内側から“形が合わさる”感覚。
服が、ふわりと大きくなった。
地面が、少しだけ遠くなる。
「……おお」
自分の声が、ちゃんと“少年”のものになっている。
手を見る。
指は細いが、赤ん坊の丸みは消えていた。
銀色の髪が肩に落ち、視界の端で揺れる。
「主様……」
フィオナの声が、微かに震えた。
「お美しい……」
真正面から、そう言われた。
彼女は精霊王だ。
美醜の基準は人間とは違うはずなのに、目を逸らさない。
「銀色の髪……整った目鼻立ち……。
今はまだ幼いですが……これは将来、とんでもない……」
「やめろ。恥ずかしい」
俺は咳払いして話を切り替えた。
「で。次だ」
空気が、引き締まる。
「待たせるのは性に合わない。
早速今から行く――王がいる場所へ」
フィオナは即座に跪いた。
「……承知しました。王の玉座は、禁域の最奥。
そこには――」
一拍。
「王と、残る二人の領主がいます」
なるほど。
幹部が揃っているわけだ。
「ちょうどいい」
俺が前を向くと同時に――霧が割れた。
森が、俺たちを拒まない。
むしろ、歓迎するように道を整えていく。
――――
道中、いろんな魔物が森の異物を取り除こうと襲ってきたが、
もちろん全員返り討ちにしてやった。
深層に入りさらに歩みを進めるうちに突然、空気が変わった。
重い。
澱んだ魔力が、肌にまとわりつく。
天井はないが神殿のような空間。
根と石で組まれた、歪な玉座。
そこに――王が座っていた。
そして、その左右。
異なる気配を持つ二つの影。
「……来たか」
王が、嗤う。
「新しい“主”とやらが」
俺は一歩、前に出た。
七歳の体。
だが、退かない。
「会いに来たよ」
その言葉に、二人の領主が少し眉を歪めた。
値踏みする視線。
敵意と、興味。
フィオナが、俺の半歩後ろで囁く。
「主様……」
「分かってる」
俺は小さく笑った。
(さて)
これからどうなるかな。




